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筋肉理論ガチ勢ボディビルダー、異世界で無自覚チート化 〜魔力を“超回復”と誤解した結果、とんでもない事になっていた〜  作者: 出雲ゆずる


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第21章 「小休止 ――火のそばで」

第21章 「小休止 ――火のそばで」


砦の外れ。

簡単に組まれた焚き火のそばで、夜が落ち着いていた。


誰も喋らない時間が、しばらく流れる。


最初に口を開いたのは、リオナだった。


「ねえ、剛」


「ん?」


「さっきから……その腕、触ってるけど」


剛は何でもないように答える。


「ああ。動きの確認だ」


「休憩中よ?」


「休憩中だからだ」


リオナは一瞬黙り、すぐに呆れた顔になる。


「……あなた、昔から

“休む”を“何もしない”って意味で使ってないでしょ?」


剛は小さく笑った。


「筋肉は、休み方で差が出るからな」


「はいはい、筋肉語ね」


だが、言い切る声はもう刺々しくない。


少し離れたところで、

ドルガンが腕を組んで剛を見ていた。


「……剛」


「どうした」


「お前、

 力が落ちたか?」


空気が、一瞬だけ張る。


リオナが言いかけたが、言葉を引っ込めた。


剛は正直に答える。


「単純な出力なら、前より上がらねぇ」


ドルガンは唸る。


「だが……」


剛は焚き火に視線を落としたまま続けた。


「力が“散らばらなくなった”」


ドルガンは、その意味を測るように沈黙し、

やがて、低く笑った。


「……なるほど」


「斧を振るとき、

 一点に重さを集められる感覚か?」


剛は顔を上げる。


「近いな」


ドルガンは満足そうに頷いた。


「それは弱くなったと言わん」


「戦士は、

 最後は“通った力”で勝つ」


リオナが目を丸くする。


「ドルガンまで筋肉翻訳しないで」


その時、静かに割って入った声があった。


「剛」


獣人のクァルガだ。

壁に背を預け、尻尾を揺らしている。


「前は、

 “もっと強くなりたい”って顔だった」


「今は?」


「……地図を描いてる顔だ」


剛は少しだけ考え、肩をすくめた。


「行ける距離が分かっただけだ」


クァルガは牙を見せて笑う。


「いいな、それ」


「無限じゃないって分かると、

 選択が丁寧になる」


リオナは焚き火をつつきながら言った。


「普通は逆よ」


「限界が見えたら、心が折れる」


剛は即答した。


「折れるのは、

 “伸びる前提”で考えてるからだ」


その場が静かになる。


「使えるものが分かれば、

 やることは減る」


「減った分、

 迷わなくなる」


ドルガンが、低く笑った。


「……いい休みだな」


リオナは小さく息を吐く。


「ほんとにね」


「体は止まってないのに、

 気持ちが落ち着くなんて」


焚き火が、静かに爆ぜた。


剛は拳を軽く握り、開いた。


「十分だ」


「次、動ける」


リオナが顔をしかめる。


「“もう一泊”って言葉、知ってる?」


剛は少しだけ困ったように笑った。


「それは……戦況次第だな」


彼らはまだ知らない。


この“静かな小休止”が、

この旅で最後になる可能性を。


夜は穏やかに、

しかし確実に短くなっていった。

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