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次期公爵様に婚約をせまられてますが公爵夫人なんて向いてないので全力で逃げたいのに包囲網が迫って来ます!

 ヴィクトルと買い物をして二日後。レティシアは馬車に揺られていた。

 今日は学園が午前で終わるということで、ジゼット妃殿下からお茶会をするからソフィーリアに午後から友達を連れて遊びに来るよう連絡があったそうだ。ソフィーリアがレティシアとルシールを迎えに来て、今は王城へ向かっているところだ。

「舞踏会でもないのに王城に行くのは緊張するわね。しかも王宮だなんて」

 ルシールが失敗しないか心配だとつぶやいている。

「大丈夫よ。大勢よばれているわけではないそうだから。ジゼット妃殿下はお優しい方よ。心配いらないわ」

 ソフィーリアはもう何度も通った王城で、王宮にもよばれているから慣れているがルシールとレティシアはそうもいかない。

「ソフィーリアが慣れすぎなのよ。ジゼット妃殿下に失礼のないようにしないとね」

 そう言っているうちに王城を過ぎ王宮の馬車止めに着いていた。外から扉が開く。

「ようこそいらっしゃいました。ソフィーリア様、ルシール様、レティシア様」

 深くお辞儀をする紳士が出迎えてくれた。

「この宮の執事のフロランでございます。よろしくお願いいたします。では庭園に用意された会場にご案内いたします」

 フロランに三人で黙って付いて行く。

 ジゼット妃殿下の宮は落ち着いた雰囲気の内装で、庭園に出ると可憐な花がたくさん咲いていた。ジゼット妃殿下の人柄が出ているんだろうなと、まだ話したこともないのにレティシアは思った。

 全てソフィーリアから聞いたジゼット妃殿下の話から想像したものだ。

 案内された場所には既に二人女性が座っていて楽しそうに話していた。一人はジゼット妃殿下だとわかるが、もう一人は後ろを向いていたのでわからない。

「ジゼット妃殿下。ご令嬢方をお連れしました」

 そこでジゼットが立ち上がり手を振っている。

「いらっしゃい。よく来てくれたわね。三人とも」

 その時後ろを向いていた女性が振り向きその顔にレティシアは既視感を覚えた。なんだか見たことあるような。でも会ったことあるとは思えないんだけど。

「メルディレン侯爵家ソフィーリアです。お招きいただきありがとうございます」

「アスラン侯爵家ルシールです。お招きに感謝いたします」

「オブラン伯爵家レティシアです。お招きいただきありがとうございます」

 三人で順番に挨拶をするとジゼットが話し始めた。

「婚約おめでとう。ルシールさん。ソフィーリアさんと義姉妹になるそうね。ふふ、楽しそうね」

「紹介するわね。妹のエディットよ」

 あ~~~~~~~~~~~~。そうだあ。忘れてたぁ。レティシアは膝をつきそうになるのをなんとか堪えた。

 エディットは赤茶色の髪に紫の目をしていた。髪の色が違うからパッと見わかりにくいが、よく見ればそっくりなのだ。姉妹では全く似ていないから紹介されなければ姉妹とは思わないだろう。

「学園で息子のヴィクトルがお世話になってるみたいでありがとう」

 そうなのだ。ジゼットの妹エディットはジョフロワ公爵家夫人で、もちろんヴィクトルの母親だ。ちらりとソフィーリアを見ると首を振っている。ソフィーリアもエディットが来ることを知らなかったようだ。

「ヴィクトル様には先だっての裁判で助けていただき本当に助かりました」

「いいのよ。あの子なんていくらでも使えば」

 そう言ってエディットが豪快に笑う。

「さあ、挨拶はこれで終わり。みんな座って。エディットが良い茶葉が手に入ったって言うからそれを飲むのに集まってもらったの」

 いやいや、その言葉を素直に聞けないのは自分の心が歪んでいるからか?とレティシアは思った。

 ふとそこで円卓に椅子が六脚あるのに気づいた。

「誰かまだ来られるんですか?」

「ええ、王妃殿下が来られるの」

 さらっとジゼットが言った言葉に三人で固まった。どんな顔ぶれのお茶会なのか。緊張感が半端ないではないか。

「ああ、来られたわ」

 直ぐに全員で立ち上がって辞儀をする。王妃殿下にこんな近くで拝謁するなんて震えるなって方がおかしい。レティシアは緊張してカチカチになった体に気づかれませんようにと祈った。

