第39話 閃きシステム
生命力ゲージの運用や、宝箱システムの稼働、それにカーリーの一騒動があった中でも、もう1つの計画がカシューの主導のもとで着々と進行している。
急速に成長するダンジョンには、もう7階層が出来始めている。そこで初めて、本格的に魔物達を解放する。ダンジョンなのだから魔物との戦いがなければ、冒険者にも魔物達にも緊張感が生まれない。それに、ただで魔物達を遊ばせている余裕はない。
「カシュー、順調に進んでいるか?」
「ああ、7階層からは順次稼働させるぞ」
カシューの号令で、甲冑姿の魔物達が一糸乱れぬ行動を見せる。甲冑や武器はダンジョンで失くなった冒険者達のもので、傷付いたものや破損したままのものも多い。それが遺跡っぽい第13ダンジョンの雰囲気とも良く合っている。
「確認しておくけど、武器や鎧で身元が割れることはないだろな」
「ああ、心配するな。俺たちも知らない時代の古いものばかりを探してきた。まず第6ダンジョンのものとバレることはない。もっと下層に行けば、こんなボロボロの装備じゃなく揃いのものが必要になるがな」
再びカシューが合図を出すと、魔物達の動きが変わる。
「もう、魔物の集団を出すのか。7階層で集団戦闘は少し早いんじゃないか?」
「違う、同じ動きをさせることで、力加減を覚えさせているんだ。コイツらは上層に居るレベルの魔物じゃないから、手加減を教えてやる必要がある」
カシューが手を上げると、魔物達の動きが止まる。
「シーマ、テストをするぞ。大丈夫だな」
「ああ、ボクは何時でもイイよ」
カシューが刀を振るう真似をすると、魔物の兜が弾き飛ばされる。そこから現れたのは、骸骨の姿の魔物。
「魔物の姿も幻影で誤魔化している。これなら第6ダンジョンの魔物とは分からない」
そして、もう一度刀を振るう真似をすると、魔物が消滅しドロップアイテムの剣が残される。
「これが、閃きの剣か」
「ああ、悪くないだろ」
俺達が目指しているのは、ダンジョンに魔物に解放することだけではなく、必殺技の閃きシステムを稼働させること。
戦いの中で、突然体が動き必殺技が出てしまう。勇者や聖剣スキル持ちでしか起こらなかったことを、一般冒険者でも可能にしようという壮大な計画。
勇者となれば、専属の黒子天使チームが組まれ、全てをサポートしている。簡単な必殺技や魔法でさえも、全て黒子天使が代行している。その為にも、戦闘チームの黒子天使は日夜鍛練に励む。
しかし、第13ダンジョンには専属勇者はいない。ブランシュに勇者や聖女の任命権限が無いのだから、少しでも多くの一般冒険者を育成する必要がある。だが、全ての冒険者に勇者のような黒子天使がつくことは不可能。
魔物と冒険者が戦い、魔物が傷付き倒される。そして消滅すると、ドロップアイテムを落とす。ダンジョンで当たり前となっていることは、全て黒子天使によって演出操作され、多くの人手が必要となっている。
閃きの剣を手にしたカシューが、剣の型を見せる。この剣を装備すれば、黒子天使が冒険者に憑依し動きを教える。
「まずは、連撃スキルを習得させる。次に一閃、貫通スキルってとこだな」
「あまり、やり過ぎるなよ」
「心配するな。肉体改造まではしないんだから、出来てもこの程度までだ」
しかし脳筋の黒子天使は、戦闘狂でやり過ぎる傾向が強く、その言葉は信用出来ない。
「大丈夫だよ、レヴィン。ボクの作った閃きの武器は、壊れやすくしてあるから。脳筋達が、やり過ぎれば簡単に武器が壊れる」
「良く言えたな。シーマこそ、冒険者の精神を崩壊させるんじゃないぞ。直接攻撃に関してはオレの責任だが、魔法は管轄外だからな」
今までにも経験してきたが、運用前に想像出来るトラブルは必ず起こる。イレギュラーや想定外が重なり、より大惨事に至る場合もある。そして、2人ともブランシュに成果を見せようと張り切り、確実に加減を間違えている。
後でザキさんに回復の泉がつくれないか相談するしかない。ブランシュの熾天使像を設置してもイイと言えば、きっとやってくれるはず。




