第24話 ゼクシアの断罪①
「どういうことですか!?ゼクシアのお父さんが陛下を暗殺って!」
研究所に戻るや否や、ローランドがグレイスに詰め寄り、 セリオンが止める。
「落ち着くんだ、ローランド。焦りも不安もわかるが…」
セリオンはゼクシアの方を向いた。
ローランドはハッとなり、ゼクシアに声をかける。
「あ、ごめん…ゼクシア…」
「いいんですのよ、ローランド様。ありがとうございます。
…お義母様、父は…そして陛下はどうなったのでしょうか…」
グレイスは重い口を開いた。
「話した通りよ。陛下は倒れ、レーベン侯爵が容疑者として拘束された。
何が原因か、そして陛下の容体まではわからないけれど…とりあえず、アクアとネーヴさんが城に向かわせたわ」
「なるほど…姉さんは医者ですからね…
ですが、国で抱えている魔法医師もいるのでは?
姉さんがわざわざ行く必要はないかと…」
セリオンの疑問はもっともだ。
いくら優秀とはいえ、ネーヴは町医者だし、アクアに至っては知識すらない。
優秀な医師が国のお抱えとなっているのなら、わざわざアクアとネーヴが行く必要はない。
「…正直な話…信用出来ないのよ…
陛下暗殺なんてことが起こってる以上、どこに内通者がいてもおかしくないし…
だったら、信頼できる人に行ってもらった方がいいと思ったのよ…」
グレイスの考えにセリオンはそれ以上何も言えなかった。
国王陛下暗殺なんてあってはならない事態だ。
誰も信用出来なくなっても不思議ではない。
重苦しい空気の中、ゼクシアがおもむろに口を開いた。
「…お義母様…人払いをお願いできますか?
今のうちに話せることは話した方がいいと思います。
父は拘束されたとはいえ、まだ犯人だと確定したわけではないでしょうし、陛下も亡くなられてはおりません。
それにここなら、誰にも見られることはないのでしょう?」
ゼクシアの答えにグレイスはハッとなった。
「……わかったわ、部屋を変えましょう。
そしてお話ししましょう…これからの話を…」
…………………………
ゼクシアたちはその足で学園に戻った。
見回すと、周囲の生徒がこちらを見てひそひそと話している。
なんとなく、距離を置かれているような気もする。
「…なるほど…もう噂は学園中に広まっているということなのでしょうか…ずいぶんとお早いこと…」
「だけど、誰が広めたんだ…?
むやみやたらに混乱を招くだけだろうに…」
「それは…聞かなくても勝手に話してくれそうですわね…」
ローランドが疑問に思っていると、目の前からアシュレイドが歩いてきた。
なるほど…と理解して誰もがそれ以上の問答をしなかった。
「やぁ、諸君。魔獣退治、ご苦労だったな」
あいかわらず嫌味たっぷりの発言だが、違和感がひとつ…
「ごきげんよう、アシュレイド殿下。魔獣退治…とはいったい…?」
「隠しても無駄だぞ、ゼクシア。
貴様らがあのデカブツで魔獣を退治しているのは知っている」
全員、顔を合わせて黙っていた。
もちろん、魔獣と戦っていることは周囲には隠していたし、見られないような場所で聖剣神を召喚するよう注意を払っていた。
学園内にあまり混乱を起こさないようにするために…
最初こそ、ゼクシアの不注意で目撃されたが、それももはや関係者である。
つまり知る由は誰にもなかった…はずである。
だが、アシュレイドは知っている。
特にアシュレイドに目撃された記憶は誰ひとりとしてなかった。
「なぜ、ご存知なのですか?私たちが魔獣退治をしていることを…」
「貴様らに話す義理はない」
(まぁ、答えるワケがないですわよね…)
「では、何の用でしょうか?
わざわざこんな道のど真ん中でお話しすることでしょうか?」
ゼクシアもまた嫌味たっぷりに聞いてみる。
「よく聞け、ゼクシア。
貴様の父は国王陛下暗殺の容疑で拘束された。
そして貴様もまた、国家反逆の容疑で近々拘束されることになる」
「…はい?どういうことですの?」
「正確には『貴様ら』だ。
あのデカブツを操れる貴様らが危険だと判断した。
そのための処置だ」
(なるほど…元の世界で言うところの銃刀法違反のようなものですか…理にはかなっていますわね…ですが…)
「おいおい、なんの権限があってそんなこと言ってやがるんだ…」
ゼクシアが考えを巡らせ質問する前にライオニールが問いただす。
ライオニールもすでに、アシュレイドの横暴さに呆れていた。
「決まっているだろ?父である国王が倒れた今、この国を統べるのはこの私だ。
その権限を持ってのことだ」
サフィーロも我慢できずに口を出す。
「…いくらなんでも横暴すぎないかい?
僕たちはこの国を守るために戦っていたというのに…」
「もちろん、その点も考慮しよう…
そこで提案だ、貴様らを私直属の配下に加えよう。
そうすれば罪は免れる。
だが、断れば…わかっているな…」
アシュレイドの無茶苦茶な提案に全員ため息をついた。
「ただし、ゼクシア、貴様はダメだ。
今回、貴様の父親の件で婚約破棄の準備を進めることになった。
貴様にはその選択肢はない!」
ゼクシアは頭を抱えていた。
自分には罪を逃れる選択肢がないということではなく、アシュレイドの発言があまりにも短絡的だと思ったからである。
(誰の入れ知恵か知りませんが…まぁ、今問答しても無駄ですわね…)
「あら、そうですか。別に構いませんわ。それでは、失礼いたします」
ゼクシアは少し息を整えて振り返り、その場を去ろうとする。
他の面々もそれに続く。
「待て!どこに行くつもりだ!?」
アシュレイドが呼び止め、ゼクシアは振り返る。
「近々…とおっしゃったのは殿下でしょう?
なら私の拘束も裁判もまだ先ですわよね。
今日は帰らせていただきます。
皆さんにも、殿下の提案をしっかり考える時間が必要です。
いきなりあんなこと言われても即決なんてできませんものね」
「ふん、まぁいい…
じっくり考えるがいい。誰につくのが利口なのかをな…」
アシュレイドの捨て台詞を聞きながら、6人はそのまま学園を去った。