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夢の中の出来事⑨

裂け目の向こう側、青空のもと広がる向日葵畑を見つめていた。そしてついでにビルから下を覗き込む、すぐに身震いが起きた。


「これもあの要領かぁ・・・・・」


海と高い所ではまったくもって恐怖の種類が違う、暗く冷たい水の中の溺れるソレと真逆の落下するソレは違うモノだと身をもって理解できた。

行かなければ行けないと分かっていても忌避感を抱かずにはいられなかったけれど、心に勇気を抱いて歩くことを想像しつつ一歩を踏み出した。

踏み出した足は不思議なことに空中に確かな質感を感じ、それをたどるようにそのまま歩を進め始めた。


「・・・・・・・それにしても」


「口にしちゃだめだからね」


咎めるような鋭い声がすぐ前から聞こえてきた。


「・・・・・・・・いや、でも落ち」


その瞬間、ガクンッと重力に引っ張られた。あまりにいきなりだったので何の反応もできず、そのまま落下していくのかと思っていると。

アリサのおとうさん?!と焦るようなという声と同時に体が引っ張られる感覚がなくなった。


「まぁ、こんなことになると思って見守ってて正解だったよ」


「た、助かったぁ・・・・・・ありがとうアーシャ」


情けない声がでたのを恥ずかしく思いつつも、下を見るとその虚ろで無機質なエメラルドグリーンの瞳孔がこちらを見上げていた。どうやら下から支えてくれたらしい。


「今度は気を付けてよ?こんな些細なことで死んでもらっちゃ困るんだから」


「・・・・・・・・・・・些細な事」


「どうしたのかなマスター? もしかして傷ついた?」


「少しだけ・・・・・ね」


カン、カン、カン、という音とともにアリサが早歩きで向かってくる、その表情はどこか怒っているようにも呆れる表情にも見えた。


「おと・・・・・・希堂くん、大丈夫?」


何とか頷いて無事なことを伝えると一息つく。


「助けてもらったんだけど・・・・・・・あれ?」


礼を言おうと振り返るとそこには誰もいなかった。そのままついてくると思っていたアーシャの姿は影も形もなかった。


「い、いや。さっきまでそこにいたはず・・・アーシャ?」


「考えても無駄だし、合流しましょう」


アリサはいっさい気にする動作すら見せず裂け目に近づいて行くのを横目にし、その後姿に続いて行こうと一歩足を踏み出した。

その時、どこからかなんともいえない不愉快な感覚を感じ、振り返っても誰もいなく、そこに広がるのはどこまでも広がる青空と都市の風景のみだった。


「アーシャ・・・・・?」


呟いた声に帰ってくる言葉はなく、ただただ空に消えていった。


「何かあったの? 大丈夫?」


「いや、なにも」


「そう、じゃあさっさと越えよう」


裂け目に入っていくと、さっきまでの心地の良い風だったものが真逆の気だるさを感じるほど暑さが一瞬で襲ってきた。

探しに行くかと思って周りを見渡すと背後からガサガサとかき分ける音が聞こえてきた。


「あ・・・・・希堂くん」


ティアが憔悴した声とともに姿を現した。俺たちの姿を見た次の瞬間、膝から崩れ落ちた。


「だ、大丈夫?!」


よほど疲れているのか、ただただ首を縦に振り少し経った後。


「・・・・・・・・・み、水・・・・・・・な、ない?」


とりあえずペットボトルを頭の中で思い浮かべると、水の入ったペットボトルが手の中に現れていた。

それを差し出すと勢い良く手に取り水を飲み始め。


「た、助かったぁ」


「おかあさん、水の事とか考えなかったの?」


アリサが当たり前の疑問を口にすると。かすれた声で「ち、ちょっとまって・・・・」と一言だけ呟いて少し時間がたった後。


「全然、そういう事考える余裕なかったなぁ」


少しの間、空を見上げ。


「確かに今、振り返ってみると不思議というか不自然な感じ・・・・・・・・必要な事が必要と感じられなくなるというか」


そこまで言ったあと小声で何かを呟き、恥ずかしそうに微笑んだあとうつむいてしまったのでどんな表情をしているのかまでは分からなかった。


「・・・・・・・・・・・・」


必要なことと言われ、ふと周りに生えている身長大の満開の向日葵の群れを見上げる。そんなときいきなり何の兆候もなく暗闇の中に放り出された。


「いきなりすぎじゃないか?!」


「そっちは大丈夫?」


「だ、大丈夫だけど・・・・・・ティアは?」


「こちらも大丈夫です」


夢の中に入ってきたときみたいにばらばらにどこかに投げ出された感じではないようで、すぐ近くに姿が見えた。

それとほぼ同時に周りの景色がおぼろげに見えはじめ、徐々に鮮明になっていった。





そこは遺跡の中だった。

二人ともさっきとまるっきり違うその風景と苔むした石造りのタイルがどこか異質で怪しげな雰囲気が空気を漂い、何とも言えないじめじめとしていた。


「こ、ここは・・・・遺跡?」


そんな戸惑いながらもティアの警戒心が湧き出たような声が聞こえてきたので、声の方を振り向くと眉を寄せて拳を構えていた。

その一方、アリサはあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべ振り向くことなくずかずかと進んでいく。

そんな様子を二人で後ろから見ているとしばらく進んだところでこっちに振り返り。「どうしたの?」と言いたそうな表情でこちらを見ていたので、少し早歩きで追いつくと。


「聞きたいことあるでしょ?」


「・・・・・・聞いていい事かな」


「微妙なとこね・・・・・昔、終わったことをずっと引きずってるだけのただの情けない私怨だし」


私怨────その言葉が重く引っかかった。


「それって────」


続きを聞こうと口を開こうとすると、肩を叩かれたので振り返るとティアが、首を横に軽く振っていた。


「そんなことよりさっさと進まないと」


あ、あぁ・・・・。そんな風に返事することしかできなかった。


(前世に何かあったのは間違いない・・・・・気になるけど、きっと深堀したって意味はないんだろうな)


