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外伝 覚醒の白炎 第8話『深淵への道標と歪む現実 』


ジャスティスガーディアン・オメガの圧倒的な力によって、グラヴィトン・ロードという最初の障壁は撃破された。イレギュラーフィールドの歪んだ空に、一瞬だけ勝利の凱歌が響き渡ったかのように思えた。しかし、それもつかの間の安堵に過ぎなかった。フィールドの歪みは収まるどころか、その深淵から、まるで地の底から湧き上がるマグマのような、より濃密で不気味なエネルギーの波動が放たれ始めたのだ。それは、この混沌の地の真の支配者が、ついにその存在を明確に世界に示し始めた、紛れもない兆候だった。


「やったな……! さすがはオメガ、そして俺たちの新しい力だ! だが、どうやらまだ、この悪夢は終わったわけではなさそうだぜ」


コクピット内で荒い息を整えながらも、バーニングレッド・オメガは油断なく周囲を警戒する。


ネビュロスが、オメガの肩部センサーと自身の戦術グラスに表示される異常なエネルギーパターンを睨みつけながら、厳しい表情で呟いた。

「グラヴィトン・ロードは、いわばこのフィールドの門番に過ぎなかったのかもしれん。その残骸から回収できるデータがあれば、あるいは……。だが、その奥……フィールドの最深部には、あれを遥かに凌駕する、想像を絶する規模のエネルギー体が潜んでいる。まるで、星一つを丸ごと飲み込むブラックホールのような……」


その言葉を受け、セイジレッド・オメガが即座に行動を開始した。ジャスティスガーディアン・オメガのセンサーをグラヴィトン・ロードの残骸へと向け、微弱ながらも残存するデータログの収集を試みる。数秒の解析の後、彼の表情が険しくなった。


「……これは……! グラヴィトン・ロードの制御プログラムの深層に、極めて高度な暗号化が施された領域を発見しました。ノクタリアから転送された旧ジャスティスフェイスの極秘データ……その中にあった『統合実験』に関するファイルと、この暗号キーが一致します。そして、そのファイルの最重要機密事項として記録されていた人物の名は……Dr.エルゴス・シュタイン」


「エルゴス……」バーニングレッド・オメガが、その名を初めて聞くかのように、訝しげに、そしてどこか嫌な予感を覚えながら呟いた。「それが、この異常事態を引き起こしている、全ての元凶の名前なのか……?」


セイジレッド・オメガは重々しく頷き、解析結果を全機に共有する。

「間違いありません。記録によれば、Dr.エルゴス・シュタインは、かつて禁断の『統合実験』を主導し、レヴェリオ・レッドという悲劇的な存在を生み出した狂気の天才科学者。彼は、レヴェリオの暴走と計画の失敗により、公式記録上は死亡したとされていました……。しかし、このイレギュラーフィールドの存在、そしてグラヴィトン・ロードの制御プログラムの特異性を鑑みるに……彼は、この深奥で生き延び、世界そのものの理を書き換える、より恐るべき、そして狂気に満ちた計画を進行させている可能性が濃厚です」


その時だった。まるで彼らの会話を、そしてセイジレッド・オメガの解析結果すらも嘲笑うかのように、イレギュラーフィールドの深淵から、冷たく、しかしどこか子供が無邪気に玩具を弄ぶかのような愉悦を含んだ声が、直接彼らの脳内に、不快なノイズと共に響き渡った。それは男の声でありながら、機械的で無機質な響きも併せ持っており、聞く者に言い知れぬ底知れない不安と、生理的な嫌悪感を抱かせる。


『フフフ……私のささやかな門番、グラヴィトン・ロードを倒したようだな、ジャスティスフェイスの残党、そして魔王どもよ。なかなか楽しませてくれるではないか。その程度の知恵と力で、この私に挑もうとは……実に、実に滑稽だ』


「この声……! まさか、エルゴス・シュタインなのか!?」ユナイトレッド・オメガが、驚愕と怒りに顔を歪ませる。


『いかにも。我が名はエルゴス・シュタイン。この旧世界の、そして新たなる宇宙の、唯一無二の創造主となる者だ。お前たちがかつて相対したレヴェリオは、私の壮大なる理想を実現するための、ほんの未完成な試作品に過ぎなかったのだよ』


「試作品だと……!? レヴェリオも、そして俺たちの戦いも、全てお前の掌の上だったというのか!」バーニングレッド・オメガが、抑えきれない怒りに《バーニングブレイカー》を握りしめる。


『フン、取るに足らぬ感情だな。だが、お前たちのその矮小な存在が、私の計画を最終段階へと進めるための、思いのほか良質なスパイスとなるだろう。感謝したまえ、お前たちは新たな世界の、輝かしい礎となるのだからな』


