幕間その10 サフィーロとライオニール
セリオンのおかげで、魔獣の捕獲に成功した。
現在、グレイス主導の元、魔獣の研究が進められている。
結果が出るまではそれぞれの時間を過ごすこととなった。
ゼクシアとセリオンは図書館で魔獣について、邪神について調べ物をしていた。
過去の文献が何かしらあれば、と思い調べていたのだが、これといって成果はなかった。
「すみません、セリオン様。こんな遅くまでお付き合いさせてしまって…」
「構わないさ。君の力になれるなら、いつでも力を貸すよ」
あの告白の日以降、ゼクシアはまともにセリオンの顔を見られないでいた。
恥ずかしい…と表現するべきなのか…目を合わせるとドキドキしてしまうからである。
まさかセリオンがそこまで自分のことを想っていたなんて、ゼクシアは想像もしていなかった。
動揺はしてしまったが、悪い気はしていない。
(前世が男とはいえ、心は乙女なのですね…こんな気持ちになるなんて…変に意識してしまいますわ…)
前世ではずっとキモオタ扱いされてきていたし、今世でも破滅エンドの回避と魔獣を相手にすることで頭がいっぱいで恋なんて考えたことすらなかった。
(うう…気まずい…どうしたらいいんですの…こういう時…
…天気の話…?いや、夜だし…
告白のこと…触れるのは私の方が恥ずかしい…)
考えれば考えるほど、ゼクシアの頭の中はどんどん真っ白になっていく。
「ゼクシア!」
「ひゃい!!」
急にセリオンに呼ばれ、驚きまともな返事が出なかった。
「だ、どうされましたか!?セリオン様!?」
もはや動揺して口も回らなくなってきている。
「何か聞こえないかい?」
セリオンに何を言われてもドキドキしてしまう。
(私の心臓の音しか聞こえませんわよ〜!)
などと考えていたが、よく耳をすませると、金属がぶつかるような音が聞こえる。
それだけではない。風が吹くような音もする。
だが、今日は特に風が強く吹くような日ではない。
「…なんでしょう?この音…」
ようやく冷静さを取り戻したゼクシアはセリオンと共に音のする方へ向かった。
「…決闘場?」
「こんな時間に誰かが決闘しているのか?」
ふたりは恐る恐る中へ入る。
影に隠れながら中の様子を覗くと、そこにはサフィーロとライオニール、ミストがいた。
よく見ると訓練用の木剣ではなく、本物の剣で戦っているようだった。
さらにはサフィーロは容赦なく魔法を放っている。
ライオニールはなんとか避けながら近づくチャンスを伺っているようだった。
「!!なぜあんなことを!?止めないと!」
ゼクシアが止めるために出ていこうとするが、セリオンに止められる。
「!なぜです!? セリオン様!あんなの危険すぎます!止めないと!」
「わかっている!だけど様子を見よう…
彼らだってそれがわからないわけじゃないはずだ…
もし危なかったら僕が止める」
「でも…」
ゼクシアは心配そうにふたりの戦いを見ていた。
「僕ならこの位置からでも止められる。僕を…そして彼らを信じてくれ」
ゼクシアはセリオンの言葉を聞き、ただ見守る選択をした。
「ウィンドエッジ!!」
サフィーロは得意の風魔法で複数の刃を放つ。
「ハッ!甘いぜ!超電磁ストーム!!」
ライオニールは左手から電気を帯びた竜巻を出して風の刃を弾いて軌道を逸らす。
「ライオニール様…いつの間に魔法を…」
「ヤツなりに努力しているんだ…君の力になるために…ね…」
「セリオン様…まさか知っておられたのですか?」
セリオンはため息をついて話し始める。
「ライオニールから頼まれたのさ。
ゼクシアとローランドに内緒で魔法を教えてくれってね。
僕とサフィーロに頭を下げていたよ。
それでサフィーロが承諾して今に至るというわけさ。
僕は魔法は教えられても、剣はからっきしだからね。
だが、こんな遅くまでやってるのは初めて知ったよ」
「…なぜ私とローランド様には内緒なのですか?」
「さぁ…君にいい格好をしたかったんじゃないか…
そしてローランドには負けたくないからだと思う。
プライドが高いからな…」
サフィーロとライオニールは再び剣でぶつかり合っていた。
「どうした!サフィ!この程度かよ!!
そんな力で王になるってかぁ!?笑わせんじゃねえぜ!」
「ふっ、そんな挑発で僕がどうにかなると思うかい?ライ!
確かに魔法も少しは扱えるようになったようだけど、でも、僕は負ける気はないからね!」
ふたりの決闘はなんだか楽しそうに見える。
ゼクシアは振り向き、その場を去ろうとした。
「いいのかい?見なくても…」
「私には内緒…なのでしょう?見なかったことにいたしますわ…
男同士の時間を邪魔するわけにはいきませんもの…」
ゼクシアとセリオンはその場を去った。
「…さて、私たちも頑張りませんと…ね」
セリオンは頷き、ふたりは帰路へとついた。