「お待たせしちゃったわ。皆さんお座りになって。楽しくお茶会をしましょう」

 王妃殿下の言葉でようやくお茶会が始まった。主にしゃべるのはエディットと王妃殿下だ。

それなりに年齢差があるだろうに、三人とも実年齢を知らなければレティシアの姉と名乗ってもおかしくない程若々しい。

 王妃殿下、ジゼット妃殿下、ジョフロワ公爵夫人。それぞれ違った雰囲気の美貌を持っている。まさに王宮。圧巻だとレティシアは感嘆した。

 だから余計に、自分がこの中に入るのは無理だと思ってしまう。私にはこんな美貌も気品もない。

「レティシアさん。うちの愚息が迷惑かけてない?あの子ちょっと強引だから」

 直球!軽く深呼吸するとエディットに何とか作った笑顔を向ける。

「いいえ、親切にしていただいております。逆に私などお側にいるのはご迷惑になっていないか心配です。私は未熟者ですし、立場的にもヴィクトル様に相応しいとは思えないので困惑しております」

 正直に言うしかない。

 しかし迷惑になっているわけでもない。いずれ断るにしても、もったいない話だと困惑があるということだから。

「立場なんて心配しないでいいわよ。私だって伯爵家の次女ですもの。同じじゃない」

 いえいえ、エディットは更に側妃の姉がいる、がついているが、レティシアには何もついていないのだ。

「いいえ。クレイサー伯爵家と当家では同じ伯爵位といっても、領地に関してもかなり差がありますし。それにクレイサー伯爵家は近々侯爵家に上爵されると聞いておりますから同じなどとは恐れ多いです」

 レティシアはとんでもないと手を振る。

「あら困ったちゃんね。ヴィクトルが何かやらかしたのかしら?こんなに拒否されるなんて」

「とんでもない!ヴィクトル様はお優しい方です。聡明でらっしゃいますし。ただ未熟者で至らない面が多すぎて私には相応しくない話だと思っているということです」

「どこが未熟者で至らないのかしら?この前の裁判、私見てたけど堂々とされてたわ。真っ直ぐな目で尋問している姿は法の女神のようだったもの」

 法の女神!レティシアは一気に真っ赤になった。

「お恥ずかしい限りです。今になって思い返すと、一生懸命なあまり相手をきつく詰問し過ぎてしまったと後悔しております。もう少し優しい言い方があったのではないかと。法の女神どころかあれでは猛獣ですわ」

 これはレティシアの本心だ。きつく言い過ぎたとあの後反省したのだ。

「あら、私は素晴らしかったと思うわ。あなたの声は柔らかいから自分で思っているより周りはきつく感じないわよ。実直さが出ていて良かったと思うわ」

 まさかの王妃殿下のフォローだ。

「こんな可愛らしい令嬢を猛獣だなんて誰も思わないわ」

 更に王妃殿下のフォローが続く。困惑しきりだ。何故こんなに褒めてくれるのか。

「あ、ありがとうございます」

「ソフィーリアさんはレティシアさんのことどう思う?」

 ジゼットがソフィーリアに聞く。

「レティシアは優しくて真っ直ぐで頼りになる存在です。そして本人が思っている以上にクラスで人気があります。レティシアは自己評価が低いところが難点ですね」

「ルシールさんは?」

「レティシアはいつも場を明るくしてくれますし、話していて楽しいです。後は、ソフィーリアが言う通りで、この子毎日鏡見てるのかしら?ってくらい自分の事をわかってないですね」

「でしょうね。怖がらないで聞いて欲しいんだけど、公爵夫人って大変なのよ。お茶会やサロンで色んな相手、特に女性と対さないといけないから。

 その経験で私は顔を見ればその女性の大体の性格はわかるのよ。化粧をどれだけ厚くしていてもね。中から滲み出てくるものが必ず顔に出るから。

 こんなに可愛らしくて優しそうな子が息子と結婚してくれたらどんなに嬉しいか。

 消極的な理由は何かあるのかしら?」

 そんなに言われても本当は一人でいたいとか、結婚自体に消極的だとか言いにくい。

「はい。もうこの辺でこの話は終わり。レティシアさんが美味しくお茶を飲めないわ。違う話にしましょう」

「でもレティシアさんがうちにお嫁に来てくれないと困ったことになりますわ」

「そうねえ。ヴィクトルに何としてもレティシアさんを口説き落としてもらわないと」

「まあ、確かにそうね。でもレティシアさんが頑なになってもいけないから今日はこれで終わり」

 そう王妃殿下が締めくくる。レティシアがヴィクトルと結婚しないと困ったことになる?そんなことあるかしら?ヴィクトル様なら選び放題だし問題はないと思うのだけど。

 その後は六人で出されたケーキの話、学園で流行っていること、美味しいお店などの話に花が咲いた。とにかく王妃殿下とエディットの話術は巧みでおもしろい。

 年齢が離れている感じが全くしないテンポで話が次々進んでいく。レティシアもヴィクトルのことなど忘れて話に夢中になった。

 そしてそんな盛り上がりを見せていたお茶会はあっという間に散会の時間になった。

 先に退出する王妃殿下を見送るとエディットがレティシアに話しかけてきた。

「私がいて驚いたでしょう?ごめんなさいね。姉にどうしてもあなたと話したいから場を設けて欲しいと頼んだの。凄く緊張しているのが伝わってきたからちゃんと私がいることを伝えてもらえば良かったと反省したわ」