「ふざけるな! 誰がお前の歪んだ世界の礎なんぞになるか!」ブレイズレッド・オメガが激昂し、拳から爆熱を迸らせる。


グリムが、オメガの肩部からエルゴスの声が響く方向を鋭く睨みつける。「おい、エルゴスとやら。お前の言う『計画』っちゅうのは、一体何のことや。レヴェリオのやった『統合』よりも、もっとタチの悪いこと考えてるんやないやろな?」


『フフフ、察しが良いな、魔王よ。私の真の目的は、かつてのレヴェリオが目指した矮小な「統合」などを遥かに超える、壮大にして完全なるものだ。それは、全宇宙の生命と意識を、あらゆる苦痛、争い、そして不完全な感情から解放し、純粋なデータへと変換する。そして、そのデータを、私が唯一絶対の神として君臨する、永遠に続く完全調和のデジタル世界「デジタル・エデン」にて管理し、永遠の安寧を与えること。これこそが、究極の救済なのだ』


「生命を……データに変換するだと……!? それが、お前の言う『救済』か! 馬鹿げている!」ジャッジレッド・オメガが、その言葉の持つ恐ろしさに戦慄する。


「全ての感情も、個性も、生きる喜びも悲しみも……全てを消し去って、何が調和だ! それはただの虚無、生命への冒涜に他ならない!」セイジレッド・オメガもまた、エルゴスの狂気に満ちた思想に強い嫌悪感を示す。


『フハハハハ! 理解できぬか、愚かなる者どもよ。感情こそが争いを生み、個体差こそが不和を生むのだ。完全なるデータ化こそが、全ての生命を永遠の苦しみから解放する唯一の道。そのために、私はこのイレギュラーフィールドを巨大な触媒として利用し、現実世界への侵食と、新たなる宇宙への書き換えを開始しているのだ。もう、誰にも止めることはできん』


ヴェルミリオンが、エルゴスの言葉に静かに目を伏せる。「……なんてこと。彼は、本気でそれを信じているのね。歪みきってはいるけれど、彼なりに、これが『正しい』と」


ネビュロスが冷静に、しかしその声に確かな怒りを込めて反論する。「エルゴス、貴様の言う『デジタル・エデン』は、生命の尊厳を踏みにじる、ただの独裁者の妄想に過ぎん。我々は断じてそれを認めん!」


『フン、抵抗するか。それもまた一興。私に会いたくば、このイレギュラーフィールドの最深部、我が聖域「サンクチュアリ・ゼロ」まで来るが良い。もっとも、そこまで辿り着けるだけの、虫けら以下の力と、猿以下の知恵がお前たちに残っていればの話だがな……フハハハハ! この世界の法則が歪む様を、その矮小な魂に深く刻みつけ、存分に味わうがいい!』


エルゴスの嘲笑うかのような甲高い声が、まるで悪夢の残響のように消えると同時に、周囲の空間がさらに激しく歪み始め、まるで地獄の門が開いたかのように、新たなイレギュラーズの群れ──先ほどまでのデモリッション・ドローンとは比較にならないほど凶悪な外見と、強大なエネルギー反応を持つ《アビス・ウォーカー》とでも呼ぶべき異形の尖兵たちが、次元の裂け目から、次々とその禍々しい姿を現す。その数は瞬く間に数十体へと膨れ上がり、ジャスティスガーディアン・オメガとダークトリニティを取り囲むように展開した。


「ちっ……! 喋るだけ喋って、また雑魚をけしかけてきやがったか! とことん舐められたもんだぜ!」ブレイズレッド・オメガが悪態をつきながら、《ブレイズインパクト》を激しく打ち合わせ、戦闘態勢を整える。


「エルゴスの奴、俺たちの力を試しているのか、それとも単に時間を稼いでいるのか……いずれにせよ、この忌々しい人形の群れを突破しなければ、奴の元へは辿り着けん!」ユナイトレッド・オメガが冷静に状況を分析し、全機に警告を発する。


「数は多いが、恐れることはない! オメガの力、そして俺たちの魂の絆があれば、どんな強大な敵だろうと必ず打ち破れるはずだ!」バーニングレッド・オメガが仲間たちを力強く鼓舞するように叫び、ジャスティスガーディアン・オメガの先陣を切ってアビス・ウォーカーの群れへと猛然と突撃する。


ジャスティスガーディアン・オメガが、その鋼鉄の巨腕に莫大なエネルギーを集中させ、アビス・ウォーカーの一体を強烈に殴りつける。《オメガ・インパクトハンマー》! 凄まじい衝撃波と共に、敵機はくの字に折れ曲がり吹き飛ぶが、他の機体が即座に死角を補うように連携し、オメガの背後から鋭いクローを振り下ろす。


「させん!」グリムが地上から炎の尾を引きながら跳躍し、ブレイジング・ノヴァの力を宿した強烈な蹴りを叩き込む。《白炎・飛燕脚》! アビス・ウォーカーの体勢が大きく崩れた隙を突き、ネビュロスが絶対零度の冷気を凝縮した氷柱を、雨のように連続で放つ。《アイシクル・バラージ》!


