第66話 ゴルゴンのラナ
ダンジョンに訪れる冒険者の生命力を糧とし、成長と続けるダンジョン。
そして、次の階層は10階層。一般的には、中ボスが登場するダンジョンでもあり、第13ダンジョンにとって、初めての中ボス。
ダンジョンが熾天使の意を汲み取り成長し、それに適した中ボスを配置しなければならないが、まだ何も決められていない。
簡単に何とかするとは言ってみたが、これといって良い案も思い浮かばない。
「先輩っ、どうするんすか?」
モニターは黒く、なにも映っていないように見えるが、正確には何もない広大な空間が広がっている。ダンジョン内を照らす灯りはなく、特殊なカメラでなければダンジョンの中を映し出すことは出来ない。
「そうだな、何もない暗闇ってのも悪くないかもな」
「いいんすかっ、そんなダンジョンなんて聞いたことなっすよ」
「駄目な理由ってあるか?」
「だって、管理しにくじゃないっすか?特殊なカメラだって必要になるし、暗闇が好きな魔物なんて死霊くらいっすよ。でも、アイツらは魔力バカ食いしますよからね」
第13ダンジョンでもっとも重要なのは、魔力消費が少なく、それでいて厄介な魔物を配置しなければならないこと。当たり前のようになっているが、ダンジョンの灯りだって魔力消費でしかない。
「ローゼのところに、1人だけ暗闇が好きな魔物がいたろ」
「えっ、もしかして……」
「確か、ラナって名前の魔物。そう、ゴルゴンのラナ」
「それは、どうっすかね。中々難しそうっすよ」
第6ダンジョンの最下層にある幾つもの会議室。その中でも一番小さく目立たない部屋に、ローゼによって連れてこられたのは、ゴルゴン族のラナ。
狭い会議室の中には俺とマリクしかい居ないが、ローゼの後ろに隠れ、決して姿を見せようとはしない。
ゴルゴンは醜女で髪は蛇の魔物。蛇は様々な種類が混ざり、それぞれが多種多様の猛毒を持つ。しかし、ゴルゴンの最大の特徴は、蛇眼の瞳。一度睨まれれば、石化してしまう呪われた瞳。
魔物の中でも忌み嫌われ、差別されていた存在。そんな魔物の面倒を見ていたのが亡者のローゼ。霊体であるローゼには、蛇眼の瞳は通用しないからでもある。
「レヴィン、妾は乗り気ではないぞ。面白半分ならば、どちらも傷付くことになる」
「俺はな、正当な評価をされるべきだと思う。隠れていては、何も変わらない。ローゼは、どう思うんだ?」
「妾がどう思うかは関係なかろう。当事者が、どう思うかが問題ではないか」
「それなら、当事者の評価を見せてやるよ」
マリクに、ラナのプロフィールを渡すと、マリクは固まって動けない。胸から上の顔写真で、蛇眼の瞳も写った写真。だが、ただの写真に石化させる力なんてない。
純粋なラナの容姿に、マリクは釘付けとなっている。
「どうだ、マリク?ラナの印象は?」
「何で、どうして?先輩は、知っていたんすか?」
醜女と噂されたラナの容姿。しかし、現実は大きく違う。石化させずとも、マリクの動きを止めてしまう美貌。
「だから、どうだって聞いてるんだ」
「めちゃ、別嬪さんじゃないっすか。セイレーンもローレライも霞んで見えるっす。隠していたなんてズルいっすよ」
何故俺が知っているかといえば、ゴルゴンも契約しダンジョンにやってきた魔物の一体。データベースに登録され顔写真も載っていたから。しかし、実物を見たことはない。
「どうだ?10階層の中ボスをやってみないか?黒子天使達がバックアップする。危険はないし、安全は保証する」
ガルグイユの石像や、美形のセイレーンやローレライ達が棲む10階層までのダンジョン。その象徴となる存在が、ゴルゴンのラナ。魔物としての力も申し分ない。
ローゼに促されて、俺達の前に出てきたラナの頬は、薄っすらと赤く染まっている。
「うおっ、写真なんかより、ずっと凄いっすよ。俺の知ってる中で、ぶっちぎりの美人さんじゃないっすか。決まりっすよ、決まり。先輩もローゼさんも、イイっすよね」
マリクの止めどなく溢れる賛辞の言葉で、さらにラナの顔が紅潮する。
「ラナ、どうする?断ってもイイのだぞ」
「マリクさんが、手伝ってくれるのですか?」
「もちろんっす!」




