第63話 第10ダンジョンからの使者
ドライアドとトレントの迷いの森、そしてセイレーンとローレライ達の歌声が冒険者達を魅了する。
何の問題も起こらないはずたったが、想定通りに物事は進んでくれない。
ドライアドとトレントの森に、アジノミ草が見つかってしまった。万能回復薬エリクサーの素材でもあり、レア度の高い素材になる。それが、ダンジョンの低層で見つかったこと衝撃は大きい。
そして、迷えば迷う程にアジノミ草が自生する場所へと導かれてしまう。それがこのダンジョンの下層に封印されている熾天使ブランシュ、いや女神ブランシュなのだと噂が広まっている。
「先輩っ、やっぱり悪目立ちし過ぎっすよね?」
「どうしようもないだろ。そんな事より、採取チームの編成は出来てるんだろな」
「それは、大丈夫っす。ハーピー達が手伝ってくれるっす。子供でも出来る仕事だから、総出で手伝ってくれるっす!」
モニターに映る8階層と9階層のマップ。そして、アジノミ草の自生が確認された場所は赤、可能性が高い場所には青く表示されている。
そして、三角で示されているのが10隊に編成された、アジノミ草の捜索チーム。ドライアド達によって、冒険者達に接触しないように調整し、安全も確保している。
「それで、どらくらいで終わる?」
「ハーピー達なら、半日もあれば大丈夫ですね」
「そうか、まだ何が起きるか分からない。時間がかかっても階層全域は調べるんだ」
トレントやドライアド達は、ヒケンの森からダンジョンの中へと棲みかをを移したことで、急速に力を付けている。一緒に転移してきたヒケンの森の草木にも急激な成長と進化を促し、アジノミ草が誕生してしまった。
他のダンジョンでも、“魔の森”や“帰らずの森”と呼ばれる場所は沢山ある。だから、他のダンジョンでも同じことが起こっているんだと、思うしかない。
ただ言えるのは、第13ダンジョンの低層でアジノミ草が大量採取出来るということだけは避けなければならない。
「アジノミ草だけでエリクサーは作れないから、そんなに慌てる必要はないよ。数十ある素材の1つなんだからね」
俺達が慌てている中、シーマだけは余裕そうに笑みを浮かべ、どこか楽しげでもある。
「でも、ハイポーションくらいなら量産出来るだろ。こんな下位の低層でバンバンと見つってイイものじゃない」
「アジノミ草にだけに囚われない方がイイんじゃないかな。ヒケンの森の植物達は、皆進化してるんだ」
「シーマ……何か見つけたのか?」
「さあ、何だろうね。ボクの知らない植物やキノコ達の宝庫だよ。第13ダンジョンのマジックアイテムも、きっと強化される。ワクワクしかしないね」
「マリク、とにかく知らないものを見つけたら報告させろ。徹底的に回収するんだ」
「あっ、1つだけ注意しておくよ。ヒケンの森の植物達が進化したなら、きっと大丈夫だとは思うけど、迂闊に触らない方がイイ」
『報告します。ヒケンの森14ゲートに、第10ダンジョン司令官のイチモの使者が来ております』
モニターの映像が、ダンジョンマップからヒケンの森に切り替わると、監視の黒子天使の姿が映る。その後ろには黒装束を纏った黒子天使。それは、ダンジョン間の交渉を行う使者の正装になる。
神々が定めたルールでは、他のダンジョンに対してスパイを送り込んだり、破壊工作やそれに準ずる行動は禁じられている。あくまでも、ダンジョンは魔力を獲得することが目的で、足の引っ張りが目的ではない。
だから、利害関係が一致すればダンジョン間で協力することもある。第3ダンジョンのダーマが竜鱗を求めたように、ダンジョン間の交流はある。ダーマと俺やブランシュは師弟関係にあり、それがダーマの強みでもある。
しかし、俺達と第10ダンジョンとは全く繋がりはない。しかも、生き残りをかけた争いが始まる中で、第13ダンジョンと繋がりを持つ意味も得られるメリットも少ない。ただモニターに映る使者は、不敵な笑みを浮かべている。




