外伝 覚醒の白炎 第14話『集え八つの魂、奇跡の超新星』
バーニングレッド・オメガの魂を燃やす一撃、《バーニング・ノヴァ・オメガ》は、確かにエルゴス・シュタインの異形の巨体を貫いた。サンクチュアリ・ゼロの歪んだ空間に、一瞬の静寂が訪れる。誰もが、今度こそ永きに渡る悪夢が終わったのだと、そう信じかけた瞬間だった。
しかし、その期待は、エルゴスの底なしの狂気と、宇宙の理すらも歪める執念によって、無惨にも、そして絶望的に打ち砕かれる。
『フフフ……ハハハ……ハハハハハハハハハハハッ!!! 見事だ、見事だぞ、忌々しい虫けらども! まさかこの私に、この宇宙の真理たる形態、エルゴス・アブソリュートとしての姿を解放させるとはな! 褒めてやろう! お前たちは、私の新たなる宇宙の誕生を祝う、最初の、そして最後の、最も美しい生贄となる栄誉を与えられるのだ!』
霧散したはずのエルゴスの黒い粒子が、サンクチュアリ・ゼロの中心、かつて玉座があった場所で、まるで宇宙の終焉を告げる超新星爆発の前触れのように、再び急速に、そして不気味に集結し始める。そして、以前とは比較にならないほど強大で、そして筆舌に尽くしがたい絶望的なまでの禍々しいオーラを放つ、エルゴスの真の姿、あるいは第二形態が、空間そのものを引き裂きながら、そのおぞましい、そして神々しいまでの威容を、戦慄する8人の戦士たちの眼前に現した。
それは、もはや特定の人型を留めていない、純粋な負のエネルギーと、歪みきった宇宙のデータ、そしてエルゴスの狂気そのものが暴力的に融合したかのような、不定形で、そして宇宙の闇そのものを凝縮したかのような巨大な漆黒の怪物だった。無数の、まるで絶望と虚無を映し出す呪われた鏡のような赤い単眼が、虚空に無数に浮かび、全てを飲み込むブラックホールのような口が無数に、そして不規則に開閉し、その全身からは、宇宙の法則そのものを否定し、あらゆる存在を根源的なカオスへと、そして永遠の無へと回帰させるかのような、絶対的な破壊の波動が、サンクチュアリ・ゼロ全体を、いや、イレギュラーフィールド全域を激しく震わせながら、絶え間なく放たれている。
「なっ……! 馬鹿な……! アレが……、エルゴスの本当の姿だというのか……!? なんて禍々しい、そして絶望的な気配なんだ……!」
ジャスティスガーディアン・オメガのコクピットで、バーニングレッド・オメガが、そのあまりにも絶望的な光景に、先ほどまでのエルゴス(第一形態)撃破の確信が、脆くも完全に崩れ去り、戦慄の声を上げる。ジャスティスガーディアン・オメガも、そしてトリニティ・ノヴァも、このエルゴス・アブソリュートから放たれる、想像を絶する、そして魂の奥底まで凍てつかせるプレッシャーの前に、その巨体を維持することすら困難になっていた。
『ククク……これが私だ。これが、エルゴス・アブソリュート。お前たちが先ほどかろうじて破壊したのは、私のほんの物理的な殻、あるいは精神的な防壁に過ぎん。私の本質は、この宇宙の全ての情報、全てのエネルギー、全ての法則そのものと完全に融合した、新たなる、そして唯一無二の神なのだよ!』
エルゴス・アブソリュートは、その無数の赤い単眼で8人の戦士たちを、まるで取るに足らないゴミでも見るかのように睥睨し、絶対的な勝利を確信したかのように、宇宙全体を揺るがすほどの声で高らかに、そして何よりも残酷に宣言する。
「神、だと……? ふざけるな! 貴様のような、生命の尊厳を踏みにじり、未来を奪おうとする歪んだ存在が、神であるはずがない! 断じてない!」
ユナイトレッド・オメガが、最後の力を振り絞って、エルゴス・アブソリュートのその傲慢な宣言に、魂の底から激しく反論する。
