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筋肉理論ガチ勢ボディビルダー、異世界で無自覚チート化 〜魔力を“超回復”と誤解した結果、とんでもない事になっていた〜  作者: 出雲ゆずる


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第10章「沈んだ都の核心 ― 筋と理の交差点」

古代遺跡ノーク=レムの核心へ。

剛たちは“重さ・形なき負荷・記憶の反響”という古代族の試練を突破し、

ついに“理と筋肉が同位に扱われた領域”へ足を踏み入れます。


 地下遺跡ノーク=レムの最深部へ続く通路は、静寂そのものだった。

 足音が響くたび、壁に刻まれた紋様がわずかに脈動し、青い光が揺れる。


(……やっぱり負荷の質が変わってる)

 剛はそう感じながら歩いていた。


 重いのに、軽い。

 軽いのに、芯だけ重い。

 まるで“誰かにフォームを矯正されている”ような奇妙な感覚だ。


「剛。」

 リオナの声が後ろから届く。「ここは、“理の書き換え跡”が残ってる場所。

 魔力より根本の……世界の仕様書がいじられた場所なの。」


「仕様書?」と剛。


「そう。“こう動け、こう落ちろ、こう存在しろ”っていう指示書。

 古代族の一部は、それを研究してたって資料が残ってる。」


 剛は歩きながらゆっくり頷いた。


「……なるほどな。」


「いや、分かってないでしょ!?」

 リオナが額を押さえる。「今の“なるほど”は絶対分かってない声!」


「筋肉で理解してるから大丈夫だ。」


「その理解方式で全世界を見通さないで!!」


 ツッコミの応酬。

 だが、皆の緊張は少し和らいだ。


 


■ 第一の間 ― “重さの試練”


 通路の先がひらけ、円形の広場に出た。

 床には細い線が蜘蛛の巣のように走り、中央には大きな石の板。


 クァルガがそれを見て眉を寄せる。


「……“重さを測る台”だな。」


「測る?」と剛。


「古代族は、“存在の重さ=価値”として扱っていた。

 魔力、心、肉体……すべてを“負荷”で評価した。」


 リオナが補足する。


「重さをかけすぎても壊れ、

 軽すぎると反応すらしない。

 “均衡点”に立てる存在だけが奥へ進める仕組みよ。」


 ドルガンが鼻息を荒くする。


「面倒くせぇ仕組みだな。」


「でも、やることはシンプルだ。」

 剛は中央の板に足を乗せた。


 ――ギィ……


 空気がわずかに重くなる。

 筋肉に、重心に、体幹に、じわりと圧が入る。


(……来たな、この感じ)


 スクワットで“丁度いい深さ”に到達したときの、

 あの、空気の重さに近い。


 リオナが観察しながら呟く。


「重すぎても軽すぎてもダメ……

 あなた、絶妙に反応してる。

 まるで——そのために鍛えてきたみたいに。」


「鍛えてきたからな。」


「そこでドヤ顔するのやめて!」


 やがて板の周囲が青く光り、

 石柱がゆっくりと横に割れていった。


「……通過だな。」とクァルガ。


 剛は静かに頷いた。


(理の“重さ”と、筋肉の“重さ”は……近いのか?)


 


■ 第二の間 ― “形なき力への耐性”


 次の間は、何もなかった。


 広間。

 床、壁、天井、全てが白い。


「魔力反応がない……?」

 リオナが戸惑う。


 剛は自然に構えを取った。


(だが、何かいる)


 目に見えない圧。

 喉の奥に引っかかる空気。

 重さも痛みもないのに……筋肉だけがざわつく。


 ドルガンが剣を抜こうとするが――


「動くな。」

 剛が即座に制止した。


「ここにいるのは……敵じゃない。

 “形のない負荷”だ。」


「形のない……負荷?」

 リオナが聞き返す。


 剛は静かに胸を張った。


「トレーニング中、意識だけで筋肉に負荷を乗せるときがある。

 イメージトレーニングとか、フォームの再現とか。

 ……その感覚に似てる。」


 リオナは驚愕する。


「まさか……“理の残留意識”を筋肉で見抜いてるの……?」


「意識じゃなくて、筋肉だ。」

 剛は薄く笑った。


「筋肉は嘘つかねぇ。」


「……ほんとに世界を筋肉で理解していくのね、あなた。」


 その瞬間、

 目に見えない“線”が剛の身体をかすめた。


 クァルガが叫ぶ。


「剛、危ない!」


「大丈夫だ。」

 剛は微動だにしない。


 胸・肩・背中……

 筋肉の収縮で、影のような圧力を弾き返していた。


(……この空間は、“意志の強さ”を測っている)


