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口コミ

作者: エチュード

 少し前に『グーグル口コミ欄をめぐって医師らが集団提訴』というニュースがあった。グーグルマップに不当な内容が投稿されても削除してもらえず、利益が侵害された医師達の訴えだ。中には診療しているのに「閉院した」との酷い口コミもあったという。

 私は口コミというものを書いたことがないし、読むことも殆どない。口コミに限らず、ネット上に書かれた内容の八割以上は、信用に値しないと考えている。何故かというと文責が不明だから。ニュースなどで出所が分かっていれば、ある程度信じても良いのかと思うが、そこに書かれていることが全て正しいとは限らない。テレビなどよりはいい加減なことも書いてある。現実の社会のことを並べていても、仮想世界のように思えて仕方がない。

 だから、私がここに書いている内容も、一応創作という前提になっているので、事実かどうかは分からなくても良いようだ。

 それだけネットを信用していない私も、数えるほどの回数に過ぎないが口コミを見たことがある。日用品や化粧品で少し高額な新商品が出た時だ。CMを見て興味を持つのだが、あれだけのお金を出して、果たしてそれだけの価値があるのだろうか、との気持ちから見てみるのだ。しかし、褒める言葉が並んでいると、サクラではないかと疑ってしまい、貶していると、それを作っている企業の商売敵が書いているのではと穿った見方をするので、結果的に何の参考にもならない。文責が不明と言うのは、そういうことなのだろう。

 世の中には、口コミを頼りに飲食店を選ぶ人も多く居るようだ。ところが、食いしん坊を自認している私は、それもしたことがない。それに、口コミを頼りに人気店へ行くと、行列が待っていることが想像できる。食に対してそこまでの情熱を持たないので、本当は食いしん坊ではないような気もしてくる。

 もう十年以上前になるが、前歯の一本が虫歯になりかけたことがあった。まだほんの初期だったので、歯医者選びなど考えずに、わりと近くの歯科医院へ行った。医師はちょっと見ただけで、神経を抜かなければいけないと言う。その言葉に唖然としていると、次回に神経を抜くからと言って、その日の診療を終えたのだった。

 ほんの初期の虫歯だと考えていた私は、「神経を抜く」という言葉にびっくりしてしまった。神経を抜いてしまうと、歯が弱くなったり変色したりすると聞いたことがあった。こんな初期なのに、それほどの治療が必要なのだろうかと疑問に思い、別の医師の意見も聞きたいと思った。丁度その頃仕事先で親しくなった歯科衛生士さんがいたので、経緯を話してお薦めの歯科医院を紹介してもらった。その医院へ行くにはバスに乗る必要があったが、それほど遠くはなかった。結果は神経を抜く必要はなく、麻酔はしたが一回の治療で済んだ。そして、あれから十年以上になるが、今ではどの歯だったかわからないほど、健康な歯と変わらない。今にして思えば、あの初診の日、その場ですぐに神経を抜きましょうと言われなかったのは幸いだった。予想していなかった診断だけに、その場では別の医院でとの考えに、思い至らなかったかも知れないことを思うと。

 あれ以来、医院選びは重要だと考えるようになった。風邪を引いた時なども、できれば信頼できる医院を受診したいものである。ネットに書かれていることを信用しない私が病院を探す場合は、友人知人、隣近所の人達の、直接の言葉を参考にするよう心掛けている。世間話の合間に、病院に関する情報を集めておく。実際に受診した人の話こそ信用できるというものだ。と言っても、人それぞれの感じ方などにより、少しずつ意見が違うのは許容範囲内である。

 以前、近所の人が掛かっていると聞いた、医院の口コミを偶々目にしたことがあった。Aさんは歯科医院を、Bさんは眼科を受診しているとのことだった。そして、彼女ら自身は、医院に対して不満らしいことは何もなかったようだ。ところが、その歯科医院と眼科医院の口コミが、それはそれは辛辣な言葉のオンパレードだったのにはびっくりした。内容は受付のスタッフの態度が悪いとか、医師の言葉遣いが荒いなど様々だったが。書き込みをした人に対してだけそのような態度だったのか、それとも偶々受付係や医師の虫の居所が悪かったのか。或いは全くの虚偽なのか。実際に受診している人が不満を感じていないのに、その有様なのだ。どちらが正しいと、一概に決めつけることはできないにしても、誰が書いたか分からないものよりも、知り合いの言葉を信じるのが普通だろう。

 先日は、カスタマーハラスメントについてのニュースがあった。カスハラをしてしまう人に対して、アンガーマネジメントの講習会が開かれたという。我慢ができない人は、何度もカスハラをしてしまうようだ。講習会にどれだけの効果があるかは分からないが、何もしないよりは良いのではないだろうか。

 口コミに虚偽の投稿をする人を、カスタマーハラスメントをする人と、同等に扱って良いのか分からない。もしかすると、ハラスメントと捉えられる態度を取る事ができない人が、せめてもの腹いせに、不満をネット上にさらけ出すのが、虚偽の口コミだとする考え方もあるかも知れない。

 でも、飲食店や商店の場合と違って、病院や医院にについては、少し考えてもらいたいこともある。というのは、頭であれお腹であれ体が不調になると、多くの人は気弱になりがちだ。体の不調が心までも蝕んでしまうこともある。そんな人が頼りにして足を運んだ病院や医院で、理不尽な扱いをされたとしたらどうだろう?元気な時ならそれほどに感じないことでも、既に痛手を負っている心は、ちょっとしたことで傷ついてしまうこともある。そんな時のやり場のない怒りを口コミにぶつけたとしたら…。まあ、それだけの気力があればという話にもなるが。病院や医院は弱っている人を受け入れる所だとの認識が、いつも気持ちのどこかにあれば、言葉の言い回しひとつにしても、工夫できる余地はあるのではないだろうか。

  

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