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次期公爵様に婚約を申し込まれたので全力で逃げようとしてたら喧嘩を売られました

 翌日、ソフィーリアとルシールの三人で昼休憩をいつものカフェで取っていたら一年生の女の子数名が前にやってきた。その顔は厳しい。

「あなたがオブラン伯爵家のレティシア?」

 そう言ってレティシアを見下ろしてくる。上位貴族なんだろう。上級生であるレティシアを呼び捨てにするとは。

 学園では爵位で差別してはいけないとなっているが、実際はこの子のように堂々と爵位で優位を表わしてくる生徒もいる。

「そうだけど。何?」

 レティシアだって上位貴族だと気づいても名乗らない上に相手を敬うつもりのない言い方の生徒に敬語を使う必要はないと判断した。

「まあ!私を知らないの?不勉強ではなくて?」

 面倒なのに絡まれたな。何なんだろう?

「あなたはクララック公爵家のセリアさんね。あとそのお友達」

 さすがソフィーリア。なるほどクララック公爵家ね。だからこんな態度なのか。同じ公爵家でもヴィクトルたちとは大違いだなとレティシアは黙ってセリアと言われた生徒の顔を見た。

「そうよ。さすが第二王子からさっさと第三王子に乗り換えた侯爵家の人間ね。あなたのことは厚顔無恥と思うけど、知識だけは認めてあげてもよくってよ」

 ピキリと見ている風景にヒビが入った様に感じた。ソフィーリアはソフィーリアなりに考えて決断したのだ。厚顔無恥と言われる覚えはない。

「それであなたは何をしにここに来たのかしら?」

 ルシールが静かに言う。

「ああ、あなたは売れ残りと婚約した侯爵家の娘ね」

 売れ残り!!ソフィーリアの兄に対しても失礼だ。

「いくら公爵家のご令嬢でも私の婚約者に対してそのような発言は許せませんわ。撤回してくださらない?」

 ルシールが目を向ける。

「あら、本当のことじゃない。次期外務大臣なんて人気ないのよ。だからあの年まで婚約者がいなかったんでしょ。外務大臣になったら外交で他国に仕事で行くことが増えるでしょう?それに妻同伴なんてのもあるわけよ。

 更にうちの国に他国の人間が来たら王族に従ってその相手もしないとだし、もちろんそれに妻同伴はあるでしょ。

 建国祭ともなれば何か国も来るから舞踏会では色んな国の人間と話さないとならないじゃない。

 だからたくさんの国の言語を覚えたり、あと自由な時間が少なかったり、そんなの誰もしたがらないわ。だからあなたのところまで余っていたのよ。それをあなたは拾っただけ。

 ご苦労様ね。国の為に頑張ってちょうだい」

 この発言はどうなんだ?言っていて恥ずかしくならないのか。

「それって、何か国語も覚える自信がないか能力がないってのを言っているのと同じことよ。己の能力の無さをさらけ出しているあなたやあなたの周りの人たちは残念な人たちね」

 レティシアがシレッという。

「何ですって!」

「あら、だってソフィーリアは六か国語。私とルシールは四か国語話せるわよ。この四か国語とフランディー語を合わせた五か国語を話せればどこの国に行ったって、どこの国の人が来たって、問題なく会話できるわ。

 ルシールは別にヘンリー様と結婚する為に覚えたわけではないけどね。私たちはソフィーリアの側近になる為に覚えただけ。

 だから心配は無用よ。それにヘンリー様を選ばなかった人たちって見る目がないのね。とても良い方だわ。ルシールとお似合いだしね」

 レティシアはこういった貴族の女性たちの無駄なやり取りが大嫌いだ。わざわざ嫌味を言うために話しかけてくる暇があるならもっと有意義なことにその時間を使えば良いのにと思うのだ。

 だからといって売られた喧嘩は買うんだけど。

 セリアが苛立たし気にこちらを見てくる。

「レティシアありがとう。見る目の無い人たちのおかげで私がヘンリー様と婚約できたんだから感謝しないとね。他国に行くのも楽しそうだわ」

「ルシール、残念だけどそんなに一年に何回も外交で他国に行くことはないわよ。父は母が領地経営で忙しいのをわかっているからどうしてもここはって時しか同伴しないのよ。

 うちの国に来たならもちろん同伴が必要な場合は行くけど。ルシールは領地経営と私の側近で忙しいからお兄様もきっとそんなに同伴しないと思うわ」

「あら残念。でもヘンリー様と年に数回旅行に行けると思えば楽しそうよね」

 三人で楽しそうに話しているとバンと机を叩かれた。

「厚顔無恥な侯爵家のソフィーリア。売れ残りと婚約した侯爵家のルシール。それであなたは何なわけ?