ヴェルミリオンもまた、幻影の分身を多数戦場に生み出し、アビス・ウォーカーたちのセンサーを攪乱する。《ミラージュ・ダンス・マカブル》! 敵は同士討ちを始め、その陣形は徐々に乱れていく。


「連携するぞ! オメガとダークトリニティ、二つの力を、いや八つの魂を合わせれば、必ず道は開けるはずだ!」バーニングレッド・オメガの魂の叫びに呼応し、オメガのコクピット内ではレッドたちが、地上では魔王たちが、それぞれの極限の能力を最大限に発揮し、アビス・ウォーカーの群れと激しい、そして壮絶な乱戦を繰り広げる。オメガの肩部から放たれる高出力の追尾レーザー《オメガ・デストラクションレイ》が敵編隊を正確に薙ぎ払い、ダークトリニティの三位一体の怒涛の合体攻撃トライアングル・ストーム・アサルトが、アビス・ウォーカーの強固な装甲を次々と打ち破っていく。爆炎、氷塊、幻影の閃光が目まぐるしく入り乱れ、イレギュラーフィールドの歪みきった空を、希望の光で焦がしていく。


一体、また一体とアビス・ウォーカーを撃破していくが、その数は一向に減る気配がない。エルゴスは、まるでこの世の悪意を全て集めたかのように、無限に駒を供給できるかの如く、次々と新たな、そしてより強力な尖兵を戦場に送り込んでくる。これは明らかに、彼らの力を削ぎ落とし、消耗させるための罠。


「くそっ、キリがねえ! このままじゃ、こっちのエネルギーが先に底をつくぞ! 何か手を考えねぇと!」ブレイズレッド・オメガが、連続する爆熱攻撃の反動で肩を激しく上下させながら、焦りの声を上げる。



「全機、これより一点集中による強行突破を図る! この雑魚の群れをいつまでも相手にしている時間はない! エルゴスの元へ、最短距離で到達する!」ユナイトレッド・オメガが、戦況を冷静に見極め、的確な指示を全軍に下す。


ジャスティスガーディアン・オメガが、その背部の全スラスターを一斉に噴射させ、アビス・ウォーカーの強固な包囲網の一角へと、最後の希望を賭けて突撃する。ダークトリニティもまた、オメガの進路を切り開くように、それぞれの奥義とも言える必殺技を、敵陣中央へと叩き込む。


グリムのブレイジング・ノヴァの炎が、天を衝く巨大な竜巻となって敵を焼き尽くす《白炎・爆竜衝》! ネビュロスの絶対零度の冷気が、全てを凍てつかせ粉砕する吹雪となって荒れ狂う《ダイヤモンド・ブリザード・レクイエム》! ヴェルミリオンの究極の幻術が、敵の精神を内側から破壊し、悪夢の底へと沈める《エターナル・ナイトメア・エンド》!


「「「「「「「「うおおおおおおおおっ!!!」」」」」」」」


八人の戦士たちの魂の叫びが、ジャスティスガーディアン・オメガの推進力と激しく共鳴し、アビス・ウォーカーの鉄壁と思われた防衛ラインを、怒涛の勢いで強引にこじ開けた。数多の爆発と閃光をその背に受けながら、ジャスティスガーディアン・オメガとダークトリニティは、ついにアビス・ウォーカーの群れを振り切り、イレギュラーフィールドのさらに奥深くへと続く、ねじれた次元の回廊へと突入した。


「行くしかないな。この歪んだ世界の最深部へ、そしてエルゴスの歪みきった野望を、俺たちのこの手で、完全に、そして永遠に止めるために!」


バーニングレッド・オメガの声には、新たなるオメガフォームの力を得たことによる確かな自信と、仲間たちと共に未来を切り開くという、何者にも屈しない、鋼のような揺るぎない決意が宿っていた。


彼らが次に足を踏み入れたのは、時間と空間の概念そのものが、まるで悪意ある子供の気まぐれな玩具のように歪み、絶えず再構築され続けるかのような、異様にして危険極まりない、悪夢の領域だった。赤黒い空には、まるで死神の鎌のように壊れた時計の針が無数に突き刺さり、大地は砂時計の砂のようにサラサラと流れ落ちては、また不気味に再生を繰り返している。


そこは、エルゴスが仕掛けた次なる試練の舞台──《クロノフォールゾーン》。


(第9話『時の牢獄、魂の残響 -クロノフォールゾーンの幻惑-』へ続く)

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