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筋肉理論ガチ勢ボディビルダー、異世界で無自覚チート化 〜魔力を“超回復”と誤解した結果、とんでもない事になっていた〜  作者: 出雲ゆずる


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第27章 白理中央会議 ― 理層に走るひび

第27章 白理中央会議 ― 理層に走るひび


王都・絶理楼(ぜつりろう) 最上層 会議殿。


磨き抜かれた白大理石の床に、

幾何紋の理陣が静かに浮かんでいる。


円卓を囲むのは、

封印派の上級魔導官と、白理討伐隊の中枢。


以前、オーク砦を半壊させたあの“白い霧”の源だ。


中央席で杖を軽く突いた老人が、

低い声で口火を切った。


封印官長――ジャルド。


「……始めよう。

 議題はひとつ。


 異界の者、神谷剛。

 次の接触で、必ず“是正”する。」


静寂が落ちる。


その一角で、白い外套の男が目を開けた。


白理討伐隊隊長――ハルヴ。


冷ややかな銀の瞳が、

円卓に投影された“戦況図”を見下ろす。


そこには、

荒野に築かれたオーク砦、

剛の推定行動範囲、

赤理と黒理の影響圏までもが記されていた。


ジャルドが杖先で一点を示す。


「前回の交戦。

 白理第一撃による“理層切断”は有効だった。」


壁が“削除された”あの光景の記録が

淡く浮かび上がる。


「だが、その後の第二撃。

 “理層圧縮”による拘束は、彼に耐えられた。」


ハルヴの視線が、わずかに揺れる。


(あの瞬間――

 確かに、筋肉が“理術に耐えていた”。)


若い官吏が資料を読み上げる。


「深層観測によれば、

 圧縮領域内の“理圧”は基準値を超えていました。


 本来なら、肉体も精神も

 即座に“平均値”まで矯正されるはずでしたが――」


ハルヴが短く言葉を挟む。


「――矯正されなかった。」


ジャルドは頷き、言葉を継いだ。


「黒理の報告によれば、

 あの男は“理層揺らぎの収束点”になっているらしい。」


別の老人が顔をしかめる。


「黒理め、また不吉な言い回しを……

 “唯一の安定点”などと。」


「実際に、深層の揺らぎは増している。」

別の官吏が補足する。


「その中心付近に、常に神谷剛がいる。

 ――偶然にしては出来すぎです。」


ハルヴは黙って聞いていた。


(揺らぎの中心。

 だが、本人にその自覚はない。


 少なくとも、戦った限りでは――

 “世界を壊そう”とする意志は、感じなかった。)


ジャルドは、あえてそこに触れなかった。


「意志の有無は関係ない。

 “意図せぬ逸脱”こそ危険だ。」


彼は指を鳴らし、

会議殿の天井へと光の陣を描いた。


白い空間に、

世界の理脈を模した大規模投影が現れる。


「これが、現在の理脈の状態だ。」


白い線が幾重にも折り重なり、

大陸の地下深くを流れている。


その一部――北方荒野のあたりに、

わずかな“濃淡”が見えた。


アラートのように。


ジャルドが説明する。


「深層に“逆流”が起こっている。

 黒理は“自然の範囲外”だと言った。」


若い官吏が恐る恐る問う。


「それは……

 過去の“理層崩落”事例と、似ているのでは?」


会議殿の空気がぴんと張り詰めた。


誰もすぐには答えない。


やがてジャルドが静かに口を開いた。


「――“似ている”からこそ、

 今回は“崩落させない”ために動くのだ。」


ハルヴの指先が、わずかに動く。


(崩落させない……

 そのために、“どこまでやるつもりだ”。)


別の官吏が、別資料を開いた。


「赤理からの非公式情報では、

 彼らは神谷剛を“協議対象”とみなす方向に動いているようです。」


「白と黒が“触るな”と言うものを、

 赤は“話せば使えるかもしれない”と考えている。」


嘲るような笑いが漏れた。


「また力の亡者どもが――」

「危険な賭けを好む連中だ。」


ジャルドが杖で軽く床を叩き、

笑いを鎮める。


「赤理の愚かしさを嘆く時間はない。」


「問題は、“次の接触”だ。」


ハルヴが口を開いた。


「……“次”を、本当に作るのですか。」


視線が一斉に隊長へ向く。


ハルヴは、

あくまで冷静な声で続けた。


「黒理の観測どおりなら、

 神谷剛は“揺らぎの収束点”だ。


 その状態で、

 こちらが大規模理術を重ねれば――」


言いかけたところで、ジャルドが被せる。


「――揺らぎを“押し戻せる”可能性もある。」


ハルヴは黙した。


(“押し戻せる”か、“押し切られる”か。

 そのどちらに転ぶか、

 誰にも保証できないはずだ。)