 昨日、オブラン伯爵家の馬車がジョフロワ公爵家に入って行ってしばらくして出てきたのを知り合いが見たって言っていたわ。入るときは中には女性が乗っていたようだって。あなたなの?」

 そう来たか。もちろん嘘をつく必要なない。疚しいことをしているわけではないのだから。

「ええそうよ。公爵夫人に晩餐に招かれたの」

「どうして招かれたのよ」

「そんなことあなたに答える必要あるかしら?」

「じゃあ、あれはどうなのよ。数日前に庶民風の服を着たヴィクトル様が庶民の女と手を繋いで街を歩いていたのを見た人がいるの。その庶民の女ってあなた?」

 レティシアのことはちゃんと庶民に見えていたのか。良かった。ではない。面倒だなあと思いながらも答えずに逃げられそうにないので我慢するしかない。

「それも私ね。お忍びで庶民の店に行ったらちょうど視察に来てらしたヴィクトル様とお会いしてその後もご一緒したわ。人が多くてはぐれてはいけないからとヴィクトル様が手を繋いでくださったの」

 セリアの目が見開いている。

「あなた、恥ずかしくないの?伯爵家のくせに公爵家のヴィクトル様と手を繋ぐなんて。ひょっとして勘違いしていない?ヴィクトル様と結婚できるんじゃないかとか。とんでもないわ!ヴィクトル様に相応しいのは私よ!」

 なるほど、これが言いたかったのか。

「我が家から何度もお見合いの話をしているのにヴィクトル様が学園生の間は考えないっていうから待っているだけ。あなたなんてお呼びじゃないの。

 お母様もおっしゃってたわ。本来ならジョフロワ公爵家に嫁ぐのは自分だったのに伯爵家のエディットが割り込んできたって。公爵家はそれ相応の身分の人と結婚しないとならないのに、ってね。せめてお母様のように侯爵家でないと。伯爵家なんて論外だわ!」

 カフェの中には伯爵家子爵家男爵家もたくさんいるだろうに、こうも堂々と爵位で優劣をつけた発言は学園では許されない。

「そう。でも昨日お会いした公爵様とエディット様は仲睦まじい様子で、お二人の馴れ初めも聞かせていただいたけど先に好意を持たれたのは公爵様よ。それに公爵夫人は素敵な方だわ。

 あなたのお母様も結果公爵家に嫁がれたんだから良かったんじゃなくって?」

「そういう問題じゃないの!伯爵家の人間が公爵家に嫁ぐなんて前例をいくつも作りたくないのよ」

「それはあなたの勝手じゃない。誰が誰を選ぼうがその人の自由だわ。もちろん政略結婚もあるけれど、それは家と家で決められたことだし。

 あなたが公爵家には侯爵家以上なんて勝手な決まりを作る方がおかしいわ」

「おかしいのはあなたたちの家よ!そもそもお姉様が王太子妃になる予定だったのに外務大臣が他国からって言い出してそのままご結婚されてしまったわ。

 その後の第二王子の婚約者選びには公爵家を入れてくれないし。

 何かしたんでしょ?ソフィーリアの家が。参加した人に聞いたら初めからソフィーリアに決まっているような会だったって言ってたわ」

「おかしなことをおっしゃるのね。元々陛下は王太子殿下にもクラディオン殿下にもアレンディード殿下にも公爵家から選ぶことはしないと断言されていたそうよ。王妃殿下が公爵家だから。

 血が濃すぎてはいけないのと、公爵家と王家ばかりの婚姻は好ましくないとおっしゃってらしたそうよ。まさかそれをクララック公爵家のご当主や夫人は知らないの?それって臣下としてどうなのかしら?」

「知ってるわよ!公爵家の人間が選ばれるのが確実だから公爵家を選択肢に入れなかったのよ!

