第27話 ゼクシアの断罪④
「ローランド!テメェ!どういうつもりだ!?」
ライオニールがこれまでにないくらいに怒りをあらわにした。
「何を言っている?当然だろう?
ローランドの父は騎士団長…つまり、私の部下になって然るべき男なのだよ」
アシュレイドの発言にセリオンはハッとなった。
「…!そうか!父親の立場を盾にされてそちら側についたということか…!」
「違うな、セリオン。
僕は自分の意思で殿下に…いや、アシュレイド国王陛下に仕えることを決めたんだ」
「何だって!?ローランド!何を言ってるんだ!?」
「セリオン、君もこちらに来い。
陛下の元につけば将来は約束される。
君だって、自由に魔法や魔道具の研究がしたいだろ?」
「ローランド…」
淡々と話を進めるローランドに対し、ライオニールの怒りが頂点に達した。
「ふざけんじゃねえぞ!俺様たちを裏切っておいて
言うことがそれか!?
人をおちょくるのも大概にしやがれ!!」
ライオニールはローランドの襟を掴み、首を締め上げた。
「ライオニール様!落ち着いてくださいませ!」
「止めんじゃねぇ!ゼクシア!
今すぐこいつを叩きのめしてやる!」
止めに入るゼクシアの声に耳を貸すことが出来ないほどに、ライオニールは頭に血が昇ってしまっていた。
ローランドは至って冷静にライオニールの手を払った。
「いいだろう、ライオニール。
僕も君とは決着をつけたいと思っていたからね…決闘しよう」
「ほぅ、面白い…」
アシュレイドがニヤッと笑う。
「ならば、ライオニール、貴様が勝てば貴様の罪は不問にしてやる。
ただし負けた場合、聖剣をこちらに渡せ」
「なんだって!?」
「別にいいだろう?
それはいずれにしてもこちらで回収するものなのだからな」
ゼクシアはライオニールの腕を握る。
「ライオニール様!こんな勝負に乗る必要は…」
「いいぜ!受けてたってやる!」
ゼクシアの話を聞くことはなく、ライオニールは提案を飲んだ。
………………………
数刻の後、その場にいた全員が決闘場にいた。
決闘場は以前、ゼクシアとライオニールが決闘をした時のように、関係者以外の観客を入れていない静かな空間であった。
ライオニールはさすがに頭が冷えたようで、ゼクシアとセリオンに申し訳なさそうにしていた。
「すまねえな、ゼクシア、セリオン…
簡単に奴らの挑発に乗っちまってよ…」
「何を言うんだ、ライオニール。
むしろ頼む…ローランドの目を覚ましてくれ…」
「…セリオン…ああ、任せてくれ」
ライオニールは セリオンの手を強く握った。
「ライオニール様、頑張ってください。
どうかローランド様を本気で倒してください。」
「??お、おう…」
ゼクシアの発言に少し違和感を覚えながらも、ライオニールは武舞台に上がった。
「遠慮はいらない。本気で来い、ライオニール」
「言われるまでもねえ!」
2人は木剣を構えた。
立会人はリブルが務めた。
「両者構え…始め!」
ライオニールが開始とともに思いっきり剣を振り下ろす。
ローランドはそれを真正面から受け止める。
(!?こいつ…)
ライオニールは一旦距離を取った。
(…そうか…そういうことかよ…)
再びライオニールはローランドに突っ込んでいく。
以前は野生の獣のような闘い方だったが、今は冷静に相手の防御を崩すように攻撃をしかけている。
ライオニールの猛攻を、ローランドはひたすらに受け続けるしかなかったが、辛そうな様子は全くない。
ライオニールの攻撃を的確に見切って最低限の力で受け流していた。
「どうした?この程度では僕には勝てないぞ!」
ローランドは静かにライオニールを煽った。
「俺様を挑発してるつもりか?
無駄だぜ!俺様はな、昔とは違うんだよ」
ライオニールはローランドから再び距離をとった。
そしてゼクシアたちを剣で差した。
「俺様にもなぁ、守りたいって思う奴がいる。
信頼できる仲間がいる。
俺様はそのために戦ってるのさ。
だから、どんなに挑発されようとも、
昔みてえに怒りに任せて戦うことはしねえのよ!
…それは、テメェも一緒だと思ってたんだがな…」
ローランドは黙って聞いていた。
「俺様は勝つ!
ゼクシアを守るために!
セリオンの願いを叶えるために!
そしてサフィの…親友の無念を晴らすためになぁ!」
ライオニールは再びローランドに近づき力いっぱい剣を振るった。
ゼクシアもセリオンも固唾を飲んで見守った。
「君の言い分はわかる…
だが…君と僕とでは、覚悟が違うんだ!」
ローランドはライオニールの攻撃をあっさりと受け流し、背後に回って思いっきり剣を振り下ろした。
「がはっ!!」
ライオニールが一瞬よろめいたところに、ローランドは腹に目掛けて思いっきり蹴りを入れた。
ライオニールは勢いよく吹き飛ばされ、その場で起き上がれずにいた。
「ライオニール様!!」
ライオニールはゼクシアの呼びかけに応えるように立ちあがろうとする。
だが、剣を支えにしなければふらつくほどに重い一撃を喰らっていた。
立ち上がれず膝をついたところに、ローランドの剣先が顔面に突きつけられた。
「僕の勝ちだ、ライオニール…」
ゼクシアとセリオンがライオニールの元へ駆けつけ、肩を貸す。
アシュレイドが拍手をしながらローランドたちの元へ近づいてきた。
「さすがローランドだ、貴様ならすぐにでも騎士団で活躍できるだろう」
「恐れ入ります、殿下」
ローランドは頭を下げた。
「無様だな、ライオニール。
女に肩を貸してもらうなど…
騎士としてあるまじき情けない行為だな…」
ライオニールは言葉を返せなかった。
「これでわかっただろう…
ローランドが貴様らの元に戻ることなど万に一つもないということがな。
では約束通り、貴様の聖剣を…」
と、アシュレイドが言い切る前にゼクシアが自身の聖剣を差し出した。
「なんのつもりだ?ゼクシア」
「奪うのなら私の方が貴方にとっては都合がよろしいのではないでしょうか?
いずれ回収するもの、なのでしょう?」
「ふん、いいだろう…ローランド!」
ローランドはゼクシアから聖剣を取り上げた。
ライオニールはセリオンに抱えられながら悔しそうに見ていた。
「裁判は明日…それまで震えて待っているといい…」
アシュレイドたちは決闘場を後にした。




