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短編2

転生悪役令嬢の戸惑い

作者: 猫宮蒼

 いろんな世界の巻き添えをくらってる世界の話。



 前世で読んだライトノベル作品にとても酷似した世界に転生した。


 挿絵でみた気がする少女。鏡に映った自分の姿をまじまじと見ているが、何度見直しても見覚えがある感じがしてならない。


 そっと鏡から視線を落として左の手の甲を見る。


 そこには蝶々に見えなくもない感じの痣があった。


 間違いない。

 私、悪役令嬢になってるわ。


 高貴なる家の生まれにして、将来は王族に嫁ぐ女。

 それ故に大抵の事は何でも自分の思い通りにしてきたために、敵に回すと恐ろしい女として原作では畏れられていた。恐怖というのもそうだけど、身分的に周囲も逆らってはいけない、みたいに遠巻きにしていた部分があったと思う。


 頭脳明晰眉目秀麗な婚約者との仲も良好――かと思いきや、ヒロインと婚約者が出会う事でその関係に翳りが生じる。

 確かに悪役令嬢は王子の婚約者に選ばれる程度に優秀ではあるけれど、王子と比べると人当たりの悪さというか、少々の欠点と言えなくもない部分があったのは確かだ。


 とはいえ、表向き、人と関わる分には何の問題もないけれど。

 ただ裏表が激しく、気に入らない相手は徹底的に排除しようとする苛烈な面もあるので、それらがひとたび他国へ向けられれば、最悪戦争の切っ掛けを作りかねない。

 元々戦を仕掛ける予定があるならまだしも、原作ではそんな予定は一切なかった。


 他国の人間に失礼な態度をとる事はなくとも、その後彼女に仕える誰かしらに八つ当たりをしかねない。


 まぁ、そんな感じの面倒なタイプの女なのだ、悪役令嬢は。


 そしてそんな悪役令嬢が私である。


「Oh……」


 ため息がやけにネイティブな発音に聞こえてしまったがそんなことを気にしてはいられない。


 このままでは私、ヒロインに婚約者を奪われて王子に捨てられて、王妃になれなかった女として実家で疎まれロクに外も出歩けない行かず後家になってしまう……ッ!

 引きこもる事にそこまで抵抗はないけれど、自分の意思で引きこもってゴロゴロするのと、家の厄介者として追いやられて外を出歩くにも家人がそれを良しとしないのとでは、天と地ほどの差がある。

 というかそんな状態になったらまず私が出歩こうにも家族が家の恥を外に出すなどと……って感じで引きこもりじゃなくて普通に監禁されてしまいそう。


 流石にそれはイヤすぎる。

 生憎この世界には動画配信サービスもウェブ小説や漫画もアプリもないので。


 強制的に引きこもってもやる事がない。


 日がな一日ぼーっとして何もしないままの日々を送ると、大抵ボケる。

 誰とも喋らない日々が続くといざ言葉を話そうとしても上手く声はでてこないし、普段ろくに頭を使わないとちょっとした簡単な事もすぐに思い出せないだとか、簡単な計算もミスったりなんて事だってあるのだ。


 年を取ってからボケるのはまだいい。だって年なんだからそうなっちゃってもまぁ仕方ない。

 でもまだまだ若いうちから病気が原因とかでもなしにボケるのはヤバイ。


 しかも私の場合悪役令嬢として外に出せない醜態をしでかした後だとしたら、マトモな判断能力がなくなってから秘密裏に病死した扱いとかにされて、どこぞに売り飛ばされて処分されるなんて可能性もありえてしまう。

 家は貴族としても名高いし権力も財産もあるとはいえ、だからといって穀潰しを飼うまではしないはず。

 可愛いペットなら飼うだろうけど、利用価値もなくなった扱いに困る穀潰しは流石に飼わないと思う。


 このままでは破滅ルートになってしまう。

 そうならないためには、せめて我儘な性格とかがうっかりひょっこり表に出てこないように気をつけなければ……!

 前世の記憶を思い出す直前までの我儘な自分とはお別れして、これからは貴族令嬢として恥ずかしくない淑女の鑑を目指すのよ!