 だってそうじゃないと次期大公様の婚約者がマリーズになるわけないじゃない!」

 マリーの婚約者は次期大公様なのか。だから一度しか会ったことがないのね。レティシアは納得しマリーのことを思った。大公家に嫁入りとは大変だと。

「マリーズなんて人見知りの上ニキビだらけで醜いわ。王家と同じように公爵家から選ばないことになっていれば選ばれたのは私の友人よ!」

「何故そう思うのかしら?公爵家以外から選ぶとしても、侯爵家だけでもたくさんあるのにそれに伯爵家も加えたら選択肢はもっと広がるわね。あなたの友人が選ばれるとは限らないじゃない。

 それにマリーは醜くないわ。ニキビも治ってきているし、例えニキビがあっても可愛いわ。酷いこと言わないでくれる?」

「マリー!もう公爵夫人気取りで愛称で呼んでいるなんて恥知らずね!しかもあんな酷いニキビがそんな簡単に治るはずはないわ!」

「そう言われても。昨日お会いしたら、あと半月もすれば綺麗な肌になりそうだったわ。私が選んだ商品を使って肌のお手入れをしてるんだけど、それが合ったみたいね」

「そんな!ホランがあげたのを使っているはずよ!」

 そのホランというのが大公家に嫁入りするはずだったという令嬢のようだ。

「あなたはバルベ侯爵家のホランさんね。あなたがマリーズ様に肌のお手入れの商品を差し上げたの?」

 ソフィーリアの声が静かな怒りに満ちている。気づいたのだレティシアと同じ結論に。

「あなたの差し上げたのは合わなかったようね。どこの商品かしら?教えてくださる?私も使わないようにしたいから」

「ちゃんとした貴族専門の店のよ!私がこれが良いってホランに勧めたんだから!私とホランで選んで渡したものを使うのを止めて伯爵家の娘のレティシアがあげたものを使うだなんて失礼だわ!

 マリーズに抗議しないと!」

「何故抗議しないとならないの?それを使って悪化したから困っていて、それを知って気にかけていたヴィクトル様に私が選んだのを渡してもらっただけよ。

 もらったものを使う使わないはその品によるわね。食べたら蕁麻疹が出るものをもらってそれを食べなかったら相手に失礼かしら?」

「そんな例えと一緒にしないで。私とホランが選んであげたって言うのが大事なのよ!」

「でも合わないなら仕方ないじゃない。何故そんなにこだわるのかしら?使い続けたらマリーの肌は荒れる一方だわ。使うのを止めて当然よ」

「ホランは次期大公様と目が合って一瞬で二人は恋に落ちたのよ!それなのにマリーズが婚約者に選ばれるなんておかしいじゃない!大公家だって王家と血が近いわ!」

「その話とマリーズ様のお肌がどう関係してくるのかしら?あなたたちの話は要領を得ないわね。聞くに堪えないわ。まとめるとこうなんでしょ?

 ホランさんと次期大公様は恋に落ちた。二人が婚約するはずだったのにマリーズ様が王命で選ばれた。

 セリアさんとホランさんはそれが気に入らず、わざとニキビが酷くなるような商品をマリーズ様に渡した。

 それで困っていると思っていたらレティシアがマリーズ様の症状に合った商品を渡したことによって治ってきた。それが気に入らない。で合っているかしら?」

「あらこれもあるんじゃなくて?マリーズ様が困っているのを見ることを堪能した後、本当にニキビに良い商品をセリアさんがマリーズ様に渡す。すると治ってきて、マリーズ様にセリアさんは感謝される。

