第7話 仲間が見つかりましたわ
魔獣の出現から1週間、それ以降、確認されていない。
ゼクシアは食堂でお昼を食べながら、考え事をしていた。
魔獣はどこから来たのだろうか…と。
グレイスからの報告があり、魔獣を倒した後の死骸が霧散し、肉片ひとつとして残っていないとのことだった。
魔獣の生態がそういうものなのか、それとも何者かの手による証拠隠滅なのか、調べることが出来ず、困っていると言っていた。
魔獣の設定とか…昔読んだ設定資料集に書いてたのかもしれないが、残念ながら、ほとんどメカデザインにしか目が行ってなくてあまり覚えていなかった。
「我ながら、いざという時に役に立ちませんわね」
ゼクシアが考えこんでいると、大声で自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ゼクシア!またアイリスを虐めたんだろ!?
白状するんだ!」
アシュレイドが怒りくるっている。
その後ろにはアイリスが隠れるように引っ付いている。
(まったく、この人はまた…)
くどくど愚痴愚痴ガミガミと…アシュレイドは一方的に責め立ててくる。
ゼクシアは、そのうち疲れてやめるだろ…と、
右から左へ受け流すことにした。
すると、別の男性の声が聞こえた。
「殿下、お待ちください」
そこには赤い髪の青年、ローランドと青い髪の青年、セリオンが立っていた。
「彼女はいじめをするような人ではありませんよ」
と、ローランドが庇い立てをしてきた。
「なんだ、ローランド、未来の主君に楯突くつもりか?」
ローランドを威圧するアシュレイドだったが、そこにセリオンが割ってはいる。
「事実ですので。何より誰1人として、ゼクシアが虐めている現場は目撃していませんよ?
殿下こそ、証拠はお有りなのですか?」
と、問いただした。
するとアシュレイドは胸を張って言い返した。
「彼女の証言と、俺の証言があれば十分だろう!」
ゼクシアもローランドもセリオンも
他に聞き耳を立てている者も、
偶然聞こえてしまった者も、
誰もが思うだろう、口に出さないだけで…
……何言ってんだこいつ?…と…
一瞬静まり返った空間で、セリオンがため息混じりに口を開く。
「…でしたらまずは、証拠集めがよろしいかと…
確かに、おふたりの証言は強い武器でしょうが、幾つあってもいいものでしょう?」
アシュレイドはなるほど…と、納得したようだった。
「ゼクシア、今日のところは引き下がってやる!
だが、次虐めているのを見つけたら容赦しないからな!」
アシュレイドはアイリスと共に去っていった。
ゼクシアがため息をつくと、同席の許可を経て、ローランドとセリオンが座る。
「あれが第一皇子とは困ったものだな。
まるでなにも考えてないように見える。
ローランド、将来あんなのに付いて苦労するくらいなら騎士団に入るのは辞めた方がいい」
と、セリオンが深いため息と共に毒づいた。
セリオンは研究機関志望のため、アシュレイドと関わる可能性は少ないからここまで強く言えるのだろうが…
「セ、セリオン…聞こえてないとはいえ、さすがに言いすぎだろそれは…」
ローランドとゼクシアは苦笑いをした。
ゼクシアはふたりに一礼する。
「おふたり共、ありがとうございました。
助かりましたわ」
「ゼクシアも苦労するね、あれが婚約者とは…」
「ふふ、もう慣れっこですわ」
3人は幼馴染である。
学友だった親の紹介で会うことがあり、共に遊び、学び、研鑽した仲である。
領地で一緒に冒険に出たこともあるくらいだ。
「ゼクシア、今日は聞きたいことがあって」
「なんでしょうか?ローランド様」
優雅に食後の紅茶を楽しまんとするゼクシアを前に
ローランドとセリオンが顔を合わせる。
「ゼクシア、あの巨人はなんだい?」
ローランドの問いに思わずむせてしまった。
「な、なんの話ですか?」
「いや、君が黒い巨人に乗り込むのを見て、その時に持っていた短剣なんだけど…」
迂闊…あまりにも迂闊すぎる…
これはゼクシアの性格の問題なのか…
だから浮気されて断罪されてしまうんでしょうが…!
……よし!前世の記憶のせいにしましょう。
前世の人格が調子に乗ったのが悪いということにいたしましょう!
1人納得して話に戻ろうとすると、ローランドとセリオンはテーブルの上に短剣を出した。
それは、ゼクシアの持っているものと酷似していた。
ただ違うのは、ローランドは赤い短剣、セリオンは青い短剣を持っていることである。
「これは…?」
「ローランドのものは先祖代々から家長に継承されているものらしい。
僕のものは、母が研究するのに持っていたものだ。
無理を言って借りてきた。」
前世の記憶から、この2人が聖剣の使い手になることは知っていた。
ということは、2人は共に魔獣と戦う仲間になるわけである。
だが、この状況をどう説明したものか…
(…そうだ!こんな時は…)
「2人とも、私と一緒に来ていただけませんか?」