 ――と、ある日を境に私は決意して、今まではあまり乗り気じゃなかったお勉強も頑張るようになった。

 乗り気じゃなくても一応の合格ラインには到達してたあたり、悪役令嬢の優秀さがにじみ出ている……



 ところがそんなある日。

 ある、夜も更けた日の事だった。


 普段は朝までぐっすりなのに、その日は何故だか目が覚めてしまって。

 寝てからまだ三時間くらいしか経過してないぞ、と思いながらもあまりの目覚めパッチリさ加減に、これはすぐには寝付けないなと諦めてとりあえずトイレにでも行くか……となりまして。


 時刻は前世で言うところの草木も眠る丑三つ時。自分付きの使用人を呼ぶでもなく一人廊下を移動してトイレへ向かっていった帰りの事。


 屋敷の中は本来ならば真っ暗なのかもしれないけれど、しかし夜中のうちに仕事を済ませる者たちもいるからか、完全な闇には染まっていない。

 ポツポツと明かりがついているので、夜中といってもそれこそお化けがでてきそう……と怖がるような要素もなかった。

 上手い具合に、と言っていいのかはわからないけれど、私は仕事中の誰とも遭遇する事なくトイレにいって、そのまま引き返すところだったのだ。


 だが、その途中でふと漏れ聞こえてきてしまった声に。

 思わずそちらに足を向けてしまったのだ。


 聞こえてきた声は今世での両親のもので。


 お父様とお母様、まだ起きてらっしゃるのね……なんて思って。

 いや、聞こえてきた声がこう……小さい子は見るのも聞くのも「めっ!」って感じのものなら私も何も知らないふりをしてそもそも近づかなかったけれど、なんだか深刻な声だったのだ。

 内容までは聞こえなかったけれど、でもなんか深刻さが漂ってて、ただ事ではないぞ……!? となってしまったのだ。


 今の私にできる事はほとんどないかもしれないけれど、もしかしたら前世の知識から役に立てるものもあるかもしれない。そう、考えたのもある。


 なのでそうっとそーっと、お部屋に近づいて、かすかに開いていたドアを更に開けて、

「お父様? お母様……?」

 と声をかけてみたのだ。


「イライザ、どうしたんだこんな時間に」

「目がさめてしまって……お手洗いに行っていました」

「たった一人でか!?」

「使用人を呼ぶまでもないかと思いましたので」


 言葉に嘘はない。

 もっと小さい頃なら夜中にトイレに行くのに一人じゃ不安だから、で誰かしら呼んだかもしれないが、前世の記憶を思い出した今となってはそのために誰かを叩き起こすのもな……となるので。


「それより、何か深刻そうにお話ししていたようですが……何か、あったのですか……?」

「あぁ……いや」


 成人前の娘であるので、まぁ家の事で何かあったとして父が教えてくれなくてもそれは仕方がないと思っていた。

 実際私に話したところでな……とでも思ったのか、父の表情は若干困ったように眉が下げられ、ついでに言葉も濁そうとしたが上手い言葉が出てこなかったのか、歯にものが挟まった時のような……そんな感じの声だった。


「あなた、いい機会です。ハッキリさせましょう。

 昼のうちに聞くと使用人を下げなければならないけれど、今は幸い私たちだけなのですから」

「む、しかしだな……」


 そんな父に、いい機会だ、みたいに母が言った。

 一体何の話をしていたんだ……と私が不安に思ったところで。


「ねぇイライザ、貴方、前世についてどう思う?」


 私と目を合わせるように少しだけ屈んだ母が、固い声音で問いかけてきた。


「前世、ですか……? えぇと、それはどういう……?」


 これ以外に何を言えと言うのか。

 前世の記憶? ありますけど何か? とか流石に言えない。


「そうね……では、ヒロインという言葉は?」

「ヒロイン……? 何かの舞台でのお話でしょうか? うぅん?

 前世、ヒロイン、えーっと、あっ、星の海でまた逢瀬を、の話ですか?」


 前世とヒロインというキーワードだけならまぁ、思う部分はたくさんある。

 あるけれど、何だか旗色が良くない感じがしたので私は首を傾げつつも、そういえば以前書庫で見かけた娯楽小説のタイトルを口に出した。

 そこそこ昔に出版されたらしいそれは、原作でも一応触れられていたのだ。

 まぁ、あくまでもタイトルが作中でさらっと出された程度。ヒロインが、友人と好きなものの話をした時にちらっと出たくらいの。


 それはどうやら恋愛ものらしくヒロインの友人が胸ときめかせていたが、原作の中でそのストーリーは特に語られていなかった。

 そのタイトルと同じ本が我が家の書庫にもあったので、つい興味を惹かれて読んだのだ。


 前世で悲恋となった恋人たちが生まれ変わって幸せになる話。

 ざっくり言えばそういうやつだ。

 私も前世の記憶を思い出す前に読めば感動してこの物語のファンになっていたかもしれない。

 でも前世で似たような話ゴロゴロしてたしそういうのお腹いっぱい胸いっぱいになるまでたくさん読んできたから、その状態でこの本を読んでもそこまでの感動もなく、へぇこういう話だったのね、で終わってしまったのだ。

