◆ 黒理補佐・カガミ 「映るもの、映さないもの」
◆ 黒理補佐・カガミ
「映るもの、映さないもの」
世界は、いつも歪んでいる。
ただ——
その歪みを「見てしまう者」が、少ないだけだ。
カガミは、浮遊した理式盤に指を走らせた。
白の線。
赤の線。
黒の線。
そしてその中心にある、
異物のような二重線。
(……やはり、固定されない。)
数値では測れない。
式に落ちない。
理脈に流そうとすると、
逆に“こちら”が引っ張られる。
「厄介ですね。」
呟きは、クロウに向けたものだった。
「白理の第二撃。
整列アルゴリズムに、
自己修正で追随してきました。」
クロウは、羽を一枚落としながら答える。
「予想より、少し速かった。」
それは褒めるようでもあり、
困ったようでもあった。
カガミは理式盤を閉じる。
「彼は、理を拒んでいません。」
一拍。
「……従ってもいませんが。」
クロウは微笑んだ。
「だから“外”なんだ。」
カガミは視線を落とす。
観測官として、
感情は不要なはずだった。
けれど。
(なぜ――
世界は、彼を削りきれない?)
白は排除しようとする。
赤は変えようとする。
黒は測ろうとする。
けれど彼自身は、
ただ身体を整え、
負荷を受け止めているだけ。
それだけなのに。
「クロウ。」
カガミは、ほんの僅かためらってから言った。
「もし彼が――
最後まで“自分の形”を保ったまま、
こちら側に干渉し始めたら?」
クロウは即答しなかった。
その沈黙が、
答えそのものだった。
やがて、静かに言う。
「……その時は、
観測は終わる。」
カガミは息を呑む。
「名を、与える必要が?」
「いいや。」
クロウは首を振った。
「与えた瞬間、
もう遅い。」
空間の向こうで、
白い理が蠢いている。
第二撃の“結果”が、
もうすぐ確定する。
カガミは最後に、
もう一度だけ、異界人を見た。
(……あなたは、
世界を壊すのではない。)
(ただ——
世界が、あなたに耐えられるかどうか。)
黒理補佐・カガミは、
その答えを記録する準備をした。




