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幕間その5 ゼクシア・クロムウェル8歳

 ゼクシア・クロムウェル8歳

前世の記憶が戻ってから2年間、彼女は魔法の修行に専念した。

ある程度習得してきた今日この頃…

いよいよ、前世の記憶を頼りに黒の聖剣を取りに行くことを決意した。

近々、アシュレイド殿下との婚約を控えている。

そうなると、王妃教育が始まり、それどころではなくなる。

ここを逃すと2度とチャンスがない。


「やるならここしかありませんわね…急ぎませんと」


 聖剣はクロムウェル領の森の中の遺跡にある。

子供ではどうにもならない猛獣が多少はいるようだが、ある程度魔法を習得してるなら、逃げられる…はず…

地形も把握してるので楽勝だ…と思って出かけようとしたところ、メイドが部屋を訪ねてきた。


「ゼクシア様、ローランド様とセリオン様がいらっしゃいました。」


(…あらら…来ちゃったかぁ…)


「えっと…今日は体調が悪くて…」


「いえ、もうそこまでいらしてまして…」


 と、メイドの後ろには少年が2人立っていた。


(…逃げられないようですわね…こうなったら…)


 ゼクシアは2人を外に連れ出した。


「ゼクシア、今日は何して遊ぶの?」


 ローランドが無邪気に聞いてくる。

この頃のローランドは活発で冒険好きな少年だった。

セリオンは部屋にこもって本を読みたい…

というような感じだったので、性格は真逆と言える。


「今日は森を探検しましょう!森の奥にある遺跡でお宝探しです!」


 ローランドは嬉しそうだった。だが、 セリオンが止めてくる。


「あ、あぶないよ…お父様が行くなって言ってたもん…」


(まぁ、想定内ですわね…)


「なんだよ、セリオンは臆病だな。

騎士は勇敢で女を守らなきゃならないんだぞ!」


「…僕は騎士にはならないもん、ゼクシアと本を読んでいたいもん」


 セリオンは本をギュッと抱き抱えて少し震えていた。


「安心してください、セリオン様。

この森の猛獣は大抵、うちの領民たちが退治していますから」


 渋々納得したようで、セリオンもついてくることになった。

3人が森の奥へと足を進める。

危険な猛獣どころか人とすれ違うことすらなく、順調に遺跡に向かって歩みを進めた。


(もう少しで遺跡ですわ…)


 だが、そんな中で周囲を見回すと大きな猪を見つけた。

ゼクシアはすぐさま隠れる。


「ひぃ!」


 セリオンが猪を見つけ悲鳴を上げようとしたので、ローランドが口を押さえ、小声で叱った。


「バカ!大声を出したら気付かれるだろ!」


「見つからないように慎重に行きましょう」


 ゼクシアの提案で3人は茂みに隠れながら進んでいく。

だが、セリオンの肩のあたりに小さな物体が降りてきた。

ふと目をやる…


「ひっ!クモだ!!」


 大声と共に飛び上がってしまい、猪に気づかれてしまった。


「うわぁぁぁぁぁ!」



「セリオン!下がってろ!」


 ローランドは木刀を構え、悲鳴をあげるセリオンの前に出る。

だが、その手足は恐怖で震えていた。

セリオンも腰が抜けてしまい、その場を動けず震えていた。


「…怖くない、お前なんか怖くないぞ!」


猪がふたりに近づこうとした時、猪の顔に石が当たった。


「こっちですわ!」


 ゼクシアだ。

ゼクシアは猪の注意を引き、森の奥の方へ逃げていった。

猪は挑発に乗り、走ってついていく。


「ゼクシア!」


 追いかけたかったが、ローランドは腰が抜けてしまい、その場で尻餅をついた。


「さぁ、こっちですわよ!」


 ゼクシアは身体強化魔法と風魔法をかけて、森の奥に移動を始めた。

ピョンピョン飛び回りながら、猪を誘導している。


(たしか崖があったはず…

うまく誘導して落とすしかありませんわ)


 魔法を習得しても、敵う相手ではないとはわかっている。

でも彼らを危険な目に合わせるわけにはいかない。

木をぴょんぴょん飛び移りながら、崖に向かっていく。

だが、運悪く猪がゼクシアが着地した木に体当たりした。


「きゃあ!」


 突進した振動でバランスを崩し、地面に叩きつけられる。

猪がジリジリと近づいてくる。

諦めかけていたその時、石のようなものが猪に当たった。

それは小さな氷のかけらだった。

飛んできた方向を見ると、全身を震わせ、泣きじゃくりながら杖を構えるセリオンの姿があった。


「!?セリオン様!」


 そこに目を取られていると、木の上からローランドが仕掛ける。

木の棒を持って、猪の真上に落下した。


「やぁぁぁぁぁ!」


 持っていた木の棒は猪の背中に突き刺さった。

痛さで暴れる猪がローランドを振り落とした。


(2人が危ない…どうすれば…!)


 ゼクシアは木の棒がまだ猪に突き刺さっていることに気づき、立ち上がった。


「稲妻よ!我が敵を滅ぼせ! 

サンダーブレイカー!!」


 全力の雷魔法を猪に刺さった木の棒に目掛けて放った。

断末魔と共に、猪は倒れてしまったのである。


「はぁ…はぁ…はぁ…なんとかなりましたわ…」


 自分1人では倒せなかった。

ふたりの勇気がなければ、あのまま猪に殺されていただろう。


「ゼクシア!大丈夫!?」


  ふたりが心配して駆け寄ってきた。

心配ないと告げ、帰ろうとした時、セリオンが森の奥に何かを見つけた。


「あれ、なんだろ?…遺跡…?」


 偶然にも目的の遺跡まで逃げ切ることができたらしい。

ここで休憩してから帰ろうとゼクシアは提案した。

そして、ゼクシアは遺跡の奥で聖剣を見つけ、ふたりに隠すようにしまい、森を後にした。


「ゼクシア、あの…」


 帰り道、セリオンが何かを言おうとしていた。

振り返ると、ローランドも何かを言いたげだった。


「あのね、ゼクシア…助けてくれてありがとう」


「僕も…動けなくてごめんね。ありがとう」


 ふたりからお礼と謝罪を受け、ゼクシアは笑顔で返した。


「こちらこそですわ、危ない目に合わせて申し訳ございませんでした。

それに、助けていただいたのはこちらの方ですわ、

おふたりとも、頼もしくてカッコよかったですわよ」


 ふたりの顔は真っ赤になった。

そしてこの日、ローランドとセリオンは誓った。

もっと強くなる…

今度こそゼクシアを守れるくらいに強くなってみせる…と

 その日の夜、森に行ったことがバレて、ゼクシアは父にこっぴどく怒られてしまったのである。

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