 前世の記憶を思い出す前に読んでおきたかった。割とマジで。


「あの話が舞台化でもするのです……?」


 ともあれ、真剣な表情で私を見る母に、私はそう言うしかなかった。


 今私が前世の記憶を持っている、だとか言うのはダメだと第六感が囁いているというのもあった。


 母は私の肩を掴んで、じっと目を見ていた。

 どれくらいそうしていただろうか。

 多分数秒くらいだとは思うけれど、でもかなり長い時間にも感じられた。


 普段微笑みを絶やさない母がこんなにも真剣な表情で私の事を見る、というのが今までになかったのもあって、余計に長く感じられたのだろう。


「いいえ、あの作品が舞台になるとかそういう事はないのです。もしかして楽しみにしていましたか?」

「いいえ。ただ、前世だとか、ヒロインだとか何の話なのかなと考えて思いついたのがあの作品だっただけです。

 もし舞台になるのなら見てみたい気もしますが……流石に難しいですからね」


 前世と生まれ変わった後とで外見も変わるので、役者の数もそれなりにいるだろうし、ましてや時代も異なるので舞台セットも用意するだけで相当だろう。

 そしてあの話をきちんと演劇として作るのなら、何回かに話を分けなければならない。

 一度の公演で終わる尺にすると間違いなく大コケする。


 そうそれは例えるのならば前世のアニメ、ワンクールで纏めようとした結果、エピソードを削りに削った事で原作ファンから味のしないガムみたいな話になった、と嘆かれる作品のように……!

 二期が決まっていたならもうちょっとやりようがあったかもしれないけれど、二期がない事で終わりまで纏めた結果ペラッペラの鰹節なみに薄い話になってしまった……! みたいなね。

 鰹節だと思ったらとっても薄い茶色いセロファンだった、みたいな気持ちよ。


 なのでもしその話を舞台にするのなら……っと、そうじゃなかった。


 ただ、下手なことを言ったらお母様が本気であの作品を舞台化させようとしたかもしれなかったから、ついこっちも本気で考えてしまったわ。


「だから言っただろう、考えすぎだと」

「ですがあなた」


「えぇっと、本当に何があったのです?」


 父の心配し過ぎなんだとばかりの言葉であったが、しかしその声にはあからさまなまでの安堵が含まれていて。


 私の返答如何によっては父までもが母と同じような態度に出たかもしれなかった。


 二人の反応からして、当事者は私、って事なのかしら……?


 そう思って、私は二人をじっと見つめた。

 これはきちんと説明してくれるまでお部屋に戻って寝たりなんかしないぞ、という意思表明でもある。

 適当に誤魔化されてなどやらないぞ、というのが二人にも伝わったのだろう。


 母はどこか安心したように私を軽く抱きしめて、父はというと一度大きく息を吐いて、それからようやく話してくれた。


「イライザ、ヒロイン症候群という病気について知っているかい?」

「ヒロイン症候群、ですか……? いえ、今初めて聞きました」


 いやマジで。

 何その病気。いや、何か薄々……って感じはしてるんだけども。


 そんな風に内心で警戒しつつある私に、父が話してくれた内容はまぁ想像の通りだった。



 なんでも少し前から自分はヒロインだとのたまう娘が現れるようになったらしく。

 この世界のヒロインで自分は王子と結ばれるのだとか、はたまたどこぞのご令息と結ばれるのが運命だとか。


 前世という概念はこの世界にもあるから、前世の記憶を持って生まれた、という人物が出てきたとしてもそこまではまぁ、珍しい事もあるものだ、で済む話だ。


 ところがヒロインを自称する者たちの言う前世はこことは比べ物にならない程文明が進んでおり、こことは違う世界で生きていただとか。

 ここは前世ではゲームだとかラノベの世界だっただとか。


 ここよりも進んだ文明の生まれであるのなら、そういった知識はさぞ有用に使えるかもしれない……と思った者もいたらしい。

 まぁそうよね。優れた技術や知識があるのなら、利用しようと考えるのはおかしな話じゃない。


 でも実際に夢物語のような世界の話をしていても、ではそれらがどういった仕組みなのか、までを理解しているヒロインはいなかったのだとか。


 ……まぁ、でしょうねえ!!