『神か、悪魔か。フン、そのような矮小にして陳腐な定義など、絶対的な存在と化したもはや私には、何の意味も持たない。私は、エルゴス・アブソリュート。そして、お前たちは、その絶対的な、そして抗いようのない力の前に、ただただひれ伏し、絶望し、そして永遠に消え去るのみだ!』
エルゴス・アブソリュートは、その巨体から、先ほどの《ジェノサイド・コズミック・ストリーム》を遥かに、そして絶望的に凌駕する、宇宙そのものを一瞬にして消滅させかねないほどの、究極にして最後の超絶的な破壊エネルギー《アポカリプス・ゼロ・エンド・バースト》を、ジャスティスガーディアン・オメガとトリニティ・ノヴァ目掛けて一切の躊躇も慈悲もなく放つ。
「全エネルギーをシールドに回せ! 何としても、この一撃だけは…耐えきるんだ!!」
バーニングレッド・オメガが、魂を振り絞るように絶叫する。
ジャスティスガーディアン・オメガは、残された全エネルギーを黄金色の多重層防御フィールド《オメガ・ラストディフェンサー》として展開。その輝きは、まるで絶望に抗う最後の太陽のようだ。
一方、トリニティ・ノヴァもまた、グリム、ネビュロス、ヴェルミリオンの三人の魔王の意志を結集させ、漆黒の機体表面に白炎、氷、幻影のエネルギーが複雑に絡み合った絶対防御結界を最大出力で展開する。それは、彼らの魂そのものを盾とするかのような、悲壮なまでの覚悟の顕れだった。
二体の巨神が展開した、それぞれの最強の防御。しかし、エルゴス・アブソリュートの放つ《アポカリプス・ゼロ・エンド・バースト》は、その二つの希望の盾を、まるで虚無が全てを飲み込むかのように、いとも容易く、そして無慈悲に侵食し始める。
「くっ……! なんて途轍もない、そして絶望的な力だ……! オメガのエネルギーシールドが……トリニティ・ノヴァの絶対防御結界が……まるで、闇に光が飲み込まれるように……持たない! 押し返される! ぐあああああっ!!」
ジャスティスガーディアン・オメガも、そしてトリニティ・ノヴァも、この宇宙の終焉そのものとも言える絶対的な破壊の前には、なすすべもなく、まるで木の葉のように無力に押し返され、装甲に、修復不可能なほどの深い致命的な傷が、まるで絶望の爪痕のように次々と刻まれていく。
「ぐおおおおおっ! オメガの右腕が……! 左脚ユニットも完全に沈黙した……!」(ジャッジレッド・オメガ)
「トリニティ・ノヴァのエネルギーラインが……急速に低下していく……! このままでは、機体そのものが……!」(ネビュロス)
「こんな……こんな馬鹿げたことがあるかよ……! 俺たちの、俺たちの力が……全く通用しないなんて……!」(ブレイズレッド・オメガ)
「エルゴス……! これが……これが、お前の、絶望の力だというのか……!」(セイジレッド・オメガ)
二体の巨神は、エルゴス・アブソリュートの猛攻の前に、もはや虫の息だった。ジャスティスガーディアン・オメガは右腕と左脚を失い、その美しい白銀の装甲は黒く焼け焦げ、無数の亀裂から火花を散らしている。トリニティ・ノヴァもまた、その誇り高き漆黒の機体の至る所が砕け散り、胸部の魔法陣の光輪も明滅を繰り返し、かろうじてその姿を保っているのがやっとという有様だった。
『フハハハハハ! どうした、どうしたのだ、英雄気取りの愚か者どもよ! これが現実だ! これがお前たちの、そしてこの不完全な宇宙の、絶対的な終焉なのだ! 私の創造する完全なる「デジタル・エデン」の前に、お前たちのそのちっぽけな希望も、虚しい絆も、全てが無意味であることを、その魂に刻みつけて、永遠の眠りにつくがいい!』
エルゴス・アブソリュートは、勝利を確信し、とどめの一撃として、さらに凝縮された《アポカリプス・ゼロ・エンド・バースト》を、二体の満身創痍の巨神へと放とうとする。
