第17話② 風の王子様ですわ
「自由は幸せとは限りませんわ」
ゼクシアの発言にサフィーロは思わず反応した。
(えええええ!私何を言っているんですの!?
会話の選択肢になかったですわよ、こんなのぉ!)
自然に口に出た言葉だったが故に、ゼクシア自身もも驚いていた。
「…どういう意味かな?」
「いや、あの今のは違いまして…」
「自由は幸せじゃないって?面白いことを言うじゃないか。
どういうことだい?」
ゼクシアは戸惑いながらもなんとか言い訳をしようとするが、サフィーロからじっと見つめられ、それ以上何も言えなかった。
ゼクシアは諦めてため息をつく。
(…もう、いいですわね…こうなった以上、なるようにしかなりませんし…)
元々、魔獣に関しては自分ひとりで戦うつもりだった。
というより、この世界に転生した時に考えたのは、主要キャラとは最低限の付き合いをすること、アシュレイドとアイリスとは極力関わらないこと、
それが出来れば、破滅エンドは回避できると踏んでいたので、
あとはゼクスカイザーで魔獣相手に好き勝手暴れればいい…と思っていた。
なら、サフィーロを仲間にすることなど考えなくてもいい。
むしろ、隣国の王子なんだから戦わせない方がいいくらいだ。
ゼクシアは思ってることを口にすることにした。
「鳥籠の鳥は自由に空を飛ぶことはできない…
ですがその代わりに、餌は主人に与えられ、外敵から襲われる不安もない。
逆に自由に空を飛んでいるように見える野生の鳥たちは、明日の食事もままならない上に、捕食されることもあります。
こればかりは生まれついたもの…運命ですわ」
「なら君は、その運命に従えって言うのかい?
冗談じゃない…僕だって自由でありたい。
好き勝手に生きたいと思うのは悪いことなのかい?」
「貴方のおっしゃっていることは、今、安全圏にいるからこそ言えること。
要はわがままですわ。
私には貴方が、餌は欲しい、外敵から守って欲しい、
でも自由に空を飛ばせてくれ…
そんなわがままを言っている以外の何にも聞こえません
それを貴方の周りの人間が受け入れるとお思いですか?」
サフィーロは言い返せずに黙った。
「お分かりですか?貴方はあの鳥にはなれない…
というより、あの鳥のような幸せを手に入れることは出来ない…という方が正しいでしょうか」
「……なら、僕はどうすればいいっていうんだ。
鳥籠の中にずっといろと君は言いたいのか!」
サフィーロは少し感情的になった。
「…いいえ、それも違います。
なぜなら貴方は鳥籠の鳥でもないからです」
「なら、なんだというんだ!」
ゼクシアは空を指差した。
そこには何羽もの鳥が群れをなして空を飛んでいた。
「貴方がなるべきものはあれですわ」
「あれは…渡り…鳥?」
「…貴方はあの鳥たちを先導するもの…
あの鳥たちのように、みんなで自由に飛ぶこと…
その先頭に立つものこそが、貴方なのですわ」
サフィーロは不安な顔をする。
「…でも、僕にはそんなことは出来ない…
僕は…父上のようには…」
「貴方のお父上も、ひとりで頑張っているわけではありませんわ。
困った時には誰かの助けを借りているはずです。
貴方にも、貴方を助けてくれる方が、
支えてくれる方がいらっしゃるはずですわ」
ゼクシアの目線の先には木陰に隠れたミストの姿があった。
「……僕は…」
「大丈夫、貴方はひとりじゃありませんわ…」
ゼクシアは膝をついたサフィーロを慰めた。
後をミストに託して去ろうとすると、サフィーロに呼び止められた。
「待ってくれ!君の名前は…?」
ゼクシアは振り返り、一礼をする。
「私はゼクシア…ゼクシア・クロムウェルと申します。
サフィーロ様、ごきげんよう」
ゼクシアは去って行った。
「……ゼクシア…」
サフィーロは自然にその名を口にしていた。
…………………………
「……なーにやってるのでしょうか、私は」
ゼクシアはサフィーロたちと別れ、ベンチに座り落胆していた。
「もしかしたら、前世の私がサフィーロの考え方を嫌っていた…のかもですわねぇ…」
佐藤創真だった頃は、中学卒業後にすぐ働き始めた。
友人たちは高校、大学と進学し、勉学に励むもの、遊び呆けてるものといたが、自分はそんなことを羨む暇もなく、一生懸命に働くしかなかったのである。
それでも幸せだった。
自分には光里がいた。
光里が笑ってくれれば、それだけで頑張る理由になった。
…今でもあの日の…交通事故にあった日を夢に見る。
手を伸ばしても届かなかった、あの時を心の底から悔いている…
「私のように、こっちの世界で生きててくれたらいいんですけど…」
感傷に浸っているところに通信が入る。
魔獣の出現が確認されたのである。