「どうしたの?」


「いや、気になっちゃって何があったのかなって」


前を歩くアリサの後姿からあまり後れを取らないように歩く。静寂の中ふとティアが口を開いた。私の友達がいってましたと前置きをし。


「だって所詮、前世だからと・・・・・・今更、気にしちゃいないんだよね~って感じでしたけど」


「まぁ、そうなるよね」


「ただ・・・・」


「ただ?」


「・・・・・・あの」


「どうしたの? 何かあった?」


ついてこないのを心配に思ったのか、遮るようにアリサの声が響いた。


「ちょっと待ってて!・・・・・・私も気になりますけど、前の事は本人が話したくなったらでいいと思う」


「もう終わってることだとはわかってるんだけど、何かもやもやするんだ」


「この事が終わったら、あとで少し話しましょう。ほらアリサも待ってますし」


頷くと二人で待ってるアリサのもとに急いで向かうと、思った以上に離れているところ。広場の入り口が見える所で待っていた。足をプランプランと揺らしながら。


「二人とも遅かったじゃないのよ。さぁアイツらが待ってるから急ぎましょう」


何も聞かないのかと疑問に感じながら、そのうしろをついていく。横からどんな表情をしているのかを見る勇気はなかったし。

急ぐと言っていたのもあり、待たせてしまったことにたいしてちょっとした罪悪感もあったけれど何よりもさっきの事もあるからというのもあった。


「聞いてほしいの?」


「気にならないのかなぁって思ってさ」


「想像つくもの。二人がどんなことを話していたのかぐらい」


でも、とこっちに振り向き。


「今は他にやらなきゃいけない事があるもの。さ、行きましょ」


「・・・・わかった」


聞きたい事はたくさんある。前世の事吹っ切れてないんじゃないかとか前世はどんな生活をしていたのか、どうしてその記憶を思い出せないのかとか興味が尽きないけど。ティアが言った通り、本人が言いたくなる時まで待つしかないようだった。


「それにしても本当に夢の中とは思えない程、現実味があるというか。向日葵畑にいた時も暑さがすごかったですし・・・・」


高い所にいた時の身のすくむ感覚もそれに伴う落下したときのリアルな感覚を思い出し身震いが起きた。


「まぁ、それもすぐに終わると思うからもう少しの我慢ね」


遺跡の中から見える紺色の空からは魚などの生き物が生きているような雰囲気は感じられなかった。海の底ならいざ知らず、夢の中なら生き物がいる気配を感じないのも当たり前なのかなと感じずにはいられなかった。


「・・・・・・流さんはどこに行ったんだろう」


コツンコツンと靴が石畳を踏みしめ歩いて行く中、いつ聞こうか迷っていたことを口にすると。そこでハッとしたかのようにティアがあっと声を上げた。


「あ、え、えっと・・・・・・暑さですっかり忘れてました」


すっかり忘れていたのか、少し挙動不審になりながらきょろきょろとしていた。そんなティアの様子とは真逆に。


「普通に夢を見てるだけかもしれないけど・・・・・・まさかね、わざわざそんなことまでする?いやでも────なんにせよ、アイツらに合えばわかる事ね」


もうすでに目星をつけているようで「急ぎましょう」と速足で歩きだしたのを俺とティアもそのあとを追いかけた。

しばらく歩いているとあの広場にたどり着き真ん中の高台に上っていくと徐々に会話が徐々に聞こえてきた。それと同時に何処か聞きなじみのある声と聞いたことのある声が楽しそうに会話をしてるのが分かってきた。


「アーシャさんの声・・・・ですよね?」


「・・・・・あの二人、一体どんな話を」


「さぁ、ね ろくでもない話じゃなければどっちでもかまわないけどね・・・・・・いや、でも聞くことなりそうだけど」


肩を落としながらそう呟き階段を上る事少し。広場にたどり着くとそこで話していた二人がこっちの存在に気が付いたのかこっちに振り向き。


「やっと来た」


「・・・・・・・何してんの?」


「こいつとちょっとしたお話をしてただけど、ほら ちゃっちゃとやって」


「ふん、お前に言われなくたって全員集めてきたみたいだから元よりやるつもりだったよ。さっきのこともあるしな」


こっちが話のことを聞こうとする前に彼は大きなため息をついた後、めんどくさそうにしながら話し始めた。困惑しているこっちの事なんて気にも留めずに。


「はい、おまえたちはこれからとてつもなく面倒なことに巻き込まれることになります」

「え、続きは・・・・?」


「ない」


「そ、それだけなんですか? もっと詳しい内容は・・・・」


「説明がめんどくさいし、事実だからいいだろ」


「神様って説明もできないのかしら?」


「くっ・・・・痛い所を!」


その口調はあからさまに辛辣と言った感じで言われた当人ビビっているようすだった。そして俺はついでに放たれた神様と言う言葉に 「あぁ、そういう感じなんだ」と納得し周りを見渡す。


「ま、まぁ? 正確に説明ぐらいできるし? な、舐められちゃ困るなぁ? いやだってわざわざ────」


「早く 説明 して ください」


すごくにこやかな表情から発せられた敬語は言い訳は良いから早くしろ…と雄弁に語り、その整った顔立ちの真顔から放たれる無言の圧力に・・・・・・奴は後ずさりをしていて、それをアーシャは笑顔で見ていた。


「解った、説明するから…そう真顔で見てくるな」


そう言うのはあっちの仕事だと思うんだがなぁ、とめんどくさそうな顔をした後静かに話し始めた。

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