絶望。絶対的な絶望が、再び、そして今度こそ本当に、八人の戦士たちの心を、その魂を、暗く重く支配しようとしていた。エルゴスの第一形態ですら、文字通り死闘の末に辛うじて打ち破ったというのに、その力を遥かに、そして絶望的に凌駕する第二形態、エルゴス・アブソリュートを前にして、彼らに残された希望は、もはや風前の灯火のように、あまりにも儚く消えかかっていた。
しかし、その、まさに世界の全てが終わろうとしていた、その瞬間だった。
「まだや……! 俺たちの物語は……俺たちの未来はな……こんなところで、こんな無様な形で、絶対に終わらせるわけにはあかんやろ!!!」
グリムの魂の奥底からの、血を吐くような、しかしその奥に決して折れることのない、鋼のような、いや、宇宙で最も硬いダイヤモンドのような不屈の魂の意志を宿した、最後の叫びが、サンクチュアリ・ゼロの絶望的な空間に響き渡った。彼のブレイジング・ノヴァの純白の炎が、エルゴスの放つ、全てを飲み込む絶望の闇の中で、最後の、しかし何よりも強く、そして何よりも美しい、奇跡の輝きを放ち始める。
「俺たちの魂はな、未来永劫、何度でも、何度でも、何度でも燃え続けるんや!!!」
「そうだグリム、ここで我々が諦めるわけにはいかない!」
グリムの魂の叫びに呼応するように、ジャスティスガーディアン・オメガのコクピットで、バーニングレッド・オメガの真紅の白炎もまた、最後の力を振り絞って、まるで超新星爆発のように激しく燃え上がる。そして、ユナイト、セイジ、ジャッジ、ブレイズの魂もまた、その二つの「ノヴァ」の、絶望の中でも決して消えることのない神々しい輝きに導かれるように、最大の奇跡の共鳴を始める。二つのノヴァの輝きと、仲間たちの魂の共鳴が、中破したオメガに最後の奇跡を呼び覚ます!
「「「「「「「「今こそ、八つの魂を一つに!!! 未来への道を、俺たちが必ず切り開くんだ!!!」」」」」」」」
八人の戦士たちの魂の叫びが、サンクチュアリ・ゼロに、そして崩壊しつつあるイレギュラーフィールド全体に、まるで奇跡の産声を上げるかのように、宇宙そのものを震わせて力強く木霊する。
グリムのブレイジング・ノヴァの純白さが全てを浄化し、バーニングレッド・オメガの真紅の白炎の、あらゆる絶望を未来への道を灯す不屈の炎と、そして他の仲間たちの、それぞれの譲れない正義と、揺るぎない信念、そして仲間たちへの熱き想いを宿した魂の輝きが美しく共鳴し、増幅し一つに融合していく。
その声に応えるかのように、中破し、行動不能に陥っていたはずのジャスティスガーディアン・オメガの機体が、眩い全てを包み込むような温かい光と共に、まるで不死鳥がその燃え盛る灰の中から、より強く、より美しく力強く蘇るかのように、五体の独立したユニットマシーンへと分離・再構成を開始する。
そして、グリムの魂の咆哮が、まるで宇宙創生の号令のようにサンクチュアリ・ゼロに響き渡る。
「見とけよ、エルゴス! これが、俺たちの、いや、この宇宙に生きる全ての生命の、最後の奇跡や!」
五体のユニットマシーンが、トリニティ・ノヴァの周囲を高速で旋回し、完璧なフォーメーションを組む。それは、まるで新たな星座が夜空に描かれるかのようだった。
グリムが、トリニティ・ノヴァの意識空間の中心で、その両腕を天に突き上げ、叫ぶ。
「集え、八つの魂! 闇を払い、希望を灯す、究極の光となれ!」
ネビュロスが、その冷静な瞳に宇宙の真理を映し出すかのように、静かに、しかし力強く言葉を続ける。
「混沌を砕き、秩序を紡ぐ、絶対なる力よ、今こそ我らが手に!」
ヴェルミリオンが、その妖艶な唇に万感の想いを込めた笑みを浮かべ、高らかに歌い上げる。
「絶望の夜を超え、永遠の暁を告げる、美しき奇跡の顕現を!」
そして、レッド5人の魂が、魔王たちの呼びかけに呼応する。
