幕間その7 思い出してみますわ
※今回はゼクシア主観になります。
その日の夜、ベッドに横になった私はこれまでのことを整理することにした。
魔獣の出現が人為的で、こちらに不利な相手をぶつけてきている前提なら、ミストさんの言うとおり、内通者がいる可能性が高い。
でもその候補がセリオン様とお義母様だなんて…
さすがにあり得ませんわね…
それでも疑いを晴らす根拠を提示できなかったのが痛いですわね…
私情で庇ってるとしか思われないですから…
でも他に内通者の候補なんていませんし…
「…こうなったら、ダメ元で前世の記憶を辿りましょうか…」
私は前世で見たこの世界、「スペリオール・ファンタジア」のゲーム内容を思い出すことにした。
もしこの世界が仮に小説や漫画、アニメだったとして、これを見ているそこのあなたはこう思うはずですわ。
『どうして最初からやらなかった』と…
ごもっともですわ、私だって同じことを思いますもの…
でも、それにはふたつほど理由があります。
まずひとつ…
このゲーム、内容があまりにも薄すぎるのですわ…
噂によるとこのゲーム、本来RPGとして売り出す予定が、メイン開発者が設定のみをパクって恋愛ゲームとして発売。
キャラと世界観のざっくりした設定しかなかったせいで、ストーリーは薄っぺらく、システムも雑。
ボイスもなく、メインキャラのイチャイチャした挿し絵を使いまわして、あとは立ち絵だけの紙芝居方式。
やり込み要素も大してないのにフルプライスで出したもんだから、無事その年のクソゲーの頂点に君臨した。
そこから業績が上がらず、会社は倒産したと聞いた。
そういう背景があってか、聖剣神や邪神、魔獣あたりの設定はガバガバ。
魔獣がどうやって作られたとか、邪神がどうやって復活したのかとか、ろくに書いてないですし、まともな戦闘シーンはおろか、邪神や魔獣、さらには聖剣神のイラストすらゲーム本編では見られないってことですわ。
だって、邪神と戦うシーンも、
『これが私たちの愛の力だ!』
とか言ってメインキャラ5人とアイリスがグーパンしてる挿絵一枚で終わるんですよ?どうしろと?
…まぁ、そのガバガバ設定が全く役に立ってないわけではなくて…
ゼクシアとしての破滅フラグ回避は基本、アイリスさんを虐めなければいいだけですし、聖剣神も好きなように作れたから、そこだけは助かりましたけどね。
余談ですが、妹の光里がハマった理由は単純明快、
キャラの顔がいい、ということです。
さらに主人公はデフォルト名こそあれど、自由に決められるので、ハーレムエンドとなれば好みの5人のイケメンから自分の名前が呼ばれるもんだから、妄想が捗ったのでしょう…
さて、話を戻して、
問題点がこれだけなら何ともないと思われますでしょう。
どんなに薄っぺらい内容でも、ゲームの内容を思い出せばいいことですから。
でも、ここでもうひとつの問題が発生いたします。
それは今現在、この世界がゲームに存在するルートをどれひとつとして辿っていないということですわ。
まぁでもそれは、私のせいっていうのも多少なりともある…とは思いますけど…
でもそれは仕方ないのでは?だって死にたくないんですもの!
他の世界の悪役令嬢だって、同じような体験したら同じように破滅回避するでしょう!?
ゼクスカイザーは……まぁ、確かにアレはダメか…
本来回収するタイミング以外で回収するはずのない人間がしているわけですから…
誤差では許されませんわね、確かに…
…それにしても、どうも改変が誤差で済む範囲を超えてるような気がしますわね…
決闘イベントもライオニール様が勝っちゃうし…
聖剣神はどれも見た目が全然違うし…
それに…ローランド様やサフィーロ様から口付けをもらうなんて…
それに最近、ライオニール様も距離が近いような気がしますわ…
この前、壁ドンからの顎クイなんてやられましたわよ…
まぁ、その分殿下やアイリスさんは不用意に絡んでくることはなくなりましたけど…
でもこれじゃあまるで…
「私の方がヒロインではありませんか…」
いくらなんでも、そこまで改変した自覚はありませんわよ〜!!
…ダメですわね…煮詰まってきてしまいましたわ。
「…はぁ…明日の準備をして休むとしましょうか…」
私は身体を起こし、カバンを整理することにした。
するとカバンから、お義母様からもらった袋が落ちた。
昨日これを貰い、中に学園長室の鍵が入っていたのだ。
落とした袋を見ると、小さく折り畳まれた紙が出てきていた。
拾い上げてその紙を広げた。
「?…手紙?」
差出人はお義母様だった。
その手紙に書かれていた内容は衝撃的なものでした。