 そしてそのことを兄のヴィクトル様に伝えることでセリアさんの印象が良くなる。どうかしら?」

 ルシールも気づいていたようだ。

 セリアとホランがわなわなと震えている。

「そ、そんなことするわけないじゃない!それより、レティシアはヴィクトル様に近づかないで!伯爵家は伯爵家以下と結婚しなさいよ!」

「それは不敬に値する発言ね。ジゼット妃殿下は伯爵家ご出身よ。もちろん、ジョフロワ公爵夫人も伯爵家。妃殿下と筆頭公爵家の夫人に対しても失礼極まりない不敬な発言よ。

 もうおよしなさい。あなたの品格と知性が疑われるわよ」

 ソフィーリアがキツイ目を向ける。まだ婚約式が終わっていないし結婚もしていないから身分はセリアより下になるが、いずれは第三王子妃となり身分が上になる。

 セリア以外の取り巻きたちが狼狽え始めた。

「元々あなたの父親のせいでお姉様は王太子妃になれなかったのに、自分はちゃっかり王子妃になるなんて図々しい考えの人たちの集まりね!」

 いかん。頭が痛くなってきた。これが公爵家令嬢というものか?マリーとの差に家での環境と教育というのは大切だと思い知らされる。

「セリアさん。あなた本当に公爵家のご令嬢なの?そんなに感情を露わにして話すなんてみっともないわ」

「なんですって!」

 もう行こうと取り巻き立がセリアの腕を取る。

「とにかくヴィクトル様と結婚するのは私よ!伯爵家の娘の分際で控えなさいよ!ジョフロワ公爵家は筆頭公爵家なの!その妻が二代続いて伯爵家なんてありえないんだから!」

 もはやカフェにいる全員に聞こえるような大声だ。特に上位貴族令嬢としてありえない姿に注目の的になっている。

 もしかして昨日マリーがあの女と言っていたのはセリアのことかもしれない。この調子でヴィクトルと結婚するのは自分だとマリーに言っているならあの反応になってもおかしくはない。

 しかし、ジゼット妃殿下たちが困ったことになるとはセリアが関係しているのだろうか?

 周りがざわつき始めている。次期第三王子妃とその友人たちに公爵家令嬢が喧嘩腰で話しているのだ。貴族の令息令嬢とは噂好きだからいい見世物になっている。

「リア」

 そこに声をかけて来て四人がけのテーブルで一席空いていたところに座ったのはアレンディード殿下だ。

「早くリアに会いたかったのに厄介なのに捕まっちゃって。何だか面白そうなことになってるね」

 アレンディード殿下の登場にセリアたちが対応に窮しているようだ。

「アレン殿下。楽しまないでください。見世物ではありませんよ。さあ、あなたたちももう良いでしょう?言いたいことは言えたのじゃなくって?」 

 ソフィーリアの言葉にセリアが一歩引く。

「とにかく、ヴィクトル様と結婚するのは私なの。あなたはヴィクトル様に近づかないで。いいわね!」

 セリアは一番言いたかったであろうことを再度言うと去っていった。

「知り合いだったの?」

 アレンディードの言葉に三人でまさかと首を振る。

 爵位の差はあるが貴族は多い。陛下に忠誠を誓っているのが前提にあるにしても、それぞれに思惑はある。

 王妃と二人の側妃、それぞれを支持している家門が生家以外にもいくつもある。

 しかしカリーヌ妃が投獄されてからはカリーヌ妃を支持していた家門は力を失っている。

 そんな中、ソフィーリアの家は外務大臣ということもあってどこにもついていなかった。

 ルシールの家は静観していた。

 そしてレティシアの家は、静観というより政権に興味がなかった。薬草の研究ができれば何でもいい、と言い方は悪いが思う父であったから。

 ソフィーリアは忙しく、お茶会といえばカリーヌ妃の開くものに参加させられていたが、それ以外は王妃殿下主催か親しい友人のみで行うものしかほぼいかない。そんな暇はないのだ。

 ルシールとレティシアも同じで、王妃殿下主催のお茶会以外は親しい友人のみで行うものしかほぼいかない。

 何となく家門で出席するものしないものが別れていて、レティシアたちの年齢では接触のない家門はたくさんあるのだ。

 結婚すればそうも言ってられず交流は増えるが、そもそも社交界ではまだまだひよっこなのだ。

 だから公爵家の令嬢だからと知っているのは、三人の中で貴族の顔と名前を一致させる勉強をしたソフィーリアくらいだ。

「面倒なのに絡まれてたね」

「アレン殿下見てらしたんですか?」

「うん、厚顔無恥なソフィーリア、辺りから。それでそろそろ割って入ろうかなって思って入ってきた」

「ほぼ最初の方じゃないですか。もっと早くに入ってきてくださいよ。そしたらこんなに疲れなかったんですよ」

 レティシアが苦情を言うとアレンディードが苦笑した。

「それは申し訳ない。でも情報収集に良いかなあと思ってついつい見てた」

「情報収集ですか?」

 ソフィーリアの疑問にアレンディードが手に持っていたチキンのソテーが挟まれたパンの最後の一口を入れると答えた。

「ヴィク兄がね困ってるんだよ。王太子殿下もだけど。クララック公爵は悪い人ではないんだけど夫人がね。

 長女を王太子妃、次女を第二王子妃にしようと思ったけど、侯爵家以下になったから次女は公爵家にとヴィク兄のとこに子どもの頃から見合いの催促が凄かったらしい。

 けど、ジョフロワ公爵家はまだ婚約者を決めるのは早いと断り続けてたんだけど、学園に入る前にそろそろと言ってきて、とりあえず学園生の間は決めないと言って退けたらしい。

