幕間その9 アイリスとセリオン
「はぁぁ…どうして僕は昨日あんな態度を…」
ゼクシアに対して冷たく当たってしまい、セリオンは心の底から後悔していた。
学園には誰よりも早くついたものの、誰にも会えずにベンチで座っていた。
「ゼクシアのことを悪く思っているわけじゃないのに…
ゼクシアのことを想うと胸が苦しくて、切なくて…
仲間の対応に苛立って、でも役に立たない自分にも腹が立って…
一体どうしたと言うんだ、僕は…」
客観的に見れば、答えは分かりきっているものなのだが、今のセリオンではその発想には至らない。
「あら、セリオン様!いかがされましたか?」
ふと、声をかけられ、顔を上げる。
「君は…えっと…アイリスさんだったかな?」
「はい!覚えていてくださって嬉しいですわ!」
隣失礼します、と言わんばかりにアイリスはセリオンの隣に座った。
セリオンとしては正直いい気分ではない。
彼女もまた、ゼクシアを泣かせるひとりなのだから。
「どうしましたか?セリオン様、何かお悩みですか?
私でよければお話聞きますわよ?話せばきっと楽になりますわ」
セリオンは警戒していたが、アイリスの言葉に少し考えた。
たしかに、ゼクシアはもちろんだが、仲間達にも相談できないのは事実である。
何か解決の糸口が見つかるなら…と思い、セリオンはゼクシアや仲間のことは伏せつつ、悩みを打ち明けることにした。
(…え?それってつまり…恋!?
セリオン様が誰かに恋をしてる…?
流れ的には…私じゃん!!
だってアイリスだよ!正ヒロインだもん!
間違いない!)
アイリスはセリオンの悩みを聞き、ひとり舞い上がっていた。
セリオンがゼクシアの名前を伏せたことにより、完全に勘違いをしてしまったのである。
(いや、落ち着け…
ここはあくまで相談に乗ってるってことで…)
アイリスは自身を落ち着かせ、自分の存在を伏せて答えることにした。
「セリオン様、それはおそらくですが、恋なのではないでしょうか?」
「……恋?」
セリオンは言われた言葉が理解できず、聞き返す。
「恋ってすごいんですよ。
相手のことを好きになると、その人のことしか考えられなくて、胸が張り裂けそうになる感じ…
そばにいたくて、抱きしめたくて、好きをたくさん伝えたくって…
セリオン様のはまさにそれ!恋をしているんですよ!」
セリオンはアイリスの勢いに少し圧倒してしまう。
「そう…なのか…でも、どうしたらいいのものか…」
迷っているセリオンにアイリスは力一杯答えた。
「そりゃあもう!好きって伝えるべきですよ!
愛してるって!大好きだって!
その人もきっと喜びますよ!うん!」
「だが…」
「勇気を出してください!
貴方の好きな人はきっと待ってくれてますよ!
好きって言ってもらえるのを!
他の男に取られてもいいんですか!?」
アイリスに背中を押され、セリオンはハッとなった。
(そうだ…いやだ…
他のやつになんて取られたくない…
それがたとえ仲間であったとしても…
僕はずっと…ゼクシアが好きだった…
この想いを伝えたかった…
好きだって知って欲しかったんだ…
でも勇気が出なかった…
そして婚約者が決まってしまい、いつのまにか諦めていた…
でも…それでも僕は…!)
セリオンは立ち上がった。
「アイリスさん、ありがとう!僕行くよ!」
「はい!……え?」
アイリスは思わず返事をしたが、予想外の答えに困惑した。
この流れでこのまま告白されるものだと思っていたからである。
セリオンはその場を走り去っていってしまった。
「え?え?…ち、ちょっと!セリオン様ぁ!!」
呼びかけるも振り返ることなく、セリオンの背中はあっという間に見えなくなった。
「………なんでよ…
なんでよ!どう考えても私に告白する流れでしょ!?
今のは!!
なんでどいつもこいつも上手くいかないわけ!?
私、アイリスだよ!?主人公!ヒロイン!
全っ!然、ハーレムにならないじゃない!」
アイリスが癇癪をたてていると、「お嬢様」と、男の声で呼びかけられる。
そこに立っていたのは一緒に暮らしている従者のリブルであった。
「あら、リブルどうしたの?学園まで来て」
「お嬢様、旦那様がこちらへお越しになることになりましたのでご報告を…」