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筋肉理論ガチ勢ボディビルダー、異世界で無自覚チート化 〜魔力を“超回復”と誤解した結果、とんでもない事になっていた〜  作者: 出雲ゆずる


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第24章 赤の決断 ― 理を変える筋肉をどう扱うか

第24章 赤の決断 ― 理を変える筋肉をどう扱うか


赤理本部・議事室。


厚い扉が閉じられると、

外の喧騒は一瞬で遮断された。


円卓の端で、赤い外套を肩に引っかけた男が

一枚の報告書を指先で弾く。


赤理隊長――レクス。


「……やっぱり、黒理は気持ち悪いくらい当ててくるな。」


向かい側で腕を組んでいたアゼラが、

小さく笑いながら言った。


「気持ち悪い、は褒め言葉でいいのよね?

 あの人たち、一本の数字を出すのに

 何日も眠らないって聞いたわ。」


レクスは机の上の晶盤を回転させた。


そこには、黒理から共有された簡略レポート――

「深層理脈の揺らぎ」と「異界人・神谷剛」の相関についての

無機質な文字が並んでいる。


アゼラが内容をなぞるように読み上げた。


「《神谷剛の周辺では、

 揺らぎが“広がる”のではなく“寄る”傾向がある。

 原因は不明だが、現時点で唯一の“収束点”である》」


「……言い回し、相変わらずだわね。」


レクスは肩をすくめた。


「黒理にしてはだいぶ“優しい表現”だぞ。

 あいつらが本当に危ないと思ったら、

 もっと冷たく、“観測不能”の一言で終わらせる。」


アゼラは薄く笑う。


「つまり、神谷剛はまだ“観測可能”な範囲……

 少なくとも、黒理にとってはね。」


レクスは指で机をコツコツ叩きながら、

別の晶盤を開いた。


そこには白理から漏れ伝わってきた、

先の戦闘の記録がある。


「白理は“排除対象”。

 黒理は“収束点”。

 うち――赤理は?」


アゼラは即答した。


「“利用価値あり”。

 だけど、“使い方を間違えると面倒事の種”。」


レクスは満足そうに頷いた。


「その通りだ。」


彼は椅子の背にもたれ、天井を見上げる。


「神谷剛。

 理から見れば“外れ値”。

 でもな、俺たちみたいな連中から見ると――」


アゼラが言葉を継ぐ。


「“世界を一段階進ませるかもしれない、珍しいカード”」


二人の視線が交わる。


赤理は改革派だ。

理の枠を少しでも広げ、

“力の可能性”を増やしたい者たちの集まり。


だからこそ――

理から外れた存在を前にした時、

彼らは簡単に切り捨てることができない。


レクスは黒理レポートの一文を指差した。


「ここだ。」


《白理と神谷剛の再接触時、

 理層負荷の急上昇が予測される。》


アゼラが眉をひそめる。


「遠回しね。

 でもつまり、“次に衝突したらヤバい”ってことでしょ?」


「ああ。」

レクスはあっさりと言う。


「白が“消そう”とする。

 剛が“抗おう”とする。

 その間で世界が“すり減る”。」


「黒理はそれを数字で眺める。

 うちは――?」


アゼラが少しだけ笑みを深めた。


「割って入る。」


レクスはニヤリと口角を上げた。


「そういうこった。」


彼は立ち上がり、

赤い外套をきちんと着直す。


「覚えておけ、アゼラ。

 赤理は“壊す”ためにあるんじゃない。

 壊さずに変えるためにある。」


「神谷剛はその“変化”を強くしすぎるかもしれないピースだ。

 だからこそ、白にも黒にも渡せない。」


アゼラは少しだけ真面目な顔になった。


「会いに行くのね。」


「ああ。」


「力ずくで?」


「馬鹿言え。」


レクスは笑った。


「白理の真似事をしたって、

 剛みたいな奴は絶対にこちらを向かないさ。」


アゼラは肩をすくめる。


「じゃあどうやって?」


レクスは短く答えた。


「“筋肉の理屈”から話す。」


アゼラの目が、一瞬驚いてから、面白そうに細まる。


「なるほど。

 白は“理”で縛ろうとした。

 黒は“数字”で距離を測った。

 じゃあ赤は――」


「“一緒に、どう鍛えるか”から始める。」


レクスは窓の外を見た。


遠くの空が、うっすらと揺れている。

雲の形が、ほんの僅かに歪んで見えた。


アゼラが気づき、顔をしかめる。


「……ここからでも見えるようになってきたわね。

 空の“ゆらぎ”が。」


「黒理が言ってた“深層の逆流”ってやつか。」


レクスは空をにらみつけるように見上げた。


「世界が疲れてるのか、

 誰かが無茶をしたのか、

 その両方か。」


「どっちにしろ――

 “元に戻す”だけじゃ足りない段階に来てる。」


アゼラが横目でレクスを見る。


「だから、剛を選ぶ?」


「違う。」


レクスは首を振った。


「剛“だけ”を選ぶんじゃない。

 この世界が自分で立ち直る形を探す。その中に剛も置く。」


「そのために、まずは話してみる。」


アゼラは小さく笑った。


「赤理らしいわね。

 面倒くさいし、遠回り。」


「だが一番、燃えるだろ?」


レクスは笑うと、椅子の背に立てかけていた槍を手に取った。


「白が理を守ると言うなら、

 黒が理を測ると言うなら――」


「赤は、“変わる理”の味方をする。」


アゼラが静かに頷いた。


「じゃあ――行ってらっしゃい、隊長。

 神谷剛がどんな“筋肉の理屈”で動いてるのか、

 ちゃんと聞いてきて。」


レクスは軽く片手を挙げ、

議事室を後にした。


白と黒がまだ距離を測っている間に――

赤だけが、一歩前へ踏み出すために。

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