第5話 婚約者が絡んできましたわ
緊張と不安から始まった学園長との面談は終わった。
ゼクシアには安心していた。
明確な味方ができたからである。
ゼクシアの母親は物心ついた時にはいなかった。
家を出て行った…とのことだが、父も、そして使用人たちも誰1人としてその理由を知る者はいなかった。
ゼクシアとしては母親の愛情を受けぬまま育ってきたので、
母親と同じように接してくれるグレイスには感謝していた。
心配してくれるお義母様には申し訳ないが、あとはまた、学園生活をしながら魔獣が来たら戦うしかない。
まぁ、むしろ来てほしいのだが…と、考えていると、
「学園長に呼び出されたようだな、ゼクシア」
突然、声をかけられる。
あの人か…
振り返るやいなや、一礼をする。
「ごきげんよう、アシュレイド様」
声の主、アシュレイドと呼ばれた男は、ふん、と偉そうな態度をとった。
それもそのはず、
彼はアシュレイド・グランシュタイン
この国の第一皇子である。
父似の金髪に母似の青い目。
周囲には優しいのだが、昔からゼクシアには冷たい対応をしている。
一応、婚約者なのだが…
「ふん、アイリスを虐めていた罰でも下ったか?」
アイリスとはこのゲームの主人公、アイリス・ディネーブルのことである
平民の出だが、どういった訳かディネーブル伯爵家の養子となり、この学校に入学することになった。
入学してから、真っ先にアシュレイドにアプローチをかけたようで、ゼクシアに隠れて密会しているのである。
…まぁ、前世の記憶云々に関わらず、すでにバレているんだが…
「アイリス?誰のことです?」
と、わざとすっとぼけてみせる。
「とぼけるな!アイリスから聞いているのだぞ!」
たしかにアイリスとも何度か会っているが、一方的にぶつかってきたり、目の前で転んだりと、絡む気は無いのに向こうから絡んできている。
というか、過度に絡んだら断罪される可能性が上がるんだから、ゼクシアが避けるのは当然である。
「ああ、最近殿下と一緒におられる女性ですか?
私は特にお話ししたりした覚えはありませんが、
殿下の方が彼女のこと、いろいろご存じなのでは?」
と、少し嫌味ったらしく言ってみせた。
「き、貴様…!」
そういう嫌味には敏感なのだろう、すぐに反応してきた。
ここまでわかりやすい性格だといっそ、からかい甲斐があって面白い…などとゼクシアは考えたりもしたが、これ以上絡む気はさらさらない。
「それでは、私はこれからお約束があるので、これで」
と、その場を去った。
待て!逃げるのか!
と声が聞こえる…ような気がするが正直、アシュレイドともアイリスとも、関わっても現状いいことは何もない。
ガン無視決め込みますことよ…と、怒れる皇子を後にした。
…………………………
さて、溺愛お義母様に嫌味な婚約者と、なかなかに濃ゆい1日だ。
「はぁ…こんなこと言うのもどうかと思うのですが、正直、魔獣に出てきてほしいですわね…
ぶっ飛ばしてスカッとしたいですわ」
と、思わずお嬢様らしからぬことを口にしていた。
まぁ、昨日の今日で出るわけはないか…
と、油断していると、
ドゴォォン!!
「嘘でしょう?またですの!?」
森の方から大きな音がした。
外を見ると明らかに大きな生物、魔獣が出現したのである
しかも、影は2つ。
「ちょうどいいですわ!まだまだ暴れたりないですもの!」
ゼクシアは窓から勢いよく校舎の外へ出た。
そして、走りながら、腰の短剣を抜き去り、
「GO!!ゼクスカイザー!!」
の掛け声と共に再び戦地へと赴いた。
その様子はたまたま2人の青年に見られていた。
ローランドとセリオンである。