 ジョフロワ公爵は宰相だから、それを支える妻は自分で見つけろ、とヴィク兄に言ってあるんだよ。自分がそうだったからね。

 爵位に関係なく、平等に人の能力や性格を見る目がないと宰相は務まらない!って言ってさ。

 それでヴィク兄はとにかくセリア嬢は嫌だと。何度か会ったことがあるらしいけど、もう婚約者のつもりでいるらしい。

 爵位からして自分が選ばれると吹聴しているのも嫌だと。

 宰相家だから家には色んな爵位の人が来るからね。爵位で態度を変える人間では困るんだって。

 あとはマリーに対してだな」

「マリーに何かあるんですか?」

「公爵家での集まりがあるんだけど、マリーに対して母親が伯爵家出身だから自分より身分が下だから従うように言ったらしい」

「え!自分が嫁入りしたい家に対してそれはどうなんですか?」

 ルシールがありえないという顔で聞いている。

「だから困ってるんだよ。筆頭公爵家はジョフロワ公爵家なのは変わらない。ヴィク兄もカッコイイからね。嫁入りしたい。

 でもその妹は自分の下。何故なら母親が伯爵家だから。ヴィク兄だって同じエディット夫人が母親なんどけどね。

 それを堂々と言うんだよ。マリーに。それをマリーがヴィク兄に言わないわけないのにね。

 それでも公爵家だから選ばれると思っているみたいで何だかわからないけど、話すと疲れそうだろ?」

 矛盾が矛盾を呼んで更に矛盾が重なって、何をしたいのかしら?レティシアはマリーのことを思うと沸々と怒りが湧いてきた。

「それで長女はどうしてるの?」

 ソフィーリアが聞くとアレンディードは更に嫌そうな顔をした。

「王太子殿下の側妃にしろとアリーチェ様と結婚して直ぐから言っている。最近ではアリーチェ様はまだ王女お一人しか産んでらっしゃらないから、王子を産んでみせます!と何度も言ってきてるらしい」

「それはこれからまだまだあるじゃないですか!」

 思わずと言った感じでソフィーリアが声を上げる。

「そう。だから側妃を娶るつもりはない、と何度も返事をしているらしいが、公爵夫人が間を開けずに手紙を送ってくるそうだ。

 あと王妃殿下に面会を何度も申し込んでくる。まあほとんど断ってるらしいけどね。でもたまに会わないと王妃殿下の実家にまで手紙を送るらしくて。困ったもんだよ。

 まあ何年も断り続けても言ってくるのは長女の嫁入り先で良い家がもうないからだろうなあ」

「あー、なるほど。王太子妃になると勝手に婚約者を決めずにきて、なれなかったから側妃にと勝手に言っているうちに、爵位が少し下になっても、財政面とかで年齢と家格が釣り合う家門はもう結婚していたり、婚約者がいたりするのね。

 だから意地でも側妃になりたいと」

 ルシールがうんうんと頷きながら言った。

「うわー、勝手ねー。王家側はそんなの関わりたくないわよね」

 こっわ、とレティシアがつぶやくとアレンディードが更に困った顔をした。

「相手が公爵家だからね。王家としても無下にはできないんだよ。

 だけど、ヴィク兄が万が一折れてセリア嬢と婚約、なんてことになったらもっと長女を側妃にって言ってくるだろうって母上が言ってた。

 言えば言うほど聞いてもらえると思って。爵位を考えるとやはり選ばれて当然だ!ってね」

 レティシアはアレンディードの話でもやもやするものを感じ胸を押さえた。

 爵位で思い通りにしようとする貴族はいる。一番多い例が当主や嫡男がメイドや侍女に手を出すことだ。

 他にもさっきのセリアのように爵位が上だからと言うことを聞かせようとしたり、けなしたり。

「だから、この前のお茶会でレティシアがヴィクトル様と婚約しないと大変なことになるってジゼット妃殿下や王妃殿下がおっしゃってたのね」

 ソフィーリアはお茶会での話の説明をアレンディードにしている。

 レティシアはそれを聞きながら胸のもやもやを消したくて何度も胸を撫でた。

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