第20話② セリオンの悩みですわ
「…セリオンに嫌われた?」
ローランドの質問にゼクシアはコクッと頷いた。
ゼクシアは学園長室の長椅子に座り、うなだれていた。
セリオンに手を払われたことでかなり落ち込んでしまっている。
「それでそんなに落ち込んでるのか?情けねえ」
ライオニールなりに励まそうとしたのだろうが、ゼクシアはさらにうなだれてしまう。
ライオニールはミストから睨まれてしまった。
「…私、何か気に触ることを言ってしまったでしょうか…」
「セリオンは大丈夫、少し疲れてるだけだよ、きっと。
彼が頑張り屋なのは知ってるだろ?」
ローランドがゼクシアの頭を撫でながら励ます。
ゼクシアは少し安心して頷いた。
「それはそれとして、いいのかい?
今日、学園長いないけどこの部屋使って」
サフィーロがゼクシアに尋ねた。
「学園長はしばらく出張で忙しくなるとのことで、鍵を預かったのですわ。
逆にここの方が防音はしっかりしてるから、誰にも私たちの話を聞かれることはないとのことで、ここを使うことを推奨されましたわ」
学園長…というより、グレイス王妃として忙しいようだ。
魔獣の調査について指揮していることもそうだが、他にもやらなければならないことがあるらしい。
しばらく学園を空けることをゼクシアはすでに聞いていた。
「ふーん…まぁ、僕としてはいいんだけどね。
誰にも見つからないサボり場所が見つかって…」
と、サフィーロが言いかけたところ、お茶を淹れていたミストにギロッと睨まれた。
サフィーロは苦笑いして誤魔化した。
「ここの鍵は私と学園長しか持っていませんから
大丈夫ですよ、ミストさん」
ミストは無言で礼をした。
「そもそも魔獣って自然に生まれるモンじゃねえのか?
わざわざ特別調査隊だの研究チームだの組まなくてもよぉ…」
ライオニールの問いにミストがお茶を配りながら答えた。
「魔獣は1000年前、邪神が生み出したとされています。
そして邪神の封印後、その存在は確認できておりません。
そんな中、魔獣が出現しているとなれば、邪神の復活は確実と言っても過言ではありません」
「つまり、邪神が復活してどこにいるのかを探す…
という意味でもやらなきゃならないってことだね」
ローランドが答える。
「でも、人為的に作られたって話もあるんでしょ?
それはなぜだい?」
サフィーロの問いにはゼクシアが答える。
「ここ最近の魔獣の出現パターンに違和感を覚えて、それをお義母様にも進言していたのです。
どれもゼクスカイザーだけでは倒せない魔物ばかりでしたので」
「…まぁ、空を飛ぶ魔物に対して何も出来なかったはわかるけど、それだけだと…」
ローランドが続けて答える。
「それだけじゃない。
森の調査をするタイミングで森全体を操れる木の魔獣が現れた…
偶然にしては出来すぎてる。
それにあの魔獣…ゼクスカイザーの拘束が的確すぎたんだ。
まるで、誰かの指示で動いていたかのように…」
「考えすぎじゃねぇのか?飛躍しすぎっつうかよ…」
ライオニールの答えにサフィーロも同調する。
「偶然が重なれば必然になる…とはよく言うけど…
人為的ってなると、ライの言うとおり飛躍してるような気はするよね…
何より、確たる証拠がない…」
サフィーロの言うとおりだ。
ゼクシアとローランドの考えはあくまで疑惑でしかない。
確信たるものが何もないのだ。
ゼクシアが考え込んでる中、ミストが口を開いた。
「……我々の中に内通者がいる…ということでしょうか」
「内通者って…おい!この中に裏切り者がいるってことか!?」
ライオニールが驚き、立ち上がる。
ミストは淡々と答える。
「森の調査の日に魔獣が現れた…という事実に対して、それを人為的なものと考えるなら…
黒幕はこちらの情報をある程度把握していないといけません。
それはゼクシア様がおっしゃっていたことも同じです
こちらの弱点を知っているものが情報を流している…
そう考えれば、魔獣は人為的に作られている…という説明につながります。」
言われてみればそうかもしれない…
木の魔獣は属性攻撃が出来ないから、
鳥の魔獣は飛行能力がないから、
ゼクスカイザーは不利だという理由で出現したことになる。
「ゼクスカイザーで魔法が使えないことはここでしかしていません…」
「…おい!ゼクシア!まさか俺様たちを疑ってるのか!?」
ライオニールがゼクシアを睨みつける。
「落ち着けライオニール、僕たちじゃないのは自分たちが一番わかってるだろ?
この間の魔獣は、僕達にとっても不利だったんだし」
ローランドがライオニールをなだめた。
「言っておくけど、僕達でもないよ。
仲間になったのは最近だしね」
サフィーロとミストも否定した。
「…となると、候補は学園長かセリオン様ということになりますね」
ミストが淡々と推理を述べる。
ゼクシアは思わず立ち上がった。
「そんな!あり得ませんわ!」
ミストは動じずに続ける。
「何かしらの根拠がおありなのでしょうか?」
「それは…だって…おふたりはその…
すごく信頼できる方ですもの!」
ゼクシアはいつになく何の根拠もない答えをしてしまった。
「…申し訳ございません。ゼクシア様。
信頼できる理由が特に思いつかないということは、
私たちも疑いをかけるしか…」
「そこまでだよ、ミスト。
これ以上ゼクシアをいじめないでくれ」
「しかしサフィーロ様…」
「もし内通者が本当にいるとしたら、この状況は敵にとって都合がいいんじゃないかな。
今は様子を見るほうがいいと思うよ」
ミストは納得して黙った。
今日のところはこれで解散ということになり、全員帰路についた。
ライオニール「おい、ライってなんだ?」
サフィーロ「え?あだ名だけど嫌だったかい?」
ライオニール「馴れ馴れしいんだよ!」
みたいな会話の末にライオニールを「ライ」呼ぶようになるサフィーロ君でした。