13.5章 「黒の観測者 ― 理の影で羽ばたくもの」
「黒の観測者 ― 理の影で羽ばたくもの」
荒野の夜は静かで、その静寂は“観測”に向いていた。
岩壁の影に、ひとりの黒衣の男が立っている。
黒理観測官――クロウ。
黒理の衣は“魔力の揺らぎを吸収する布”だ。
光も気配も消し、存在すら薄める。
つまり、
彼は世界のどこにでも「いないふり」をして立てる。
クロウは空に浮かぶ赤い裂光を見上げながら、
小さく呟いた。
「白理が退き、赤理が出張ってくる……
それだけで、世界線が二段階ほどズレる。」
彼は懐から黒い羽を一枚取り出し、指先で弾いた。
羽はゆっくりと舞い、風のない夜に吸い込まれる。
「……さて。
“異界の筋肉”は今、何を考えている?」
視線の先には、剛とレクスが対峙している。
レクスが剛を勧誘し、剛が「話だけ聞く」と答える。
クロウの口角が薄く上がった。
「白理なら激昂しただろう。
赤理は喜んで引き入れる。
だが黒理は違う。」
羽が地面に落ちる瞬間――
世界の“理線”が微かに揺れた。
クロウは膝をつき、地面に触れる。
「……筋線。
生命の“動きの理”そのもの。」
剛の存在から伸びる理線は、他の者とは明らかに違う。
普通の存在は“単一の理線”で世界に繋がる。
だが剛は――
“二重の理線”で世界と結ばれている。
クロウは瞼を閉じ、呟いた。
「筋肉という“物理の理”と……
魔力という“世界の理”。
その二つを同時に食い、同時に吐き出す器。」
剛が持つ理外性を誰よりも早く理解しているのが、
この黒理だった。
クロウは立ち上がり、
剛たちの会話を静かに聞き流す。
レクスが言う。
「赤理へ来い。」
剛が返す。
「ポージング文化はあるか?」
リオナの叫びも含め、
クロウは全て冷静に観測していた。
「……異界の者は、常に“筋肉と感情”で動く。
この世界の誰よりも、理から遠い。」
だが彼は続ける。
「だからこそ――
“理を更新する者”として最も適している。」
黒理の思想は、白理や赤理とは異なる。
白理:理の維持
赤理:理の破壊と更新
黒理:理の観測
その目的はただ一つ。
「世界が崩壊する前に、正しい“変化の傾向”を見極めること」。
剛の存在は、観測対象として異常に重要だった。
クロウは小さく笑った。
「白は恐れ、赤は欲しがる。
どちらも視野が狭い。
私は観測するだけでいい。」
黒衣が風に揺れたように見えた瞬間――
クロウの姿は、もうそこにはなかった。
だが夜空に舞った黒い羽だけが、
彼が確かにそこに“いた”という証だった。
そして同時に、
彼がこの世界の運命を左右する
“最も見えない存在”であることの証でもあった。
「神谷剛。
あなたはどこへ向かう……
理外器の器よ。」
黒理の観測は続く。
世界が崩れるその瞬間まで――。
◆【12.5章・後書き】
黒理視点で描いたサブ章でした。
白理・赤理と違い、黒理は“動かず見守る”ことで世界の流れを掴む組織です。
剛の存在をどう見ているのか、読者が理解しやすくなる章です。
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白理・赤理と違い、黒理は“動かず見守る”ことで世界の流れを掴む組織です。
剛の存在をどう見ているのか、読者が理解しやすくなる章です。
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