第11章:理の狙撃者たち vs 筋肉 ― 第二戦
白理との初戦から一夜。
剛は“ポージング”で魔力の流れを読む力を掴み始める。
そこへ再び、白い霧が迫ってきた。
第二戦が始まる。
白理隊長・ハルヴが杖を地に突く。
「異界の者、神谷剛。
ポージングによる魔力干渉を確認。
理の均衡を揺るがす“外側の器”と判断。
ここで排除する。」
剛は後ろにいるリオナとクァルガを見た。
「二人とも、下がってろ。
直線で来る。」
ハルヴが動く前に、剛が呟いた。
「《フロント・ダブルバイセップス》」
リオナ:「剛!?こんな距離でポーズ取ってどうするのよ!?」
ハルヴの扇状に広がる理術の線が、剛の周囲に描かれた。
剛はその“削る方向”を、
筋肉の繊維で読み取った。
「そこだ。」
剛は一歩横に跳んだ。
理断の線が、丁度そこに落ちた。
クァルガが絶叫した。
「避けた……!!
理術を……“見て”避けた……!!」
ハルヴは初めて眉を動かす。
「……読み切った、だと?」
剛は肩を開く。
《ラットスプレッド》
魔力が吸い寄せられ、
剛の背中を包むように光を帯びる。
ハルヴ:「魔力を……防御に転換……?
いや……理術の“負荷”を筋肉で処理しているのか……!」
次の瞬間、白理の狙撃士・カレドが空へ跳んだ。
「隊長、観測完了。
削除点、定めます。」
彼が指を弓のように構えると――
空間そのものが“捻じ曲がる”。
リオナは叫ぶ。
「剛! それ“理狙撃”!!
空間を狙って撃つから、回避不可能よ!!」
剛:「なら……」
呼吸。
肩の開き。
胸郭拡張。
そして――
《モストマスキュラー》
筋肉が地響きを立て、魔力を巻き込む。
理狙撃が放たれた瞬間、剛の近くに
“魔力の渦”が生まれた。
空間の軌道が少しだけズレる。
剛はそのまま横に跳んだ。
狙撃は地面を削り、焦げた痕を残す。
リオナ:「剛ッ!
今の、ポージングで軌道ずらしたの……!?」
剛は短く答えた。
「魔力が流れる方向が見えた。
収縮のタイミングを合わせた。」
ハルヴの目が鋭く光った。
「……恐ろしい。
理を“筋肉で”計測している……
こんな存在、許されるはずがない。」
ハルヴが手をかざす。
白理の四名が、一斉に動いた。
⸻
◆四方向からの“理断”同時攻撃
上空からカレドの狙撃。
左右からレーンとヨルファの理断。
そして前方からハルヴの本命。
四方向から“削除線”が迫る。
リオナ:「剛ッ!!避けられない!!
四方向同時は理術兵団の必殺陣形よ!!」
剛は静かに目を閉じた。
呼吸を整え、
胸を晴らし、
脚を地に固定する。
「……全部、感じる。」
クァルガ:「感じるのか……!? この混乱の中を!?」
剛は低く呟いた。
「《フロント・ダブルバイセップス》——収縮開始。」
魔力が押し寄せる。
「《ラットスプレッド》——背中の流れを読む。」
空気が震える。
「《モストマスキュラー》——全身で、押す。」
四方向の理術が、剛の周囲で
わずかに“外へ逸らされた”。
リオナ:「うそ……
全部はね返した……!?
剛……あなた……」
クァルガ:「理術を筋肉で制圧した……戦士の形が……ここにある……!」
ハルヴは絶望にも似た声を漏らした。
「……異界の者……
あなたは本当に、“理外器”……
理を外れ、理を超え、理を再定義する者……」
剛は一歩前に出る。
拳を握る音すら響く。
「理がどうであれ……
俺の筋肉は……裏切らねぇ。」
ハルヴが叫ぶ。
「撤退だ!!
この存在は……単独では制御できない!!
次は“本隊”で来る!!」
白霧が一気に濃くなり、
白理討伐隊は消え去った。
霧が晴れたあとには、
荒野に立つ剛たちだけが残った。
リオナは崩れ落ちるように地面に座る。
「剛……
あなた……
もはや……“魔力”でも“人間”でも説明できない……」
クァルガは両手を合わせ、深く頭を下げた。
「剛よ……
儂は……あなたを……
“筋皇”と呼ぶ。」
剛は苦笑した。
「やめろよ。
ただのトレーニーだ。」
リオナは涙を拭き、少し微笑む。
「……ただのトレーニーが……
理術六連撃をはね返すわけないのよ。」
剛は拳を握り、朝日を見上げた。
“次は、本隊が来る。”
物語は――
さらに大きな戦いへ進む。
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