 やがて圧がゆっくりと薄れ、

 床に刻まれていなかったはずの紋様が浮かび上がった。


 壁が横へ割れる。


「……二つ目、突破か。」

 ドルガンが息を吐く。


「剛、あんた何者なのよ……」

 リオナが呆れ混じりに言った。


「鍛えてる者だ。」

 剛は真顔で返した。


「その答え、万能すぎるのよ!!」


 


■ 第三の間 ― “記憶の反響”


 最奥へ続く階段を降りると、

 広間中央に、黒い水鏡のような円盤があった。


 その上で、青い光が揺れる。


 クァルガが眉をひそめる。


「……“記憶再現の台”だ。

 触れた者の過去、想い、強さ……

 全てを映す古代の装置と聞く。」


 リオナが息を呑んだ。


「ここは……

 あなたの“核”を試す所よ、剛。」


 剛は静かに円盤の上に立つ。


 次の瞬間――

 ホール全体が白い光に包まれた。


 


■ 映し出されたもの


 まるで夢の中。


 剛は、懐かしい匂いを感じた。


 鉄。

 汗。

 ゴムの床。


 ――ジムだ。


 そこに立つのは、若い自分。


 軽量のバーベルを握りしめ、

 必死にフォームを真似しながら、

 何度も何度も失敗している少年時代の剛。


(……懐かしいな)


 “世界チャンピオンになる”なんて言ってなかった頃。

 ただ、鍛えるのが楽しかった時代。


 リオナたちにはその映像が“空間に浮かぶ幻”として見えている。


「これが……剛の記憶……?」

 リオナは目を見開く。


 クァルガも呟く。


「こんなにも、純粋に……鍛えていたのか。」


 ドルガンの目にも涙がにじむ。


「本物の戦士だな……」


 映像の中の少年剛は、

 何度失敗しても諦めず、

 何度フォームが崩れても笑顔で立ち上がる。


 大人剛は静かに呟いた。


「筋肉は……嘘つかねぇ。

 だから、裏切らなかった。」


 その瞬間、

 水鏡が青く輝き、

 広間全体が光に包まれた。


 静かな声が響く。


《……認めよう。

 汝の“在り方”は、理の枠を壊すものにあらず。

 ただ、鍛え続ける者の道であると。》


 リオナが涙ぐんだ。


「……すごいわ剛。

 あなたは……古代族の“誠実性の試練”を突破したのよ。」


 剛は静かに頷いた。


「鍛えてきたからな。」


「そこまた言うの!?」


 


■ 遺跡の中心 ― “理と筋の同位面”


 光が収まると、

 広間の奥に新たな扉があった。


 扉の前、複雑な紋様が浮かび、

 中央には“古代文字による一文”が刻まれている。


 クァルガが近づき、読み取る。


「“ここより先は、理と肉体が同位に立つ場所”……

 そう書かれている。」


 リオナが息を呑んだ。


「同位……

 つまり、理と筋肉の力が“同じ高さに置かれる”領域よ。」


 剛は静かに扉へ手を伸ばした。


「なら――

 俺の筋肉、ちゃんと届くか確かめよう。」


「試すつもりなのねあなたは!!

 世界の理にケンカ売りに行くの!?!?」


 剛が扉に触れた瞬間――


 空間が震えた。


 光が収束し、扉の向こうに“青白い世界”が開く。


 


■ その頃、遠く絶理楼では――


 白理隊長ハルヴが立ち上がる。


「……動いたな。

 理と肉体の同位面。

 あの遺跡を起動できる者など、本来いるはずがない。」


 副官セツナが報告する。


「反応源、遠隔観測では“人間型”。

 名前……照合されました。」


《神谷剛》


「またか。」

 ハルヴの声が静かに落ちた。


「理の再計算を開始。

 白理討伐隊は準備に入れ。」


 窓の外――白い霧がゆっくりと湧き上がる。


「今度こそ、理の外側に踏み出させはしない。」


 


■ ― そして剛たちは、扉の向こうへ。


 青い光が満ちる部屋へ足を踏み入れる剛。


 筋肉が、熱く脈打つ。


(……来いよ。

 俺の筋肉と、お前の理。

 どっちが正しいか、確かめよう)


 その背後を、

 仲間たちがしっかりと追いかけていた。

読んでくださってありがとうございます。

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