ジャルドは続ける。


「そこで我々は、“新しい陣”を用いる。」


会議殿の中央に、

複雑な紋章が投影される。


幾重にも重なった円と線。

白理の紋章をさらに歪ませ、

深層まで届くように“伸ばした”ような形。


「“深理同調・是正輪”。」


若い官吏が息を呑む。


「それは……

 古文書にあった“使用禁止級術式”では?」


ジャルドはあっさりと頷いた。


「過去に一度だけ試され、

 “世界の一部が剥がれかけた”とされる――あれだ。」


ざわめき。


ハルヴは、わずかに目を細めた。


「それを――

 今回は使う、と。」


ジャルドは揺るがない。


「過去の試行では、

 “収束点”が存在しなかった。」


「深層の揺らぎを抑え込むだけの“器”が

 世界のどこにも無かったからだ。」


「だが今は違う。」


彼は、異界の男の名をはっきりと口にした。


「神谷剛という“器”がいる。」


静寂。


ハルヴの胸の奥で、

何かが静かに軋んだ。


(――理を押し込む器として、

 彼を“使う”つもりか。)


「深理同調・是正輪を、

 神谷剛の周囲に展開する。」


ジャルドの声は淡々としていた。


「深層揺らぎは、

 彼を中心に“逆流する形で”流れ込む。


 同時に、白理の理術で

 その周囲の“余計な揺らぎ”を切り落とす。」


若い官吏が蒼白になって問う。


「それは……

 彼の肉体と精神に、

 とてつもない負荷がかかるのでは?」


「問題ない。」


ジャルドは即答した。


「彼は既に、

 我々の圧縮理術に耐えている。」


「その器が壊れたなら――

 それは“世界がそれ以上を許さなかった”というだけのことだ。」


(壊れたなら、それでいい、と?)


ハルヴは口には出さず、

奥歯を噛みしめた。


別の上級官が、慎重な声で口を挟む。


「しかし封印官長。


 深理同調・是正輪は、

 理脈そのものを書き換える術式。


 使い方を誤れば、

 “理層そのもの”にひびが入る危険も――」


ジャルドの視線が鋭くなった。


「既にひびは入っている。」


会議殿の天井に投影された理脈図。

その一部――北方の空間に、

確かに、細い“線”のようなものが走っていた。


アラートでも誇張でもない。

肉眼でも分かる、“異常”。


「放置していても、いずれ崩れる。

 ならば――」


「我々の手で、

 “崩れない形に組み替える”しかない。」


ハルヴは静かに問う。


「その過程で、

 何が削られるかは、問わないと?」


ジャルドは、まるで当たり前のことのように答えた。


「“理に従えぬもの”。」


「お前も白理の一員だろう、ハルヴ。」


「理を守るために、

 どれだけのものを切り捨ててきた?」


ハルヴは答えない。


代わりに、

彼の部下の一人が静かに口を開いた。


「隊長。」


若い白衛の一人が、

ハルヴにだけ聞こえる声で囁く。


「我々の役目は“執行”です。

 決定は、上が下します。」


「……分かっている。」


ハルヴは短く返した。


(だが――

 今回だけは、“執行”の重さが違いすぎる。)


ジャルドが会議を締めにかかる。


「白理討伐隊は――

 次の出動までに、“深理同調・是正輪”への習熟を進めよ。」


「隊長ハルヴ。」


「お前には、

 決戦地点への誘導と、

 術式発動の“起点”を任せる。」


ハルヴは静かに頭を下げた。


「……拝命した。」


会議は解散に向かう。


だが、

ハルヴだけはすぐに席を立たなかった。


天井の理脈図を見上げる。


そこには、

確かに“ひび”があった。


まだ小さく、

だが増え続けている線。


(このひびを塞ぐために――

 本当に、あの男の器を割るしかないのか。)


(それとも――

 器ごと、世界が割れるのか。)


白理に属する者として、

彼は答えを選ばなければならない。


だが、一人の戦士として、

ほんの僅かに別の問いが生まれていた。


(“理を守る”とは、

 本当に“こういうこと”だったか?)


――


会議殿を出て、

絶理楼の屋上へ出る。


王都の空は、

今日も美しく晴れている。


だが、

よく見ると。


ごくわずかに、

雲の縁が“逆方向”へ流れている場所があった。


風とは関係なく、

何かが空の向こうで引っ張られているような、

そんな歪み。


ハルヴはその場所から目を逸らさず、

静かに呟いた。


「……揺らぐなら、

 筋肉のように“強くなる”方向に揺げばいいものを。」


(だが世界は、

 そう都合よくはいかないらしい。)


白い外套が風に揺れる。


次に神谷剛と相まみえた時、

自分は“白理の執行者”として立つのか。


それとも――

別の何かとして立つことになるのか。


その答えを知るのは、

もうそう遠くない。


空の“ひび”は、

誰にも気づかれないまま、

ゆっくりと増えていった。

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