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筋肉理論ガチ勢ボディビルダー、異世界で無自覚チート化 〜魔力を“超回復”と誤解した結果、とんでもない事になっていた〜  作者: 出雲ゆずる


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第30章 揺れる街道 ― 筋肉は崩落を許さない

第30章 揺れる街道 ― 筋肉は崩落を許さない


ラーニの宿場を“スクワット儀式”で安定させた翌日。


砦に、ふたたびその宿場の主がやって来た。


「た、頼むよ剛さん!

 道が……道が“変なふうに固くなったり柔らかくなったり”するんだ!」


泣きそうな顔で懇願され、

剛は腕を組んで少しだけ考え――すぐに頷いた。


「いいだろ。」


リオナは額に手を当てる。


「ええと……つまり?」


宿場主は早口にまくしたてる。


「街道の先に、ちょっとした分岐があってね。

 そこを通らないと、南の街に荷を運べないんだ。


 今までは普通の土の道だったのに、

 この二日で、馬が足を取られたり、

 逆に“浮く”みたいに軽くなったりするって皆言うんだよ!」


剛は静かに言った。


「理層の揺れが、街道にも出始めてるってことか。」


リオナは真剣な顔になる。


「観測値も、ラーニより南側で小さく跳ねてたわ。

 放っておけば、そのうち“亀裂”になりかねない。」


クァルガが一歩前に出る。


「街道が崩れれば、

 商隊だけでなく村々の食料も止まる。」


「行く価値はあるな。」


剛は、掌に握っていた小さな黒い石片――

黒理から渡された“揺らぎ計”を見た。


まだ割れてはいない。

だが、表面にごくごく薄い“亀裂の予告線”のような筋が入っている気がした。


(……気のせいかもしれん。

 でも――)


「リオナ、クァルガ。

 悪いが、また付き合ってくれ。」


「もちろん。」


「当然だ。」


オーク戦士二人も同行を申し出て、

即席の護衛隊が編成された。


街道は、一見いつも通りだった。


乾いた土。

ところどころに転がる石。

遠くに見える低い丘。


宿場主が恐る恐る言う。


「この先の“曲がり角”あたりから、

 馬が急に嫌がるんだ。」


剛は足元を意識しながら歩いた。


(砦の中より、地面が“軽い”。

 押し返す力が弱い。)


リオナも魔力の流れを探る。


「……ここまでは、まだ“普通寄りの不安定”ね。」


クァルガが周囲を警戒しつつ進む。


やがて――


「ここだ。」


剛が立ち止まった。


街道が緩やかに曲がる地点。

ぱっと見には、ただのカーブだ。


だが、剛が一歩踏み込むと――


ズ……ッ。


足裏が、さっきラーニで感じたのと同じ“嫌な沈み方”をした。


(ここから先が、まずい。)


同じ場所にリオナが杖を突き、

魔力を通してみる。


「……うん、ここね。」


彼女の表情が険しくなる。


「ラーニと同じ。

 “理の厚み”が、一段ぬるっと薄くなってる。」


宿場主が青ざめる。


「ここを荷馬車が通るんだ……

 毎日、何台も……」


クァルガが問う。


「ラーニの時のように、“踏み固める”か?」


剛は首を横に振った。


「ここは通行量が多すぎる。

 スクワット儀式をやる前に――」


言いかけたその時だった。


遠くから、

車輪の軋む音と、荷馬車の鈴の音が聞こえてきた。


「来た!」


宿場主が振り向く。


坂道を下ってくる、三台の荷馬車。

荷は大きな樽と袋。

明らかに、急いでいる。


リオナが即座に判断する。


「間に合わないわ。

 今、迂回路なんて作ってる時間ない。」


「止めに行く。」


剛は短く言うと、

街道の真ん中に立った。


「俺が“ここまで”ってラインを作る。」


クァルガが続く。


「では私は、その手前で合図をする。」


オークたちも走った。


坂を下ってくる先頭の荷馬車に向かって、

クァルガが両手を大きく振った。


「止まれ!!」


御者が驚いたように手綱を引く。


「な、何だあんたらは!?

 賊か!?」


「賊なら馬を止めさせたりしないでしょ!!」


後ろからリオナのツッコミが飛ぶ。


その一瞬――


黒い石片が、剛の掌の中で

ピシリ、と音を立ててヒビ割れた。


「――来る。」


剛は素早く街道の“危ない地点”に立ち、

脚を肩幅に開く。


(地面の“腰”が抜ける感覚。

 ここが一番薄い。)


「全員、そこから先に入るな!!」


怒鳴った直後――


ズゥンッ!


