第33話 ダンジョンの演出
「今日も来てないか」
「白銀の翼っすか。今日も、来てないっすね」
毎日朝一で、第13ダンジョンに姿を見せていた白銀の翼は、しばらくダンジョンに姿を見せていない。
「もう1週間くらい経つのか?」
「いや、10日っすね。地上部隊に調べさせてみたけど、ヒケンの村にも居ないみたいっすよ」
俺の鑑定眼で把握出来る能力は、生命力や力に知性といった数値化しやすい能力ばかり。それ以外でもマリクには、突き抜けた優秀さはない。しかし、俺の無茶振りをそつなくこなし、さらにはフォローしてくる要領の良さがある。
「心配しなくても大丈夫じゃないっすか。ブランシュさんの言うことに間違いはないっすからね」
「ブランシュの発想を可能にしたのは、俺のアイデアだからな」
白銀の翼以外の冒険者達も、頭上に現れる青いゲージが生命力を表していると気付いてくれた。ただ、ガルグイユとの戦いになった途端、今まで無かった生命力のゲージが現れては不自然さがあり、少し強引過ぎる。どうやったら自然に受け入れさせるかが重要なポイントでもあった。
「いや、あれは認めたくはないけど、シーマの手柄っすね。絶対に、先輩には再現出来ないっすよ」
強引さを誤魔化すために俺が思い付いたのが、ブランシュの幻影が舞い天使の羽根を降らせる演出。その幻影をマジックアイテム化したのがシーマになる。
認めたくないがブランシュの美貌は、黒子天使だけでなく冒険者達も魅了している。ブランシュの幻影は本物と見間違えるほどに完成度が高く、幻想的な演出はレアコインの影響と相まって、このダンジョンの中に囚われている熾天使という噂が勝手に広まっている。
今は、それだけを見にガルグイユに挑みにくる冒険者も居るのだから、想定以上の効果が出ている。
「ガルグイユの調整の方は、上手くいってるのか?」
「ザキさんとカシューで打ち合わせて、上手くやってますよ。心配なら確認しますか?」
俺が話を逸らしつつ指摘したのは、ガルグイユの強さを加減すること。だが、一度ガルグイユの力を設定したのだから、簡単に変更は出来ない。それに簡単に倒されて竜鱗をドロップしてしまっては、他のダンジョンからクレームがつく。今までと変わらぬ殺傷能力を持ち驚異的な存在を維持しつつも、冒険者を殺さないように加減すること。そのさじ加減が、ダンジョン運営には一番難しい。
そして、モニターに映し出されるのは、録画された冒険者とガルグイユの戦闘シーン。
「これがパターン1っすね。ゲージの変化とガルグイユの動きに注目して下さい」
ガルグイユの生命力ゲージは、6割程が残されている。冒険者からの攻撃を受けるとゲージは半分までに減り、ゲージの色は緑から黄色へと変わる。すると攻撃的だったガルグイユは、とぐろを巻き防御姿勢をとる。
「これは、何をしてるんだ」
「特に意味はないっすよ。ガルグイユがブレスを吐くためのお知らせっすね」
その間にモニターの中の冒険者達は、防御魔法や回復魔法を唱え、ブレス攻撃に備えている。
「これがパターン2っす。これは単純で4回目の攻撃の後っす」
4回目の攻撃が終わると、ガルグイユは不気味な笑みを浮かべている。そして、身体を震わせると波動を放つ。冒険者達にかかったバフ効果が無効化されてゆくが、良く見れば4回目の攻撃が終わった時点で、冒険者達はバフ魔法の詠唱に入っている。
放たれた波動は、空気を震わす程度で殺傷能力はない。そして、冒険者達は波動が消えた瞬間にバフ魔法を発動し、同時に攻撃に転じる。
「どうっすか、これでバフ切れを起こすことは無くなりましたよ。他にも見ますか?まだまだ、ありますよ」
ガルグイユの強攻撃であるブレスを発動する前の溜めや、バフを無効化する前の嫌がらせの笑み。無駄な動作にも上手く意味付けし、冒険者達も疑問に感じていない。
「冒険者の死亡率は変わってるんだろうな?」
「生命力ゲージが認知されてからの死亡件数は3件だけっすね。ガルグイユの行動パターン決めをしてからは1件す。その1件は、戦闘中の脳梗塞の発症っすから、除外して大丈夫っす」
『報告します。白銀の翼が、ヒケンの森に現れました』