 私だって前世で動画とかゲームとかでパソコンとかスマホとか使っていたけど、でもだからってパソコン自作で組み立てられるかって言われたら正直自信ないし、スマホも自分で作れるかって言われたら無理。

 パソコンの方は自作キットとか売ってるところでパーツ一通りそろってたらどうにかなりそうな気がしないでもないけど、スマホは無理だし、パソコンだって組み立てたからといってその後不具合が出たとして、自力で修理できる気がしない。無理無理無理。


 飛行機だとかリニアモーターカーとか、そういうのだって存在を知ってはいるけれどじゃあどういう仕組みでどんな材料使われてて……って聞かれたって正確に答えられるわけがない。

 そんなん好きすぎてマニアになってる人だって全員が全員知ってるわけじゃないからね!?

 そういう関係のところで働いてましたよ、とかなら多少は……って気がするけど、ヒロイン自称する女が前世そういった専門職に就いてる可能性ってまずほとんど無いと思う。


 大体その手の職に就いてる人は割と忙しいからゲームなんぞ嗜んでる余裕あるかも疑わしい。

 ゲームをする時間があったとしても、多分サクッと遊べるお手軽なやつとか、昔遊んだゲームがリメイクされたから、って懐かしさで手を出すとか、そういうのだと思う。偏見だけどね!


 その偏見からだけど、乙女ゲームをやりこんだりその手の作品を読み漁ったりしてた人が、そういう職に就いてるかっていうと……ねぇ?


 もしそういうところで働いてましたよ、って人がいたとしても、その場合自分がヒロインだとか豪語しないで発明とか技術力とかで黙らせてると思うわけで。

 自分が有能である、というのを知らしめてしまえば、優秀な人材を取り込もうとして是非うちの嫁に、みたいな婚約のお話も一杯くるだろうから、そうなれば自動的にヒロインになれるわけだし?

 それ以前に自分の実力でのし上がるタイプはヒロインとかに興味がない可能性もあるわけで。


 自分はヒロインだとわざわざ宣言したり、会った事もない高位貴族や王族の誰それと結ばれる運命なんだー、とか言われても普通に頭おかしくなったのかな、ってなるわ。


「昔にも何度かそういった話はあったけれど、そこまで数は多くなかった。

 ところが本当にここ数年になってその数が増え始めてね……

 以前街を視察に出た時に、新しい病院のような建物があったのを覚えているかい?」

「そういえば……心を病んだ人を療養させるための新しい病院って話……でしたね」

「あぁ、あれはヒロイン収容所と呼ばれている」

「ネーミングがそのまますぎませんか?

 流石に市井で人前で口にするには不適切が過ぎるのでは」

「あぁ、だから外では病院名で呼ばれている」


 あぁ、それなら……いいの、かなぁ……?

 まぁいいのか。病院名がどんなのか知らないけど。

 というか、そんな収容されるレベルで発生してるっていうその部分こそが私にとってはホラーなんですけど。


「自分がヒロインだと言わないまでも、ヒロイン症候群に当てはまる者は大半が女性で、またある日を境に人が変わったようになったりもするとの事なんだ。

 それで……」

「もしかして、私もそうではないか、と思われていたのですか?」


 とても言いにくそうな顔をして私を見るお父様に、察するしかない。むしろこれで察せられないとかある?


 ある日を境に、ってのはそこで前世の記憶を思い出したからだろうし、そういう意味では私も原作みたいに我儘たっぷりなお嬢さんになったらいずれは王子に捨てられるかもしれない、と思ったから、ある程度行動を改めた自覚はある。


 けれど、周囲から見れば確かに何があったわけでもないのにある日突然変わった、と思われるのか。

 もっとわかりやすく頭ぶつけたとか、病気で寝込んで死の淵を彷徨った、みたいな事があればまた違ったのかもしれない。


「私はただ、いつまでも子供のような振る舞いをしてはいられないのだし、そろそろ本格的に淑女として相応しくあらねば、と思っただけなのですが……」


 とりあえずそう言い繕っておく。

 一応嘘ではない。

 断罪されて婚約破棄とか回避したい気持ちもあるけど、原作みたいに癇癪持ちになったら周囲も大変だろうし、自分の好感度的なものが下がる一方になるのを考えるなら早めに使用人たちとの関係もそれなりに改善しておく必要がある。今までの我儘はお子様故のもの、と周囲が昔の話みたいに思ってくれれば破滅ルートはどうにか回避できるかなっていうね、打算も勿論ありましたけれども。


