第68話 第13ダンジョンの存続
10階層の稼働が始まって約1ヶ月。
滅びた古代王国の呪われた姫。滅びた王国の呪われし姫。しかし滅びることが叶わず、ダンジョンの中に隠れ潜んでいる。
そんなシナリオだったが、第6ダンジョンの最下層では女子会が開かれている。ブランシュとローゼに、10階層にいるはずのラナの姿がある。少し表情の硬いラナが、それでも初めて見るお菓子やデザートを楽しみ、言葉は少ないがお喋りを楽しんでいる。
「ラナさん、10階層のボスなんすけどね」
「大丈夫だろ。まだ攻略は全くといっていいほど進んでいないんだから」
「そうっすね、全行程の5%ほどっすか」
小人族の錬金術によって、10階層には今までに知られていない未知の猛毒が撒き散らされている。弱毒化され、自然に消えてしまう程度ではあるらしいが、迂闊に10階層に踏み込んだ冒険者の中には、生死の境をさ迷った者も多い。
「死亡者は出てないんだよな」
「まだ、ゼロのままっすね。今のところはっすけど」
迷いの森の8階層と9階層からは、否応なしに薬草が手に入る。宝箱の中身もポーションなのだから、ダンジョンに潜って、ポーションを増やして帰る冒険者は多い。
しかし、10階層に踏み入れば大量に入手した薬草やポーションは、あっという間に消えてしまう。中ボスのいるダンジョンフロアらしい難易度になっている。
そして、マリクが黙ってモニターの画面を切り替える。そこには、腹を抱えて蹲る地竜ミショウの姿と、微笑みを浮かべて見守るマリアナとマリクに小人族の長エヴァンがいる。
第6ダンジョンの下層の中でも、ブラックアウトを起こし崩壊した階層に繋がっている31階層。禍々しい雰囲気があり、そこに近付こうとする魔物も黒子天使もいない。
誰も近付こうとしなかったエリアに、新しく立ち上げられた研究施設。完全封鎖され、第6ダンジョン最下層以上に強化されたセキュリティ。
「一応ダンジョンの責任者として聞いておくが、大丈夫だな。運用を間違えると、ブラックアウト以上の大惨事が起こるかもしれん」
「責任者はシーマだから、大丈夫っすよ。マリアナさんも付いているし……」
「だから危ないんだ。絶対に監視の目を怠るんじゃないぞ」
「それなんすけど、ミショウは大丈夫なんすか?」
小人族の生み出した新種の毒の被験者は、地竜ミショウとなってしまった。“毒なぞ上位種である地竜には効かぬ”と豪語していたミショウだっただけに、都合の良いターゲットとされる。少しでも被害者を抑えるためには、尊い犠牲でもあり仕方がない。
「ああ、あれは大丈夫だ。毒無効スキルを持っている。ダメージ軽減じゃない、無効スキルなんだ」
「でも、苦しんでるように見えるっすよ」
地竜ミショウは、確かに毒無効スキルを持っている。ただ、毒といっても定義が難しい。毒となる者もいれば、薬となる者もいる。
「きっと、ミショウの体は成長しているんだ。そう、成長痛みたいなもんだ」
悶え苦しむミショウと、それを嬉しそうに見守るシーマ達。勿論、モニターからは音は出していない。それは、健全な精神状態を保つための手段でもあり、質の良い作業を継続する為の叡知でもある。
「マリク、勘違いするなよ。俺たちが監視しなければならないことは、そこじゃないだろ」
「分かってるっす。侵入者を許さないことと、レベル3以上の毒を外に出さないようにすることっす」
「違う、言葉は正確に使え。レベル3以上の薬を持ち出させないようにだ!」
第13ダンジョンの10階層の宝箱から発見された未知の薬。効果は低く抑えられているが、冒険者達のスキルや能力を強化する。それを追い求めて、続々と上位の冒険者達も第13ダンジョンの10階層に集まり始めている。
質の高い薬草に能力強化。ダンジョン攻略に必須なイテムが排出され、第13ダンジョンの存在価値を高める。
魔力を大量に獲得することは出来ないが、他のダンジョンにとって有益なダンジョンであると、天界も認めざるを得ない。そして、創造神ゼノの名においての全ダンジョンへ出された一通のメール。
天使ブランシュを、第13ダンジョンの熾天使に任ずる。それに伴い、勇者・聖女の任命権を授与する。




