第62話 魅了する第13ダンジョン
「でも、ザキさんのOKは貰ってるっすよ」
「はぁっ?」
俺の怒りと呆れが混ざった声が、漏れ出てしまう。ザキーサは古代竜であり、怒らせてはいけない存在。だが、ダンジョンで一緒に生活していると、もはやどうでも良くなってくる。
「ザキさん、ちょっと待て。何を企んでるんだ」
逃げようとしていたザキーサ呼び止めると、ザキーサはマリアナの方をチラッと見る。
「マリアナも共犯か……」
この会議には、ブランシュを呼んでいない。あくまでもダンジョン運営の裏方会議であって、それはブランシュの仕事ではない。
ブランシュの負荷を減らす為でもあり、ブランシュには裏方に影響を受けない自由な発想が必要だと、皆が珍しく口を揃えた。だから、こんな裏方の会議には呼ぶべきではないと! そのマリアナの意見を尊重したが、結果としてはダンジョンという存在を履き違えている。
「それで、どんな言い訳を聞かせてくれるんだ」
落ち度があることを認定する“言い訳”という言葉を敢えて選ぶが反論は出ない。
「レヴィンよ、そんなに怒ることではなかろう。ダンジョンを護る為には、何でもする覚悟が必要なのじゃ」
逃走を諦めたザキーサが戻ってきて、珍しくマリアナを擁護してくる。
「それが、なんでコンセプトカフェになるんだよ」
「いやな、いつの時代も人を駄目にするのは、酒・女・薬・ギャンブルと決まっておる。ただダンジョンに足止めさせるだけでは、これから先はジリ貧でしかない。中毒性がありつつ、冒険者達を魅了するダンジョンが必要なのじゃ」
「冒険者達を廃人にするつもりか?それに、冒険者は男ばかりじゃないぞ。女の勇者だって多いんだ。そうだよな、マリアナ!」
俺の言葉で、マリアナが手元の資料を隠したのが見える。恐らくは、イケメンの魔物をリストアップしていているに違いない。
シーマは、ヒケンの森の精霊がもたらす薬草から新たな薬物を作り出し、カシューは闘技場を経営しようとしている。もちろん、そこには魔物代表であるミショウもローゼも絡んでいる。
「駄目だ、聞くまでもない、全部却下だ!」
「そりゃないっすよ。セイレーン達だって盛り上がってるのに、今さら断るのは可哀想っす」
魔物にとって活躍の場があることは、嬉しいし誇らしいことでもある。土属性特化型となった第6ダンジョンでは、活躍の場を与えられなかった魔物も多い。
そして、マリクは魔物達からの嘆願書を出してくる。土属性偏重のダンジョンで、かつ地竜のミショウが登場したことで、活躍の場を失った魔物達の切なる願い。
「駄目だ、それは許さん!」
「お願いっす。皆、自分らしい仕事がしたいんっす。あんなイキイキした魔物の姿は見たことがないっすよ」
やろうとしている事は、ふざけているようにしか見えない。でも、マリクの目はいつになく真剣でもある。
「仕方ない、セイレーン達のことは分かった。でも、少しずつじゃないと絶対に駄目だ。ダンジョンの階層に連続性がなくなる。どうしてもやりたいなら、11階層以降にしろ」
コンセプトカフェも闘技場も、これまでの階層の全てがコンセプトに合わない。だが、誰でも活躍出来る場が欲しいのは、この世界の真理なのかもしれない。
「9階層は、引き続きヒケンの森エリアだ。責任は、しっかりと取ってもらう。なあ、マリアナ!」
マリクが1人で計画を立て、事前に関係各所に根回し、ましてやセイレーンやローレライ達を焚き付けれるわけがない。しかも、俺に全くバレずに、ここまで完璧にやりきるのは不可能。
「良いわよ。ダンジョンの1階層なんて、トレントやドライアド達には狭いくらいよ」
「でも、1つだけ条件がある。9階層は水路を張り巡らせ、マングローブ林にする。惑わすのは、森の精霊達だけじゃない。セイレーン達にもしっかりと手伝って貰う」
10階層までのダンジョンコンセプトは、滅びた文明都市の上に栄えた魅了の森。強い魔物は出現しないが、森の精霊やセイレーン達の誘惑は、冒険者達の行く手を阻む。、
腰痛の悪化により明日分投稿以降、しばらく休み・不定期投稿となります。30分座っていることも難しい……健康って大切ですね!




