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幕間その12 激アツ?ドッジボール

 ミストから連絡を受け、ゼクシアは競技場へ来ていた。

なんでも、サフィーロ達とアシュレイドがドッジボールをすることになったらしい。

試合を見ようと、競技場内は見物客でいっぱいになっていた。

 スペリオール・ファンタジアには、『激アツ!ドッジボール!』という謎のミニゲームがある。

シンプルにメインキャラがドット絵のデフォルメサイズになってドッジボールをする…だけ。

まるでどこかのレトロゲームのようなものであるが、魔法が使えたり必殺技があるわけでもないので迫力もない。

一応、キャラの信頼度は上がるイベントではあるが、勝敗はクリアには一切関係ない。

時間だけが無駄に消費される虚無ゲーである。


「…まさか本当にドッジボールをやるとは思ってもみませんでしたわ…

しかも、人混みがとんでもないことになってますわね…

さて、ミストさんは…っと、いましたわね」


 会場を見回して、ミストが手を振ってくれているのを見つけた。

どうやら、1番眺めのいい席を取っていてくれていたようだ。


「ごきげんよう、ミストさん。あの…なぜこのようなことに…?」


「…実は…」


 ミストはこれまでにあったことをゼクシアに伝えた。

サフィーロとライオニールがセリオンを詰め寄ったことに始まり、アシュレイドに勝負を挑むまでのことを…


「はぁ…そういうことでしたか…」


 ゼクシアからはそれ以上の言葉は出なかった。

しかし、ドッジボールの試合自体は何も問題ないだろう。

頭脳派のセリオン、俊敏なサフィーロ、ライオニールのパワー、バランスよく運動ができるローランド…

チームの要としてこれほど頼もしいものはいない…

そう思っていたのだが、入場した選手たちを見て、その考えは一蹴される。

 アシュレイドの陣営はコート内に15〜6人程度、外野にも6人ほど選手がいた。

もう片方のコートにはサフィーロひとりだけ、残りの3人は外野に立っており、ローランド以外はそれぞれ準備運動をしていた。


「…あの、ミストさん?見間違いでなければ…

サフィーロ様たちのチームは4人しかいないのですが…」


 恐る恐るミストに聞いてみたが、ミストは淡々と答える。


「見間違いなどではございません。間違いなく4人です」


「…なんでこんな状況になっているんですか?」


「それが…サフィーロ様が何人でもいいからかかって来いと…

こちらは4人でいいとおっしゃって…

ライオニール様とセリオン様も了承する形でこうなりまして…」


「ちなみに、ローランド様は…」


「止めていましたよ、一応…でもそのせいで、

『邪魔するくらいなら外野で黙って立ってろ』!

…とライオニール様に言われておりましたね」


 ゼクシアは呆れ果ててため息しか出なかった。


「貴様ら…この私に逆らったことを後悔させてやろう…」


 アシュレイドがニヤニヤしながら上から目線で挑発する。

さすがに余裕があるせいか、ボールはサフィーロ達に譲られた。


「そっちこそ、…後悔することになるよ」


 試合開始の笛が響き渡り、場内は歓声で包まれる。

それと同時に、サフィーロはそのボールをライオニールに回す。


「よし!みんな!私を守るんだ!」


 アシュレイドチームの生徒達はアシュレイドの周りに集まった。


「ハーッハッハ!この陣形!破れるものなら破ってみろ!」


「おら…よっと!」


 ライオニールがボールを投げる動作をした次の瞬間、笑っていたアシュレイドの顔面にボールがめり込んだ。

誰一人として動くことすら出来ず、落ちたボールはそのままライオニールの元に転がっていた。


「おっといけねぇ…手が滑っちまったぜ」


 アシュレイドは完全に意識を失い、運ばれていってしまった。

盛り上がっていた会場は一変、一気に静かになった。


「…あれってまさか、ワザとでしょうか?」


 ゼクシアがミストに聞く。


「い、いえ、そんなことは…ないかと思います…たぶん…きっと…」


 ミストの答えもしどろもどろだった。


「さて、続けようぜ」


「ひ、ひぃぃぃぃ!」


 怯える生徒達にライオニールの豪速球が襲いかかる。

ガタイのいい選手がなんとか受け止めるが、敢えなく吹き飛ばされ地面に落ちてしまう。


「チャンスだ!やれ!向こうは1人だけだ!」


 外野の生徒が指示を飛ばす。


「よっと!」


 サフィーロは最低限の動きでボールをかわした。

外野がすかさずキャッチしてパス回しで翻弄しながらサフィーロを狙うが、ぴょんぴょん動き回るため一向に当たらない。


「何をしている!?よく狙え!」


 選手たちの指示は怒号に変わる。


「当たるわけないじゃない」


 サフィーロはボールを取ると、相手のコート目掛けて投げ、1人の選手に当てる。

そのままボールは外野のセリオンの元へ転がっていく。


「いくぞ」


 セリオンがボールを投げ、1人の選手に当たると、回転がかかりセリオンの手元に戻ってきた。

セリオンの手に渡った瞬間、内野の選手がボールを取ることはなくなる。

的確に取れない位置に当てられ、回転のかかったボールは確実にセリオンの手元に戻るからである。

セリオンの計算は完璧であった。

 その後も、ライオニールがふっ飛ばし、セリオンが的確に当て、サフィーロはひたすらに避け続けた。

ローランドはその情景をただ見ているだけだった。


「……なんでしょう…申し訳なくなってきましたわ…」


「まぁ、きっかけはゼクシア様ですからね…ほとんどの人が知らないとは思いますが…」


 ゼクシアとミストは大きくため息をついた。


 気づけばあっという間に試合終了の笛が鳴り、激アツとは真逆のドッジボールは幕を閉じた。

アシュレイドチームは5分と経たずに全滅という圧倒的な結果となった。

参加者の中には選手志望もいたのだが、この試合がきっかけで心が折れ引退した者もいたという…。

この試合は後に『静寂の冷戦』と呼ばれ、学園に後世まで語り継がれることとなる。

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