第3話 学園長に呼び出されましたわ
「はぁ…」
ゼクシアは深いため息をついていた。
魔獣を倒した次の日、学園長室まで呼びだされたからである。
だが、何かをやらかした記憶もない。
もちろん、ヒロインを虐めたわけでもない。
呼ばれる理由が本当にわからない上に、生徒指導の教師をすっ飛ばして学園長ときたもんだ。
不安と緊張で体がこわばる。
ゼクシアはドアをノックした。
「失礼致します。ゼクシア・クロムウェル、参りました」
ドアを開けると、部屋には学園長のマーレインが、応接用のソファに座っている。
60代前後の優しそうな女性だが、威厳というかオーラを感じる。
学園長はゼクシアにも座るように促した。
ゼクシアが腰を下ろすと、おもむろに話し始める。
「さて、ゼクシアさん、説明していただきたいことがあるのですが」
なんのことだ?と疑問に思っていると、学園長はテーブルの上に水晶玉を出した。
学園長が魔力をこめると、映像が映され、そこには魔獣と戦うゼクスカイザーの姿が映っていた。
映像記録の魔道具…いつの間に撮られていたんだ…
あの突発的な状況で、そんな余裕があったのか、それにしてもなぜ学園長が…どこからこんな…などと頭を巡らせていると、
「これを操っているのは、貴女ですよね」
(いきなり核心をついてきた!
そんな!あの時周りには誰もいなかったはず!)
「たまたま、あなたがこの巨人のようなものを召喚しているところを見ましてね、急いで映像記録の魔道具を使って記録に向かわせたのですよ」
迂闊だった…魔獣の出現で浮かれていた。
学園の外は誰もいなかったのだが、中までは見逃していた。
「言い逃れは出来ませんよ?ゼクシアち…ゼクシアさん」
学園長が詰め寄る。
ふと、ゼクシアはあることに気づいた。
なんとなく、学園長が何かを我慢しているような…
それにこの匂い…どこかで嗅いだことがあるような。
そして少し考えて、真相に辿り着く。
あぁ、そうだ、この人はそういう人だった…と。
「わかりましたわ、学園長を前に嘘など意味はありませんし、見られている以上、嘘をつく理由もございません。お話しいたします。
ですが、ひとつお願いがあります。」
何かしら?と問われ、ゼクシアは続けた。
「この部屋に防音魔法をかけてくださいませんか?
あまり聞かれたくない話ですし、
その方が貴女にとっても都合がよろしいのではありませんか?学園長
…いえ、お義母様」
少し、ほんの少しだけ学園長の表情が変わった。
「…なんのことかしら?」
と、学園長が尋ねる。
「しらを切るのは無駄ですわ、変身魔法ですわね。
たとえ他の人間の目は誤魔化せても、私はそうは参りませんわ
一瞬、私をゼクシアちゃんと呼ぼうとしたこと、そしてこの香水の匂い、これは王妃ご愛用のものですわね。
グレイス王妃様」
グレイス王妃と呼ばれたその人は、小さくため息をつく。
さすがね、と言った後に、指を鳴らした。
部屋に防音魔法が掛かったのである。
そしてその姿は30代後半くらいの黒髪の女性へと姿を変えた。
ゼクシアが話そうとする前に、
「はぁぁぁぁぁ!ゼクシアちゃぁぁぁん!」
張り詰めた糸が切れたかのように、
学園長…だった女性はゼクシアを抱きしめた。
「かわいい!かわいい!かわいいわぁ!
ゼクシアちゃん!
そんな愛おしいゼクシアちゃんが
どうしてあんなカッコいい事ができたの!?
はぁぁぁ!!かわいい!かっこいい!
かわいい!!かっこいいいぃぃ!!!」
きゃぁぁぁ!と叫びながら悶えている。
先ほどの威厳もへったくれもない。
「しかも!しかもよ!私の完璧な変身魔法も見破るなんて!
一度だって他の誰にも見破られたことないのに!
さすがよゼクシアちゃん!さすが未来の王妃!私の義娘ぇぇ!!」
完全に我を忘れている様子だった。
「お、落ち着いてくださいませ、王妃様…」
と、宥めようとするが、
「いや!何度言ったらわかるの!ゼクシアちゃん!
2人っきりの時は"お義母様"と呼んでと言っているでしょ!」
苦笑いをしながら頬をかくゼクシアであった。
改めまして、この人物こそ、グランシュタイン王国
国立魔法学院の学園長であり、この国の王妃である。
グレイス・グランシュタインその人である。
第一皇子と婚約を交わしてから、王妃教育としてこの人から教育を受けているので、かれこれ7〜8年以上はお付き合いがある。
剣術や武術に関しては別の先生が担当していたが、他の学問や魔法、淑女教育は全て彼女から受けている。
ゼクシアが優秀だった事、また王家に女の子が生まれなかったこともあって、娘と同じくらいの愛情を注がれていたのである。
とはいえ、特別甘やかされていたわけでもない。
教育自体は厳しいものだったのだが、ゼクシアの先天的な能力なのか、それとも転生前の佐藤創真の真面目な性格のせいか、難なくこなせたのは事実である。
もっとも、似たような教育を受けていた第一皇子の方は、かなり根を上げていたのだが…