 優しい手がレティシアの手を包み込む。

「いえ、最初は驚きましたがとても楽しい時間を過ごすことができました」

「そう言ってくれると嬉しいわ。それでね。今日会ったばかりで急だとは思うんだけど、明日の夜は時間あるかしら?」

「明日の夜ですか?何もありませんが」

「そう、良かった。うちの家族を紹介したいから晩餐に来てくれない?」

「え!」

 何と恐れ多い。婚約者でもないのに晩餐に呼ばれるなど。止まってしまったレティシアにエディットが言い募る。

「貴族の結婚て家の結婚でもあるでしょ?うちの家族にも会ってからゆっくり考えて欲しいの。ヴィクトルがあなたが良いと言っているからみんな会いたがっているのよ。

 親の欲目かもしれないけど、ヴィクトルも小さい頃から色んな人間を見てきて人を見る目は確かなの。だからそんなヴィクトルが選んだあなたに会いたいって」

 そこまで言われると断りにくい。ましてや公爵夫人から直接の招待なのだ。レティシアは覚悟を決める。

「わかりました。ご招待ありがとうございます。明日夕方伺います」

「ありがとう!待っているわ。正式な招待状をすぐに送るわね。うちの料理長の腕は確かよ。楽しみにしていてね。嫌いなものある?」

「ありません。楽しみにしています」

「ええ。私もレティシアさんに会えて良かったわ。明日が待ち遠しいわ。それじゃ皆さんごきげんよう」

 レティシアとの約束を取り付けるとエディットが帰って行った。

「ごめんね。騙すようなことして。エディットがいると知ったら来てくれないかもって話になって」

 ジゼットが申し訳なさそうにしている。

「いいえ。大丈夫です。お話できて光栄でした」

「そう言ってくれると助かるわ。ヴィクトルが嫌なら嫌と言えばいいのよ。世の中政略結婚が当たり前とはいえ、上位貴族からの申し込みでも拒否する権利だってあると私は思うの。

 どうしようもないこともあって意に添わぬ結婚をする人もたくさんいるわ。でも、誰にだって好みはあるし事情もあるものね。嫌と言える状況なら嫌と言えば良いの。

 だからあまり深く考えずに明日行ってみて。筆頭公爵家と聞けば怖いと思うかもしれないけど、ある意味良い人たちよ。相手が好きでも家族が好きになれなければ続けられない結婚もあるし。

 いい機会だからしっかり色んな角度からヴィクトルを見て考えると良いわ。もしヴィクトルを選んでくれたら私は娘がたくさんできるわね。

 ソフィーリアさんでしょ。ソフィーリアさんのお兄さんの妻ならルシールさんも娘みたいなものよね。そして妹の義理の娘ならレティシアさんも私の娘みたいなもの。息子しかいなかったから華やかになって嬉しいわ」

 やわらかく微笑むジゼットに気持ちが軽くなるのを感じた。

 そうか、深く考えずに明日は行こう。断ることばかり考えていて、相手をちゃんと見ていなかったのはレティシアだ。断るにしてもちゃんと誠意のある断り方をしなくてはならない。

 受けるにしてもそれ相応の覚悟が必要になって来る。結婚式で初顔合わせなんて夫婦もいる中で、上位貴族であるヴィクトルからの婚約の申し込みを自分勝手な理由だけで断るのは不誠実だ。

 まだちゃんと婚約について話もしていない。近いうちにヴィクトルと話をする時間を作ってもらおう。レティシアは決意を新たにした。


 帰りの馬車。ソフィーリアが申し訳なさそうに謝って来る。

「ごめんね。私知らなかったのよ。ジゼット妃殿下に私の友達に会いたいからお茶会をするから一緒においでって言われて。妹さんがジョフロワ公爵夫人だってことすっかり忘れていたわ」

「いいのよ。結果お話できて良かったし。美味しいお茶とお菓子をいただいて貴重なお話も聞けたから楽しかったわ」

「そうね。王妃殿下って体調を崩しがちってお聞きするから式典ではキリっとしてらっしゃるけど儚げなイメージを勝手に持っていたわ。でも話すと明るく楽しい方ね。公爵夫人はそれ以上に明るいし。

 でも、レティシアとヴィクトル様が結婚しないと困ったことになるって何かしらね?」

「私も思った。でもきっと、引く手あまたで決められないってことじゃない?ジョフロワ公爵家が政略結婚しないといけない理由はないし。それかどのご令嬢も選べないからヴィクトル様自ら選んだレティシアが良いとか」

「ヴィクトル様がレティシアじゃないと嫌だ~って暴れ出すんじゃない?ふふ」

「もう、ルシール変なこと言わないで。そんなわけないじゃない」

 二人は笑いながら話しているが、確かに一体何故なんだろう?レティシアは不思議に思いながら馬車に揺られていた。

 


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