第25話 ゼクシアの断罪②
マーレインに呼ばれ、ゼクシアたちは学園長室に来ていた。
そこには1人の男の子が座っていた。
「…!フィル様!?」
フィルと呼ばれた少年はゼクシアに気づくと笑顔で走ってきて、ギュッと抱きついた。
「ゼシィ姉!久しぶり!」
ライオニールとサフィーロはイラッとした様子で見ていた。
彼の名は、フェルナンド・グランシュタイン
グランシュタイン王国の第二王子、つまりアシュレイドの弟に当たる。
4つほど離れている彼は現在、国王教育を受けている。
アシュレイドに万が一のことがあった場合に彼が次ぐことになるからである。
アシュレイドとゼクシアの教育はグレイスが直々に行なっていたが、フェルナンドはアシュレイドよりも圧倒的に優秀らしく、グレイスが手を離していても問題ないらしい。
実際、アシュレイドはグレイスが徹底的に教育をしても叱られてばかりでかなり苦戦していたようだ。
「フィル様、どうしてこちらに?」
「母様がウィンドシアスへ留学しろって…
それで、サフィーロって人を待っていたんです」
サフィーロは名前を呼ばれ、寝耳に水といった顔でマーレインを見た。
「フェルナンド様にはウィンドシアスに向かってもらうと王妃様が決められたのですよ。
それでサフィーロさんには護衛と案内をお願いしたくて…
もちろん、親御さんには伝えていますから…」
「母様も一緒に行くんですよ。
ゼシィ姉とはしばらく会えないのは寂しいけど…」
いつまでくっついているんだと言わんばかりに、ライオニールがフィルをゼクシアから離す。
「どういうことですの?学園長」
ゼクシアの疑問はもっともだ。
アシュレイドが国王になるにあたって最も邪魔になるのがフェルナンドである。
その優秀さから自身の立場を脅かされかねない。
アシュレイドがフェルナンドの命を狙うのはもはや必然とも言える。
それを避けるための留学なのだろう…
そこまではわかる…が、グレイスがわざわざ行く理由はない。
「グレイス王妃もウィンドシアスに行くことになったの。
まぁ、長期滞在ではないのだけどね。
今回のことで、ウィンドシアス国王に協力を仰ぐことにするらしいのよ…」
アシュレイドが新国王になるようなことを言っていたが、当然いきなりそんなふうになることはない。
というのも、もし万が一、国王がこのまま目覚めなかった場合、まずグレイスが女王として即位することになるからである。
だが、それを良しとしない者がいるのも事実だ。
そういった人間を黙らせる意味でも、ウィンドシアス国王に力を貸してもらいたいという魂胆のようだ。
「わかりました。ウィンドシアスまでご案内いたします」
サフィーロとミストは顔を合わせ、マーレインのお願いに了承する。
「ありがとう。
…ところで、ローランドさんは今日はいないのかしら?」
セリオンが答える。
「先に行っていてくれ…と言われてここへ来たのですが…
話を聞くに、誰も会っていないとのことで…」
「そうですか…」
全員が心配になってる中、ライオニールがバツの悪そうに話し出す。
「おい、まさかとは思うが、あの野郎、昨日の提案を受けたんじゃねえだろうな」
「……提案?」
話を知らないマーレインが聞き返したので、ゼクシアは昨日、アシュレイドから聞いた話を全て伝えた。
「なるほど…聖剣の所有者を味方につけようという魂胆ですか…あの男の考えそうなことです」
「…学園長、あの男とは?」
「ゲオルグ・ディネーブル伯爵…
こちらに来ていると聞いています。
彼が糸を引いていると考えていいかと…」
「ディネーブル…アイリスさんの父親ですか…」
ゼクシアから聞くその名前に、セリオンは納得する。
「なるほど、殿下をたらし込んだ女の父親か…
それで懐に入れたというわけか…」
マーレインが頷く。
「このままアシュレイド様を即位させると、彼が政治の主導権を握ることは明らかです。
もしそうなれば、ウィンドシアスや他の国とも戦争になるやもしれません」
セリオンが続いて答える。
「だが、戦争なんて一瞬で終わることになる…
聖剣神を使えば…な…
今回の提案はそういう目的なのだろう」
「ちっ…ふざけたことを…」
ライオニールの怒りがこもった腕をサフィーロが抑える。
「そのために僕たちがいるんだ。
戦争は起こさせない…
ウィンドシアスもこの国も守ってみせるさ」
ゼクシアは振り返り、サフィーロの目を見る。
「サフィーロ様、くれぐれもお気をつけて」
「うん…まぁ、しばらくゼクシアに会えないのが寂しいけど…」
そう言うと、サフィーロはゼクシアの頬に口付けをした。
「行ってくるよ、ゼクシア」
ゼクシアは思わず頬を抑えた。
以前は恥ずかしくて仕方なかったが、なぜだか今回な不安な気持ちに駆られていた。
翌日、グレイス王妃とフェルナンド王子、そしてサフィーロを乗せた馬車は出発した。
その道中も何が起こるかわからないと、サフィーロは警戒していた。
(こういうタイミングで仕掛けてこないとは思えないからね…)
しばらくして、吊り橋に差し掛かる。
(…妙だな…来る時に吊り橋なんてあったかな…)
そこでハッとなった時にはすでに遅かった。
馬の方を見に行くと、御者はおらず、一人でに吊り橋を渡っていたのである。
「しまった!御者も手駒か!」
次の瞬間、吊り橋は両サイドから切り落とされ、馬車は奈落の底へと落ちていった。
馬車が見えなくなったことを確認し、犯人たちはその場を去っていった。
2025/6/26段階
しばらく更新をストップします。
理由は…過去に投稿したものを再編集してるためです。
…我ながら誤植が酷い