第12章:白い霧の根源
王都最深層で動き出す白理討伐隊。
彼らが守るのは正義ではなく“理”——
世界の均衡そのもの。
剛の存在を脅威と見なした白理が、
ついに本格的な出撃を開始する。
これは、敵として現れる彼ら自身の物語。
◆ 「理を正す者たち」
王都・魔導省最深層。
外界から隔絶された白大理石の部屋には、
冷たい光が静かに揺らめいていた。
光源は1つ。
“理核”と呼ばれる巨大な白い結晶。
その前でひざまずく六人こそ、
世界で最も理に近い位置に立つ精鋭——
白理討伐隊。
彼らの呼吸は穏やかで、
脈拍は規則正しく、
心の揺らぎは皆無。
それが彼らの誇りでもあり、呪いでもあった。
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◆ ハルヴ(隊長)、理核の前に立つ
隊長ハルヴは白い外套を揺らし、
結晶を静かに見上げる。
「……また“揺らぎ”が増えたな。」
部下の少女・シレンが問う。
「異界の者の影響でしょうか?」
「恐らくな。」
ハルヴの声に怒りは無く、ただ分析だけがあった。
「筋力の上昇が、理層を乱すとは……
人の肉体とは、かくも危険なものか。」
「ですが隊長、彼は魔術を使っていません。
肉体の反応だけで、魔力を置換しています。」
「それが問題なのだ。」
ハルヴは淡々と言った。
「魔術師は魔術の限界を知る。
だから予測できる。
だが、肉体の限界値は個体差が大きすぎる。
“未知”は最も危険だ。」
その言葉に、部下たちは静かに頷いた。
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◆ 白理の理念 ― 感情を捨てた者たち
白理隊員のひとり、老練の男ザイランが囁く。
「……世界は、理の上に成り立つ。
それを壊す者は、たとえ善良でも脅威。」
シレンが眉を寄せた。
「でも……本当に彼を“消す”必要がありますか?
報告を読む限り、ただ真っ直ぐな人のように……」
ハルヴが振り返る。
「シレン。
お前は優しいが、それは白理には不要だ。」
「……はい。」
「我々は“害の芽”を摘む存在。
善悪ではなく、効率と安定で判断する。」
ハルヴはゆっくりと目を閉じた。
「異界の男、神谷剛。
その存在は確かに強く……しかし不安定だ。
世界が揺らぐ前に、止めなければならない。」
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◆ 黒幕との密談 — 王国上層の恐怖
白理討伐隊に向けて、
魔導省の高官ヨルネスが現れた。
「ハルヴ隊長。
王は非常に恐れておられる。」
「恐れ……? 陛下が。」
「“人間が魔力を使わずに理に干渉する”——
それは魔導文明を根底から覆します。」
ヨルネスは低く続けた。
「魔術師がトップに立つ王国の……
“力の序列”を崩す存在なのです。」
ハルヴは静かに頷いた。
それはつまり——
神谷剛が生き続ける限り、
王国の支配構造が崩れるということ。
だから排除する。
それが白理の任務だった。
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◆ 白理討伐隊、荒野へ移動開始
ハルヴは部下たちに告げた。
「全員、出るぞ。
荒野北部に異界の者の痕跡あり。
“存在監査”を実施する。」
その声に迷いは無かった。
シレンがそっと問う。
「……もし戦うことになったら?」
「当然、排除だ。」
「しかし……彼の力は未知数。
理術が効かない可能性もあります。」
「だからこそ我々が行く。
世界の綻びは我々が正す。」
ハルヴは白い杖を手に、歩き出した。
白い霧が足から立ち上がり、
六人の影を飲み込む。
彼らは感情を捨てている。
しかし——
ただひとつの誤算があった。
シレンだけは、
剛の“ただ鍛えているだけ”という報告書に
微かな興味を抱いていた。
それが後に、
白理の均衡を大きく揺るがすことになる。
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◆ 白霧の誓い
白い霧が王都を離れ、
荒野へと伸びていく。
その中心でハルヴは低く呟く。
「神谷剛。
お前がどれほど強くとも……
我々は“理”そのもの。」
「理は筋肉に負けぬ。」
霧は揺れ、荒野を覆い尽くしながら進んでいく。
白理討伐隊、出撃。
次に彼らが姿を現す時——
世界の理がひとつ、書き換わる。
白理側から見た視点の章でした。
彼らの価値観と恐怖が、物語をさらに深くします。
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