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第22話② 研究施設に来ましたわ

 魔獣が蛙になった。

その事実に全員が一瞬黙った後に一斉に驚いた。


「「「「「ええええええええ!!!!」」」」」


「はぁ!?じゃあ何か!?これがあの魔獣だってのか!?」


「どういうことですか!?姉さん!?」


 ライオニールとセリオンが詰め寄る。


「お、落ち着いてふたりとも。ネーヴさん、困ってるから」


 ローランドがなんとかなだめた。


「あの…えっと…

そ、それでも体液や皮膚片は残っていたので、なんとか調べることが出来て…

なんというか…魔力か何かで変化したような形跡はあって…

でも死んだ蛙本体の方からは何も出なかったんです」


「…ってことは、あの蛙が魔法で変化した姿が魔獣ってことなのか?」


 ライオニールが作業台を改めて見る。


「なるほど…どおりで死体が見つからないわけだ。

死んだ魔獣は全部、元になった生物の姿に戻ってるのだから…そうなると…」


 サフィーロの考えを読み取り、ミストが答える。


「ええ、蛙の方から何も出なかったというのが謎ですね。

魔力で変化させるにしても、何かしらの痕跡もないとは…」


「生物を魔獣に変える魔法なんてあるのですか?」


 ローランドがグレイスに聞く。


「少なくとも、私たちは知らないわね」


 ここでゼクシアは記憶を遡った。


(何か…何か引っかかるような…そういえば…)


「……邪神はその血を分けることで魔獣を生み出した…」


 ゼクシアは思い出したことをボソッと呟いた。

この世界の元となる、『スペリオール・ファンタジア』の冒頭のナレーションの一部である。

その場にいた全員の視線がゼクシアに向けられる。


「えっと……邪神と聖剣神の戦いを書いた本をセリオン様と調べていて…そこに書いてあったような…」


 ゼクシアは必死に言い訳してみせたが、ネーヴは逆に納得していた。


「なるほど…盲点でした。

もしかしたら、魔獣は邪神の血を生物が摂取することで生まれるのかも…

邪神の血にそんな効力があったなんて…」


「じゃあ、魔獣が死んだことでその効力がなくなった…ということですね、姉さん」


 ネーヴは頷いた。


「ってことは、やっぱり邪神は復活してるのか?」


「だとしたら、なぜ邪神本体が現れない?

わざわざ魔獣だけで攻めてこさせる理由は?」


 ライオニールとサフィーロが疑問をぶつけ合う。


「…邪神は動けないのではないでしょうか…

だから、魔獣だけで攻めてきた…」


 ミストの回答にライオニールがさらに疑問を投げかける。


「だとしても、一気に魔獣で攻めてこないのは何でだ?

ずっと1体か2体ずつぐらいでしか来ないじゃねえか。

それなりの数を作って出てきてもおかしくねえだろ?」


 これまでの話をゼクシアは頭の中でまとめた。

魔獣は邪神の血を動物が摂取することで生まれること。

魔獣は1〜2体でしか現れないこと。

こちらにとって不利な個体が現れること。

邪神本体が攻めてこないこと。

ここから考えられることは…

ゼクシアは自分の考えを話し始める。


「……あくまで仮説なのですが…

邪神が魔獣を作っているのではないと思いますわ…」


「…どういうこと?ゼクシアちゃん」


 グレイスの問いにゼクシアは話を続ける。


「魔獣の生成方法と出現傾向を考えると、邪神自身が血を分け与えているとは思えないのです。

たとえば、誰かが邪神から血を抜き取り、動物に与えている…とか…」


「邪神の血を…抜き取る?」


 あまりにも突拍子のない考えに全員が呆然としてしまう。

元いた世界の医療では当たり前だが、この世界には輸血やら採血の発想が浸透していなかった。


「ライオニール様のおっしゃる通りなのです。

復活してるなら本体が来ればいいし、何体も魔獣を出すべきなのです。

それが来るのは1体か2体…

ならば復活していないとも考えられます」


「なるほど…

森から魔獣が出ていたのは、森に生息する動物を母体に作ったから。

木の魔獣を作ったのは調査隊の派遣に伴って、証拠を処分するから。

そして前回の鳥や今回の蛙は、森に生息していないものを捕まえて魔獣にしたってわけだね」


 サフィーロもゼクシアの答えに納得した。


「…じゃあよ、前にテメェが話してた、苦手な奴が来るってのは?」


ライオニールが聞く。


「最初と2回目は別として、その次の兎の魔獣はゼクスカイザーよりに素早い魔物でした。

おそらくこちらの手の内を探るために用意したんだと思います。

牛の魔獣にはこちらの攻撃が通りませんでした。

今考えると、明らかに対策していたとしか思えません」


「さらに木の魔獣はゼクスカイザーが属性魔法を使えないことを突かれていた…

ここからだね、より違和感を感じたのは…」


 ローランドが答えた。


「そうですわね。なぜかそのことを知られてしまっていましたし…

さらにこちら側全員に飛行能力がないことを突いて鳥の魔獣が出ました」


「蛙の方は捕獲される可能性を考えて作られたってことか…」


「じゃあ、最初と2回目が別だと言ったのはどうしてだい?」


 サフィーロが問いかける。


「最初はそもそもこの国の襲撃が目的だったのではないでしょうか。

あの段階では誰も魔獣を倒すことが出来なかったから…」


「でも、ゼクシアが倒してしまった…」


「ええ…私も()()()浅はかでしたわ…

あの2回の戦闘ですでにかなりの戦術を見せてしまっていましたから…対策されるのは必然ですわ」


「…色々?」


 サフィーロが疑問を投げかけたところで、ゼクシアはグレイスに頭を下げた。


「申し訳ございません。お義母様。私がもっと慎重に動いていれば…」


「いいえ、ゼクシアちゃんのせいじゃないわ。

そもそも魔獣の出現に人間が関与しているなんて思わないもの…」


 2人の会話の意味がわからず、全員が顔を合わせる。


「どういうことだい?ゼクシア」


 サフィーロの問いに答える間もなく、研究所に大きな振動が走る。


「!?何ですの!?」


 研究員のひとりが慌てて入ってきた。


「た、大変です!魔獣がこの研究所の近くに!!」


「なるほど…調べられたくないからここを潰そうって魂胆ですのね」


「どうしてここがわかったんだ!?」


「 セリオン様、今は話している場合ではありませんわ!行きましょう!」


 全員で研究員案内のもと、外に向かっていく。


「ゼクシアちゃん!」


 グレイスに呼び止められ、ゼクシアは振り返る。


「……気をつけてね」


 ゼクシアは静かにうなづき、走っていった。

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