「勿論そうだと信じていたよ。

 ただ、その」

「何かあったのですか?」


「先日ヒロイン症候群として病院送りになった令嬢が――

 ディエム子爵家の令嬢なのだが」

「まぁ」

「彼女の友人である伯爵家のご令嬢に言っていたのだとか。

 自分はヒロインで、イライザが悪役令嬢なのだと」

「まぁ……」

「それで彼女が病院送りになった際、あの女だってきっと転生者なのだと喚いていたとの事でね。

 それでその……」

「まぁ」


 とても言いにくそうにしながらも、それでも父は話してくれた。


 ちなみに一度目の「まぁ」はあらマジで原作のヒロインじゃない、のまぁであり、二度目の「まぁ」はヒロインだけじゃなくて悪役令嬢も転生者のパターンがあるとはいえ何巻き込もうとしてるんだ、のまぁで、三度目の「まぁ」はそりゃ確かにそんな話が耳に流れてきてたら疑わしく思えても仕方ないよな、のまぁである。


 確かに私も転生者だし、断罪回避しようとして悪役令嬢がヒロイン化するパターンの話も存在はしてるわけだから、ヒロインがいなくなった後で私がヒロイン化、の可能性も無きにしも非ず……って思っちゃったんでしょうねぇ、ヒロインは。


「そう言われましてもね……ディエム家、そもそもうちとは別の派閥なので関わる事がないのでそこのご令嬢が何故私を……という気持ちは確かにあるのですが……

 そのような荒唐無稽な話をされた伯爵家の方も災難でしたわねぇ」

「その伯爵家から話が流れてきてね。あちらも困り果てていたようだったよ」

「それは……大変でしたね、としか言いようがありませんわね」


 ディエム子爵家は原作ヒロインの家だ。

 なので確かに彼女が転生者なら、自分はヒロインだと言っても間違ってはいない。

 でもって伯爵家のご令嬢はそんなヒロインの友人で原作にも登場している。


 けれど、突然自分はヒロインだとのたまいはじめた友人が、別派閥の侯爵家の娘を悪役令嬢だなどと言い始めたならば気が気じゃなかっただろう。

 子爵家の者が侯爵家の者を悪しざまに言うのだから。

 本人を前にしていなくてもどこから話が漏れるかわかったものではない。

 下手に自分だけじゃなく家まで巻き込まれたら……と考えた伯爵令嬢の気持ちはわかる。


「今までのヒロイン症候群を患った者と比べて悪質である、と診断されてね。

 彼女は恐らくもう出てこれないだろう」

「あら、子爵家も災難でしたわね」

「あぁ、そうなる、と事前にわかっていたならまだしも、一人娘がそんな事になってしまったせいで急遽婿ではなく養子を迎え跡取りとして育てねば……と嘆いていたと聞いている」


「正直失礼な話ね、と思わなくもないのですけれど、でも本人は収容されたのなら家人に責を、というわけにもね。流石に不憫ですし」


 直接私や家に喧嘩を売られたわけでもないし、向こうの家からすればヒロイン症候群に罹った娘の後始末で忙しいだろうし、そこに私が更にダメ押しする必要性はない。

 というか私がそれをやっちゃうとトドメどころかオーバーキルなのよね。勿論私が直接手を下すわけじゃないけれど、そういう風にしてほしい、なんてお父様におねだりとかしちゃったらお父様も何らかの手を打つくらいはしそうだし。



 そんな感じで話をしているうちに、少しばかり眠気もやってきたから私は二人におやすみの挨拶をしてから部屋に戻った。


 ベッドにもぐりこんで、そうして目を閉じる。


 眠る直前に思ったのは、ヒロインが原作通りに事を進めたいのなら、ヒロインだなんて公言せず黙々と原作に沿った行動だけをするようにすればいいのに、だった。

 だって、自分はヒロインだなんて言い出さなければ原作開始時にちゃんとヒロインとしてのストーリーが始まったかもしれないのだから。

 それを自分から台無しにするなんて、ねぇ?

 気が急いちゃったのかしらね?

 原作が始まる前から、しかも前世の事を知らない人にそんなことを言い出したらそりゃあ気がふれたとか頭がおかしくなったとか思われるだけでしょうに。


 まったくもう、お馬鹿さんね。



 そんな風に思いながら夢の世界に落ちて、そうして翌朝になって。


 あ、って事はつまり婚約破棄も断罪もなくなったって事よね、ってある意味一番肝心な部分に思い至ったのであった。


 気付くのが遅い?

 まぁ原作そのものがヒロインのせいで消失したから遅いも早いもないでしょう。

 お正月辺りはそこそこ予定があるから更新はちょっと止まるよ。

 でもそのうちしれっと投稿開始されるよ。


 次回短編予告

 性懲りもなく転生悪役令嬢もの。

 原作と異なる方向に悪役令嬢しちゃう系のやつ。

 文字数は今回の話よりちょっと多め。


 それでは皆様良いお年を。

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