幕間その8 スペリオール・ファンタジア
僕はとあるゲーム会社に勤めている。
今、新作ゲームのアイディアを資料にまとめているところだ。
とはいっても、世界観くらいしか出来ていないけど…
聖剣を使って召喚される巨大ロボ、聖剣神、
それを使って魔獣や邪神を倒して世界を救う、
名付けて、『聖剣神話』
基本設定や聖剣神のデザイン、キャラデザなどを資料にまとめていたところ、部長が声をかけてきた。
「やあ、進捗はどうだい?」
「はい、部長。
今新作のアイディアをまとめていたところです」
「ほう、ちょっと見せてくれないか」
僕は部長にたった今まとめた資料を見せた。
部長はじっくり読んでくれていた。
「なるほどね…なかなかいい作品になりそうだ。
私の方でも何かアイディアが出せるかもしれない。
この資料、少し借りてもいいかな?」
部長の提案に僕は喜んで承諾した。
正直なところ、RPGにするかアクションにするかすら悩んでいたし、誰かのアドバイスは欲しかったので…
「ええ、ぜひお願いします」
こうして、部長は僕の作った資料を持って行った。
…………………………
それから1週間…
僕は体調を崩し、しばらく会社を休んでいた。
久しぶりに出社したばかりだったが、いきなり社長に呼びかけられる。
「ちょっといいかな」
「はい、なんでしょうか?」
全くもって身に覚えがない。
いったい僕が何をしたというんだろうか…
「先日君の企画したゲームが発売されたが、売れ行きが悪くてね…
どうしたものかと考えて…」
と社長の話を遮って部長が鬼の形相でやってきた。
「社長!こんな奴に甘い対応をしてはいけません!
舐められますよ!
おい!これお前の作ったゲームだろ!?
なんだこの駄作は!?」
そう言って部長から見せられたのは「スペリオール・ファンタジア」という女性向けの恋愛ゲームだった。
よく見てみると、そこには僕が作ったキャラが写っていた。
「ええ!?なんですか、このゲーム!?」
「まだとぼけるつもりか!?お前が作った資料もあるんだぞ!!」
そう言って部長が出したのは、この前、部長に渡した資料だった。
「い、いや、それは仮の資料で…
僕もRPGにするかアクションにするか迷っていたところだったんです…
それを部長が持っていって…
というか部長、それを渡したの先週ですよね?
なんでこの短期間でこれをゲームに出来たんですか?」
社長に本当のことを話しつつ、部長にも聞いてみたが、部長の方はまるで話を聞く気がないようだった。
「黙れ!そんな嘘が通じると思ったか!
先週、すでに完成したゲームとして提出したんだろうが!
社長、こいつの言うことを信じてはいけませんぞ!」
部長はあきらかに社長に媚を売っている。
「社長!違うんです…!」
なんとか弁明しようとするが、社長にはもう、僕の言葉は届かなかった。
「…残念ながら今回の責任は有耶無耶には出来なくてね…
クビ…とかそういうところまではいかないが…
部署移動はして貰おうかなと…
君も疲れただろう?移動先でゆっくりするといい」
僕はそれ以上何も言えなかった。
仕方なく、現状を受け入れるしかない…と思った。
「………わかりました」
僕は、『第二開発部』という部署に移動した。
開発部とは名ばかりで、社内のはみ出しものが集まる窓際部署だった。
なんとか頑張ろうとしたのだが、どうしても新たな企画が思いつかず、頭を抱える日々だった。
しばらくして、僕は会社を去ることとなった。
第二開発部の中で聞いたが、部長は過去にも部下の企画を自分のものとして提出していたらしい。
帰りの電車、たまたま近くの男子学生の話し声が聞こえてきた。
「スペリオール・ファンタジア」は今年1番のクソゲーとして不名誉な賞を獲得したらしい…とのことである。
自分が作ったゲームではないが、世界観は自分が作ったものだ…
僕の作った世界を否定されているような気持ちになった。
その日はかなり酒を飲んだ。
「……どうしてだよぉ…どうして僕の世界が否定されなきゃならないんだよぉ…
僕は面白いゲームを作りたかっただけなのにぃ…」
かなり泥酔していて、そこからの記憶は曖昧だった。
階段を下って…足を滑らせたあたりで僕の記憶は一旦途切れる…
次に目が覚めた場所は『僕の世界』だった。