「「「「「応ッ!!!」」」」」
八人の戦士たちの魂の叫びが、サンクチュアリ・ゼロの崩壊しつつある空間に、最後の希望として完全に一つになる。その瞬間、合体のための最終シークエンスが開始された。
『アルティメット・クロス合体』
(グリムとバーニングレッドの魂が重なり合うような、力強い合体のかけ声)
まず、ユナイトレッド・オメガの操る白銀の六枚翼を持つ重力制御支援機が、トリニティ・ノヴァの背部に、まるで失われた翼を取り戻すかのように光の軌跡を描きながらドッキング。その翼はさらに巨大化し、宇宙空間を、いや、次元そのものを自在に翔けるための神々しい《セラフィック・コスモウィング》となる。同時に、機体全体に絶対的な重力制御能力と、あらゆる次元攻撃をも無効化する超多次元防御フィールドを付与する。
次に、セイジレッド・オメガの蒼き流星のような双剣型高速戦闘機と、ジャッジレッド・オメガの白銀の鉄壁を誇る重装甲防御ユニットが、それぞれトリニティ・ノヴァの両腕部へと、光の粒子を激しく撒き散らしながら合体。右腕は《ストリームセイバー》の超高速演算能力と、その刃に宿る秩序の力を受け継ぎ、あらゆるものを原子レベルで切り裂く超振動プラズマブレードと、未来予測による精密なエネルギー射撃を可能とする《スラッシュ・ストリームセイバーアーム》に。左腕は《ジャッジメントガーダー》の絶対的な鉄壁の防御力と、《エクスキューションブレード》の揺るぎない断罪の力を併せ持つ、攻防一体の究極の万能武装《インペリアル・パニッシュメント・シールドアーム》へと、その姿を劇的に、そして神々しく変貌を遂げる。
続いて、ブレイズレッド・オメガの橙色の爆熱エネルギーを推進力とする突貫強襲ユニットが、トリニティ・ノヴァの両脚部へと、まるで隕石が大地に衝突するかのように激しく装着。その脚部は、マグマの如き爆熱エネルギーを無限に推進力として変換し、大地を、いや、空間そのものを蹴り、あらゆる障害物を原子の塵へと粉砕する《ボルカニック・レッグブースター》となり、その機動性と突進力を、神の領域へと飛躍的に向上させる。
そして最後に、バーニングレッド・オメガの魂を宿す、真紅の白炎を激しく燃え上がらせるフェニックス型強襲戦闘機が、トリニティ・ノヴァの胸部へと、まるで最後の、そして最も重要なピースが、運命の瞬間にピタリとはまるかのように合体。そこには、トリニティ(魔王の三位一体の、決して砕けることのない魂の絆の象徴)とオメガ(レッドたちの最後の、そして最強の希望の切り札の象徴)の紋章が、力強い太陽のように力強く、そして神々しく輝き始める。
漆黒のトリニティ・ノヴァが、グリムのブレイジング・ノヴァの純白と、それぞれのレッドの魂を宿したユニットパーツ、そしてレッド5人の魂そのものの熱き光に包まれ、その機体カラーを、まるで闇夜を切り裂き現れる夜明けの、世界の始まりを告げる清浄な空のように、一点の曇りもない「純白」へと変貌を遂げていく。それは、単なる色の変化ではない。それは、魔王とレッド、二つの異なる出自を持つ存在の魂が、過去のあらゆる対立や憎しみを完全に乗り越え、真に一つになった、究極の融合の証だった。
「「「顕現せよ! トリニティ・スーパーノヴァァァァァァッ!!!」」」
(八人全員の魂の叫びが、宇宙に響き渡る)
合体完了! まさに「超新星」と呼ぶにふさわしい。
エルゴス・アブソリュートは、そのトリニティ・スーパーノヴァの、自らの計算と理解を遥かに超えた、まさに奇跡としか言いようのない誕生に、初めて明確な動揺と、そして本能的な、抗いようのない恐怖を顔に浮かべる。
(第15話『白炎は未来を照らして -終焉と再生、そして希望の光-』へ続く)
ついに次回外伝の最終話へ。明日午前中に更新できたらと思います