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「現場には全員で何人居たんだ」
「自分含めて7人ですね」
「名前は」
「覚えてませんよ、そんなの。日雇いのバイトだったんですから」
「園田祐介」
「……え?」
「被害者の名前だよ。君が殺した」
「だから、殺したかったわけじゃねえよ! 何度も言ってんだろうが。物覚えの悪い野郎だな」
「…………」
「俺はな、5人を救ったんだよ。てめえは現場を見てなかったからそんなこと言えんだ。あのまま俺がレバーを引かずにぼーっとしてたら、線路で遊んでたあのバカ5人は死ぬとこだったんだぞ?」
「……5人を救うためだったら、1人殺しても構わない、と」
「そういうことじゃねえよ! 俺は――」
「君が言おうとしてることは、なんとなく分かるよ。トロッコ問題、ってやつだろ? ネットで話題になってた」
「知ってんじゃねーか。じゃあ――」
「ただ、ここは現実世界だ。架空の話の中なんかじゃない」
「……でも」
「君がレバーを引かなかったら、5人が車両に気づかないで死ぬっていう確証はあったのか? 他の一人を犠牲にするって選択肢の他に、なにかしらあっただろう。大声で叫ぶとか、脱線させるとか」
「だけど……」
「後は自分の頭で考えるんだ。君ももう、立派な大人だろう」
「…………」
――半年後。
「ムショには慣れたか」
「はい。なんとか」
「まあ、そりゃそうか。もう半年近く居るんだもんな。しかしまあ、すっかり丸くなっちゃって」
「……今日は、何しに来たんですか」
「そんな怖い顔すんなよ。命の恩人に感謝を伝えに来ただけだ」
「ものは言いようですね。僕はもう、今じゃ立派な人殺しですよ」
「……幸せだな」
「えっ? 今、なんて言いました?」
「……なんでもねえよ」
「今、『幸せだ』って言いました?」
「言ってねえっつーの! そんなことより、俺が今日一人で来た理由、知りたくねえか」
「それは確かに、ちょっと気になりましたけど……」
「これはあくまでも噂だが、俺以外の全員は、どっかにトんじまったらしい」
「え?」
「まあー、元々訳アリな奴らだったから、納得っちゃあ納得だけどな」
「それは、借金で、ですか」
「ああ、多分な」
「…………」
「おうどうしたボウズ。元気ねーじゃねーか」
「……こんばんは」
「なんかあんなら、話してみぃ」
「……前に、トロッコ問題で5人助けたって話したじゃないですか」
「おう」
「実は、今日の面会で、その助けた人と会って……」
「煽ってきたのか」
「いや、その人はきちんとした人で、面会室に入った途端、頭から血を流すほど土下座してくれたんですけど」
「ハッハッハ。なんだそれ」
「けど、そっちじゃなくて、僕が引っかかってるのは。その人が言うには、他の4人の行方がわからなくなってるそうなんです」
「……まさか、死んだのか?」
「わかりません。でも、おじさん、前に言ってましたよね。『この世には、死ぬことよりも辛いことがたくさんある』って」
「…………」
「……ずっと、不思議だったんです」
「なにがだ?」
「……なんであの5人は、車両が動き始めてから、線路で遊び始めたんだろうな、って」
読んでいただきありがとうございます。
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今回は、かの有名な「5分後に意外な結末」のような、ゾクッとさせる小説を目指してみました。
考察などがあれば、ぜひ。
それでは、おやすみなさい〜