第27話 ザキーサの彫刻
アイテムボックスから出てきた丸い塊は、ザキーサに操られて俺の目の前にやってくる。
「始まりのダンジョンを復活させたなら、これに見覚えがあるじゃろ」
「何でザキさんが、これを持ってるんだ?」
フワフワと宙を漂うのは、間違いなく古代の鉄貨。ただ、ダンジョンの中にあるものとは違い、保存状態は格段に良い。
「だから、ダンジョンに余が住んでおったと言っておろう。始まりのダンジョンのダンジョンマスター、サージ様の描かれた鉄貨。余の造った最高傑作の1つじゃ」
「ザキさんが、これを造ったのか」
「そうじゃ、まだまだ他にも色んな物が残っておったろ」
アイテムボックスからは次々と彫刻や調度品が出てくる。そのどれもが、ダンジョンの中にあった物と比べてもクオリティーが違う。
「古代竜だろ、ダンジョンで何してたんだよ」
「ふん、これなんかどうだ。お主の望みを叶えるじゃろう」
駄目押しで出てきたのは、竜の彫刻のガルグイユ。しかし、ただの彫刻で終わらない。ザキーサが息を吹き掛けると、ガルグイユの体が鈍色に光り出し、ゆっくりと動き始める。
「相談するまでもなく、お見通しみたいだな」
「余に隠し事は出来ん。これなら、竜鱗をドロップする魔物に持ってこい。何なら、戦ってみるか。ミショウよりも手強いかもしれんぞ」
ザキーサの言葉で、ガルグイユは俺とカシューを威嚇するように動き出す。敵意を剥き出しにした牙も、軽く振るう爪のどれをとっても偽りはない。そして、アイテムボックスからは次々とガルグイユを取り出し始める。
「どうした、早く片付けんと数が増えるぞ。それとも怖じ気づいたか?だがな、弱き者に始まりのダンジョンを守る資格はない」
「そんだけ言って弱ければ、キッチリと責任はとってもわうからな」
俺もカシューも腰に差した剣を引き抜く。カシューは聖剣を持つが、俺が持つのは魔剣と呼ばれる部類に属する。
魔力を糧として力を発揮する聖剣は、魔力をふんだんに使うことの出来る神々や熾天使が好んで使う。
一方の魔剣は、肉体と代償として力を発揮する。魔力に限りのある堕天使が使うことが多く、黒子天使であっても魔剣を使うことは忌み嫌われる。
剣士タイプのカシューは、生命の鼓動が産み出す魔力を聖剣に注ぎ込む。それに対して俺は、魔剣を使う。魔法を使うことも理由ではあるが、何故か俺は魔剣の方が愛称が良い。
そして、ガルグイユの確認することは1つ。強さの確認はもちろんだが、決定的な攻略の弱点があっては竜鱗をドロップする魔物としては相応しくない。聖剣に魔剣や魔法の攻撃と、一定以上の耐性を示す必要がある。
先の先タイプのカシューに対して、後の先タイプの俺。僅かなタイミングの違いはあるが、互いの剣がガルグイユの首筋に叩きつけられる。しかし、はね飛ばすことは出来ずに、衝撃が手に伝わってくる。
「レヴィン、こっちはかすり傷が付いた程度だ」
「ああっ、こっちも似たようなもんだ。ザキさんらしい嫌らしい相手だ」
今度はカシューは聖剣に炎を纏わせ、俺は右手に魔剣、左手に魔法で造った氷剣の二刀流。俺がガルグイユを氷漬けにして動きを止めると、今度はカシューの斬撃で炎に包む。
しかし、ガルグイユは何事も無かったかのように動き出す。
「カシュー、もう十分だ。ここまでにしておこう」
「どうした、レヴィン。ここからが本番だろ。久しぶりに全開だぞ」
黙って視線で合図を送ると、カシューもやっと気付いてくれる。視線の先にあるのは、ブランシュの恐い笑顔。ザキーサもブランシュの両腕から脱出しようと踠いているが、抜け出せないでいる。
「ヤバイのか、ヤバイんだよな……」
「ああ、あの笑みは相当怒っているな」
「ハロッ」
ブランシュの短く唱えた呪文で、ガルグイユが放つ鈍色の光は消え、元の彫刻へと戻ってゆく。
「さて、じっくりと説明してもらいましょうか。こんな危険なものを私のダンジョンに持持ち込んで何をするの?」
「いや、そのな、用意したのはザキさんで、俺達は試されただけなんだよな」
「でもね、レヴィンも何をしようとしてたか分かってるんでしょ」