目に見えない“何か”が、

街道の下を通り抜けた。


土がわずかに浮き、

次の瞬間、一部が崩れかける。


細長い“地割れ”が、

街道のカーブに沿って走った。


先頭の荷馬車の片方の車輪が、

その割れ目に飲み込まれかける。


御者が悲鳴を上げる。


「うわあああああ!!」


剛は、反射的に前へ飛び込んだ。


「クァルガ! 馬を押さえろ!」


「任せろ!」


クァルガが馬の頭を押さえ、

暴走を防ぐ。


剛は割れかけた地面のギリギリ手前に足を踏み込み、

荷馬車の横腹に両手をかけた。


(フロー系――一瞬だけ、オン。)


呼吸を整え、

腹圧を最大まで高める。


「デッドリフトだと思え。」


自分に言い聞かせる。


脚で地面を踏み、

背中と腕で“引き上げる”。


「う、おおおおおおッ!!」


荷馬車の車輪が、

ギリギリのところで割れ目から抜けた。


土が崩れ落ちる寸前、

剛は荷馬車をわずかに街道の内側へ“押し戻す”。


御者は真っ青になりながら叫んだ。


「た、助かった……!?

 今、落ちてたら……!」


後ろの二台は、

クァルガとオークたちの誘導で

ぎりぎり手前で停止していた。


リオナは、その間にも

崩れた部分の周囲に簡易の“理補強陣”を書き込んでいた。


「これ以上、広がらないように――

 よし、こんなものね。」


全てが終わった後。


街道のカーブには、

細長い亀裂と、

土が抉れた跡が残っていた。


宿場主が膝から崩れ落ちる。


「は、半分……

 道が半分、消えかけてた……」


リオナは息を整えながら言った。


「今のが“本番の前触れ”よ。」


「理層の揺れが、

 “きしみ”から“実際の割れ”に変わり始めた。」


クァルガは剛の肩に手を置く。


「お前がいなければ、

 荷馬車ごと飲み込まれていた。」


剛は息を吐いた。


「俺ひとりじゃ無理だった。

 馬を止めたのはお前だ。」


「それに――」


剛は自分の掌を開く。


黒い石片は、

中心から斜めに大きく割れていた。


「こいつが、“ここがヤバい”って教えてくれた。」


リオナが石片を覗き込む。


「完全には砕けてない……

 ギリギリ“観測継続”のラインね。」


(――黒理の連中、

 ちゃんと“ギリギリ”で作ってあるじゃない。)


心の中だけで、

少しだけ認めざるを得ない気がした。


応急処置を終え、

荷馬車を迂回させた後。


街道脇の岩陰で、

剛とリオナ、クァルガが腰を下ろしていた。


オークたちは少し離れた場所で

追加の簡易補強をしている。


リオナが、ぽつりと言った。


「さっき――

 揺れが地面を走った瞬間。」


「一度、“散らばりかけた”のよ。」


剛とクァルガが視線を向ける。


「でも、途中で“方向を変えた”。

 あなたのいる方へ。」


剛は少しだけ考え、

静かに言った。


「黒理が言ってた通りだな。」


「揺れが、俺の周りに寄ってくる。」


クァルガが問う。


「それは――

 お前にとって、損か? 得か?」


剛は空を見上げた。


「……分からん。」


「ただ、ひとつだけ言えるのは――」


彼は視線を戻し、

まだ少し崩れたままの街道を見た。


「“どこで割れるか分からない”よりは、

 “ここが危ない”って分かってた方が、

 筋肉は動きやすい。」


リオナは思わず笑ってしまう。


「発想が完全に“現場のトレーナー”ね。」


「どこが弱いか分かれば、

 そこを鍛えるメニューを組める。」


剛は言葉を続ける。


「世界が揺れてるなら――

 揺れを“まとめて殴れる場所”があった方が、

 俺は助かる。」


クァルガは納得したように頷いた。


「その殴り合いの場に、

 俺も立ち会いたいものだ。」


リオナは少しだけ視線を落とす。


(……黒理の言った“割れる場所を選べるかもしれない”って話。


 あれを聞いた時、

 私は本気で怖かった。)


(でも――)


彼女は剛の横顔を見た。


土と汗で汚れた頬。

それでも、まっすぐ前を向いている眼。


(この人はきっと、

 “誰かが勝手に決めた割れ目”じゃなくて、

 自分で踏みに行った場所で、

 筋肉を使うんだろうな。)


リオナはゆっくりと立ち上がる。


「さ、戻りましょう。


 この道の補修プラン、

 ドルガンや村の人も含めて組み直さないと。」


クァルガも立ち上がる。


「世界の足場を鍛える作戦会議か。」


「悪くない。」


剛は、割れた石片をそっと腰袋にしまった。


(黒理。

 数字が欲しいなら、くれてやる。)


(こっちはこっちで――

 筋肉で出せる答えを、用意しておく。)


街道の先。


まだ誰も知らない“本当の崩れ”が、

少しずつ近づいている。


だが今はまだ――

筋肉が支えた一本の道が、

人と荷を通すためにそこにあった。

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