第60話 ブランシュとダンジョンコア
「どうしたのレヴィン?難しい顔してるわよ」
書類の山が無くなり見えてきたブランシュの顔。明るい声のトーンとは違い、眉間にはシワが寄り目を細めているのは、間違いなく俺の顔を真似している。
「そんな顔はしてないだろ」
「鏡を見てご覧なさい。不機嫌さが前面に出てるわ。こっちは、足音だけでも分かるのよ。他にもまだまだ根拠はあるわ」
俺がブランシュの本心を見抜けると思う以上に、ブランシュは俺のことを見抜いている。些細な仕草や動きだけで俺の感情を察知し、昔から隠し事なんて出来たことがない。
「他にも、何があるんだよ?」
「それは秘密。私だけが知るトップシークレットね」
両手を上げ降参の意思表示を示し、さっさと本題に入る。どんな言い方や言い回しをしても、俺がブランシュに隠し事は出来ないのを改めて思い出させられる。
「ダンジョンコアは、熾天使の影響を受けて成長するのは知ってるよな」
「ええ、知ってるわ。ダンジョンを誕生させるのは熾天使の役目だもの」
「ブランシュは、ダンジョンに何を望むんだ。いや、何を願ったんだ」
もう、ダンジョンコアは急激な成長を始めて、それはブランシュが何かした証拠でもある。
「何もしてないわよ。レヴィンと一緒にコアを見たのが全て、それだけよ」
でもブランシュは意味深に笑うと、得意気に右腕を見せてくる。
「これ、イイでしょ。どう、似合ってる?」
熾天使は様々なアクセサリーを身に付け、自身を着飾るが、それは全ては身を護る為のマジックアイテム。しかし、ブランシュが身に付けているアクセサリーは少ない。
魔力増強する指輪や、結界を張るサークレット、傷を癒すイヤリング。でも、そのどれもが高価なものではなく、どの天使でも手に入れることが可能な安価なものばかり。今後ザキーサによって一新されるだろうが、ブランシュが好んで身に付けているもので、俺は口を出していない。
「似合ってるって、どれがだ?」
正直に言えば、ブランシュが身に付けているアクセサリーを詳しく覚えていない。だがそれ以上に、ブランシュが見せてくる右腕には何のアクセサリーも見えない。
「えっ、やっぱり覚えてないんだ……とは言わないわよ。覚えていて欲しいのもあるけど」
背中に冷たいものが流れるが、俺の痛いところは突かずに、ブランシュは見てと言わんばかり右腕を突き出してくる。そこには、薄っすらと浮かび上がるブレスレットが見えてくる。
赤や青と様々な色が混ざり合うマーブルカラーだが、次々と色が変わり模様を変えてゆく。そんな物を俺は1つしか知らない。
「それってダンジョンコア……じゃないのか?」
「そうよ。ダンジョンコア見た後に、気付いたらここに居たのよ」
迂闊に触れることが出来ないダンジョンコアが、ブランシュの腕に収まっている。ブレスレットからは警戒するように赤い光が放たれ、そこには強い殺気を感じる。
「駄目よ。レヴィンが大丈夫なのは分かってるでしょ」
「ちょっと待てよ。ダンジョンコアと会話出来るのか?」
「うーん、そうね。何となく気持ちは分かるって感じかしら。模様だったり光り方が変わると、何となく分かるのよ」
「お前もか?ブランシュに惹かれて、ついてきたって感じなんだろ」
俺の言葉で、ブレスレットは激しく明滅する。このダンジョンコアは分かりやすく動揺している。
「図星だな。これがダンジョンコアだなんて呆れるしかない」
出来るならダンジョンコアを最下層に強制送還し、結界を張り巡らせて監禁してやりたい。だが、俺達の力がダンジョンコアに通用する訳がないのは分かってる。
すると、今度はダンジョンコアが黄色く光始め、黄色く光るブレスレットが現れる。
「これって、もしかして……」
「そうよ、元第6ダンジョンのコアも連れてきたんだって」
「分かったよ。俺は何も言わないけど、この事は絶対にバレないでくれよ」
「大丈夫よ。私からキツく言い聞かせてあるから」
俺達の会話に安心したのか、ブランシュの腕のブレスレットは再び見えなくなってしまう。
「それで確認したいんだけど、ブランシュはダンジョンに何を望むんだ」
「そうね、刺激は求めないわ。皆が暮らせる温かいダンジョンであってくれれば嬉しいかな」
「何だよそれ。まあ、ブランシュらしくはあるけどな」




