第18話 風の聖剣神ですわ
ローランドとライオニールが先に魔獣と遭遇し、戦闘していたが、苦戦を強いられていた。
その理由は…
「クソッ!ちょこまかと飛び回りやがって!
こっちの攻撃が当たらねえ!」
今回の相手は鳥…その姿は猛禽類のそれであろう。
大きな翼、鋭いクチバシ、強靭な爪。
それらを駆使した攻撃が空から来るとあっては、
苦戦も必至である。
「しかも、かなりのスピードだ。捉えられない…」
自由自在に飛び回る敵に対して、魔法の知識の乏しさのせいで、攻撃も拘束も出来ず、聖剣神自体に飛び道具もなく、飛行も出来ない。
ローランドとライオニールにとってはかなり相性が悪い相手となる。
遅れて、ゼクシアが到着した。
「すみません、おふたりとも!遅くなりましたわ!」
「おせぇぞ!ゼクシア!」
ライオニールにどやされてしまう。
「申し訳ありません!遅れた分は取り返しますわ!
スプリットビーム!」
拡散するビームで相手を捉えようとするが、魔獣が速すぎて当たらない。
「おい!当たってねえぞ!」
ライオニールがさらに苛立つ。
「大丈夫ですわ、本命は別ですもの」
ビームで動きが制限された魔獣に向かって、フレイムセイヴァーが飛び上がり、切りつけた。
手応えはあったが、致命傷とまではいかなかった。
「さすがだ!ゼクシア!」
「ライオニール様、今のうちに合体を…」
だが、ゼクシアのその思惑が叶うことはない。
魔獣がゼクスカイザーの肩を鷲掴みにし、空高く飛び上がったのだ。
「なっ…!しまった!」
必死に振り払おうとするゼクスカイザーだったが、あまりに強い力で振り払うことが出来なかった。
ローランドもライオニールも攻撃が届かず、ただ指を咥えて見ているしかなかった。
「くっ!全く振り払えない!
武器も…この位置じゃ当たりませんし、腕も使えませんわ」
肩を掴まれて全く身動きが取れない上に、敵が真上にいるためにほとんどの武器が当たらない。
どのくらいまで上昇したのか…グランシュタイン王国の全体が見えるほどの高さまで来ていた。
この瞬間、魔獣の行動の意図を完全に理解した。
「…これ…さすがにヤバすぎますわ…」
今この高さで落とされたりしたら、さすがに無事では済まない。
いや、それ以前に…
このまま落ちたら街どころか国全体にどれだけ被害が出るかわかったもんじゃない。
ゼクスカイザーの背中にはブースターがある。
それを使えば、落下位置をずらすことは出来るし、多少は落下速度の減速も可能だろう。
だとしても焼け石に水…
この状況が絶望的であることには変わらない。
(どうする?ゼクスカイザーを聖剣に戻す?
いや、こんな空中で戻したら魔獣に狙われてしまいますわ…
ブースターで軌道を逸らす…?
落ちる結果は変わらないのだから、根本的な解決策ではないですわ…
なら、コクピットを開けて私自身の魔法で…
…こんな巨体をどうこう出来る魔法はありませんわ…)
いい案が思いつかず焦っていても、時間は待ってはくれない。
魔獣はゼクスカイザーを離し、落下が始まる。
落下に伴う重力がコクピット内のゼクシアにも襲いかかる。
「くっ……!迷ってる暇はありませんわ!
こうなったら、ブースター最大出力!!」
ゼクスカイザーのブースターが火を吹く。
だが、ゼクシアが思うほど、落下速度が減少することはなかった。
「……!落下速度が落ちない!どうして…!」
その理由をゼクシアが気づくことはない。
なぜなら、無意識のうちに魔力の放出量をセーブしているからである。
魔力がなくなれば、ゼクスカイザーが動かなくなるどころか、機体の維持すら出来ず消滅する。
空中で機体が消滅しようものならば、魔獣に襲われるか、魔法も使えず墜落するかの2択…
どちらにしても死は免れない。
命の危険を頭ではなく本能で感じ取ったが故の無意識の行動である。
「くっ!…ゼクスカイザー!お願いですわ!
言うことを聞いてくださいませ!」
思うようにいかず、焦りで思考が停止する。
大切な人たちの顔が、守りたい人たちの顔が浮かんでくる。
「…もう…ダメ…」
そう諦めかけた瞬間、何かに掴まれたような気がした。
ふと、上を見ると、翠色の鳥に捕まり空を飛んでいることを理解した。
よく見ると、それは魔獣どころか生物ではなく、機械的な姿をしていた。