次期公爵様に婚約を申し込まれ公爵夫人なんて向いてないと逃げようと思いましたが立ち向かってみることにしました
「調査した結果、この瓶に入っていたのはベリフェナ草を煮詰めて作ったある意味毒だ」
「毒!」
翌日の夜の家族会議でいきなり言った父の発言にレティシアは驚いた。
「いわゆる毒薬ではないよ。体に良くない植物なんだ。フランディー王国には生えていないし、近隣国にも生えていない。東国のチューラバン国にしか生えていない。そして輸入が禁止されている植物だ。
研究所にだけサンプルとして厳重に保管されている乾燥したその植物だと判明した。ベリフェナ草というんだよ。
色々な試験薬を使ったよー。まさかフランディー王国に生えてないものだとは思いつかなかったから。もう残り僅かな時にレティシアが言っていた患者の表情とかで思い出したんだ。それで試したらばっちり一致」
「そんなに怖いものなの?」
クラリスが聞く。
「ある意味怖いね。麻薬の一種でフランディー王国はもちろん、多くの国で取引も所持も、もちろん使用も禁止されている」
飄々としゃべるケヴィンからはその怖さが伝わらないが禁止されているものだというのは理解した。
「あの濃度だと即効性があって効果は十日から二週間。効いている間は体は軽いし、どんどん仕事もこなせる。風邪をひいていることを忘れさせる程の効果がある。
気分も明るくなって不安や心配事もどうでもよくなるくらい元気になる。でもその反動は凄い。
効果が切れるとどっと一気に疲れがやってくる。倦怠感でやる気も起きない。急に不安になったりもする。だからまた飲みたくなって手に入れにい行く。
今回の場合は病院だね。レティシアの話にあった人の様に反動が怖くて一回で使うのを止めれば、体は直ぐに元の体に戻れるけど、飲んだ瞬間に体が軽くて気分も明るくなるのを体感してそれに恐れを感じず喜びを感じたらまた飲みたくなって、結果通うようになる。
そうするとじわじわと体の中からそれを飲まないといけないという飢えのようなものを感じ始めて、もうそれを飲まないといけない状態になる。その頃には効果が切れかかっている時にはレティシアが見た様に青白く生気のない顔から急に溌溂とした顔になってしまうんだ」
「そして、その後が怖い」
父がケヴィンに続いた。
「そこから更に進むと、今回は町医者だが、その人間の指示を聞くようになる。そうしないともらえないからね。段々自分の意志がなくなり、そして色んな暗示がかけられるようになる。
それこそ人を殺すことも躊躇わない判断力にまで落ちてしまうんだ」
「そんな!もうたくさんそんな人が王都にいるわ!」
レティシアが言うと落ち着くようにと父に言われた。
「陛下にはこのことを伝えて王都の警備を強化してもらっているのと、王都以外の領地で同じようなことが起こっていないか調べてもらっている。
すぐに町医者を閉鎖したかったんだが、町医者一人でできることではないから必ず黒幕がいるはずだからそこの捜査が済むまで泳がせたいと言われてね。
そんなんじゃ患者が増える一方だって言ったんだけど、確かに我が国にベリフェナ草を密輸した人間がいるのは間違いないし、犯人も複数犯だろうからまとめて捕まえたいのだろう。
父さんたちにできることは回復薬が書かれた薬学書をみつけたから、明日からそれを研究所員から数人選んで作ることだ。
本当は総出で作りたいんだが、結構薬学研究所に顔を出す役人や貴族がいるから普段と変わらない状況を作るには数人でやるしかないんだよ。
直ぐには完成しないが一週間あればできるだろう。材料は国内で手に入るものばかりだし」
「そう。しかもこれは陛下の独断で行われている」
ケヴィンが声を潜める。
「万が一貴族が関わっていたら筒抜けになるかもしれないから、陛下が厳選した人たちで調査しているんだ。警備の方は、強盗団が入国したという噂があるからしばらく強化するようにいってあるそうだ」
「あなた、恐ろしいことが王都で起こっているのね。薬草は足りるの?直ぐに領地から取り寄せたい薬草とかある?」
「ああ頼むよ。必要な薬草のリストを作ってきたから。我妻はさすがだな。僕が言う前に気づいてくれるなんて」
こんな時だというのに呑気なことをいう父に一瞥をくれるとクラリスが不思議そうにいった。
「でも犯人の狙いは何かしら?」
「とりあえずはお金だろう。一本が安くても買う人が増えたり買い続ける人が増えるとそれなりの額になる。でも、それだけでここまで危険なことはしないと思うんだよね。
その資金を使って何かをするか、または言いなりになる人間を使って何かをするか。いずれにしても恐ろしい話だよね。
この噂が出始めた時にもっと早くに動けば良かったと正直後悔しているんだ。言い訳になるんだけど、うちの店で似たような栄養剤を出しているから、新しい栄養剤の調合に成功した薬師がいるんだろう、くらいにしか思ってなかったんだ。
レティシアが手に入れてきてくれたのを解析して結果を見た時戦慄したよ。レティシアが動かなければ結果を知るのが数日遅れていただろうし、レティシアが患者をよく観察してくれたからベリフェナ草だと気づけたんだ」
「そうだな。レティシアありがとう。父さんたちは少しでも早く解決して回復薬を患者たちに配れるようにするからな」
「そう。早く事件が片付けばいいわね。患者も心配だわ。それに危険はないの?回復薬を作っているって犯人側に知られたら危なくないかしら?」
クラリスが不安そうにしている。
「大丈夫。必ず全員治るようにするから任せておきなさい」
「それならいいけど」
なおも不安そうにするクラリスの手をケヴィンが握る。
「さあ、今日はここまで。父さんたちはしばらく帰れないから家の事は頼んだよ」
「あらいつも頼まれっぱなしよ。任せておいて。さあ寝ましょう。夜も遅いわ」
母の言葉でその場は解散となった。