深夜雑談
その日、寝る場所もなくどうするかと悩んでいたところ、「おねぇの部屋だったら空いてますけど」と言われたが、さすがに女性の部屋を借りるのもどうかと思い居間にあるソファーで寝ようと布を被っていたが眠れず、ボーっとしていた。
「眠れない・・・・」
それが雰囲気に慣れていないせいなのか、はたまたさっきの不気味なメールに何かを感じたせいなのかは解らなかった。
「?」
上半身を起こし周りを見渡したそんな時ふと、二つある部屋の手前の部屋から明かりが漏れているのが見えた。
「まだ起きてるのかな」
若干の恐怖を感じながら、今のままでも眠れそうにもないので仕方なく部屋に向かうとそこにはイヤフォンをつけ熱心にゲームをしている彼女の後姿が見えた。
近づき斜めからどんなゲームをやっているのか見るとFFPSに集中しているのかこちらに気づいていないようだった、仕方ないので終わるまで待たせてもらうことにした。
「はぁ・・・・」
しばらくすると終わったのか、溜息を吐いて机に倒れこんでいた。
「うーん。なんか最近調子悪いなぁ」
「おつかれさま」
肩にポンッと手を置くと。
「ぴゅいッ?!」
椅子から身を跳ね上げ、どこから出たか分からないよう声を出して驚いた、あとこちらに振り返った。
「・・・・な、何。だ、誰」
怯えたようにゆっくりとこちらを振り返って、しばらくこちらを無言で見ていた。
「何か言う事ありませんか?」
「ごめんなさい」
そのあと、コーヒーを入れてもらい居間でゆっくりすることになった。最初は何か食べないかと言われたけど、そんな気分でもなかったので遠慮させてもらった。
「ところでいつもこの時間まで?」
「まぁ、暇なんで」
透明なカップから見える彼女は上半身を机に倒れこみ休んでいるようだった。ここから見えるのは特徴的な黒と青色のツートンカラーの髪のみで表情は窺えなかった。
そんな静寂の時間がしばらく続き、そろそろ寝ようかと考えていた時。
「ねぇ、希堂さん」
そんな空気を断ち切るかのように。
「は、はい?」
「あれ。名前教えましたっけ・・・・」
「ちょっと気になって・・・・ね」
「なるほど」
「ところで希堂さんの事なんて呼べばいい?」
「別になんでも良いですよ。変な呼び方じゃなければ」
「じゃあ。貴公って呼んでいいかな」
「・・・・なんか死にゲーに出てきそうな呼び方だ」
「じゃあ、貴公子」
「却下で」
「えぇ・・・・・・・・じ、じゃあ何て呼べば」
「さん付けとかじゃダメなんですか」
「味気がないから、ヤダ」
そのまま少しの間考えていたようだけど、頭を抱えてうずくまり唸っていた。
「あぁ~~~~~」
「そんなに深く考えるような事でもないのに・・・普通でいいんじゃ?」
「ちょっと考えさせてもらうね・・・・!」
そう言い残し自分の部屋に入っていったのを見届け。
「俺は寝るか」
そうして毛布をかぶりソファーの上で瞼を閉じ、夜に似合わないお穏やかな温かさに包まれて静かに眠りに沈んでいった。
────その直後。
息苦しさを感じた。
まるで、水の中に沈んでいくような感覚に襲われた。
そして同時に冷水に突っ込まれたかのような寒さが襲ってきた。
抵抗しようにもどうしようもなく、手足をもがくように無我夢中に動かすが空を切るように意味をなさなかった。
眼を開けようにも開けられず、困惑と混乱でまともに頭動かない。
(・・・・・?!)
考えられるとしてもその程度で状況がいい方向に変わるわけでもない。
「ちょっとは落ち着いたらどう?」
そんな半ばパニック状態な時にどこからか声が聞こえてきた。
「まぁ、息ができないとかなんでこんなことになっているのか分からないとか聞きたい事があるのは分かるけどね」
「・・・・・・・・・・!!」
(あぁ、わかるわかるよ。
喋れないんでしょ、そりゃこんな状態じゃそう思い込んでもしょうがないよね)
この声はアーシャの声だが言っている事が理解できない、そんな思い込みぐらいでどうにかなる事なのか。って言うかどこから喋ってるんだと何とか落ち着いてきた脳で考えた。
(思い込みで溺死しそうならそれを上書きすればいいだけだ、やらないとここで終わっちゃうよ)
煽るように急かしてくるのでどうにでもなれと半ば自暴自棄になりつつそう思い込むことにした。苦しくないと。
どうしようもない冷たさが。
肺に水が入る感覚が苦しさが。
身体が濡れて重くなっていく感覚が。
本来だったら思い込んだくらいでは何も解決しないはずのそれら全てが思い込んでいくうちに徐々に和らぎ消えていくのが感覚で分かった。
それと同時に息が出来るようになってきたので息を整えていると周りの状況が何となく理解できるようになってきた。
そこはやっぱりというか海の中で、下を見れば真っ暗な闇が底を支配していた。
「泳げないはずなのに」
どちらかというと泳ぐというより飛んでいるという不思議な感覚で、遊び感覚で水中のあちらこちらを飛んでいるという独特で不思議な感覚で、泳げないはずの俺が先が見えない水の中を飛びつづける事に気悲観を感じなかった。
(水の中ってこんな感じだっけ・・・・)
浮かぼうにも上も下もどこまでも水しかなく、生き物のいる雰囲気すら感じさせなかった。
夢だからと言われればそういう事もあると理解できるだろうけど、それでも不自然というしかないほどに動いている感覚を、生きているという感覚を感じなかった。
「もう満足した?」
そんな時。ようやくアーシャの声が聞こえてきた事に安心感が沸いてきた。
「こんな事なんて初めてだからつい・・・・・・・・そんなことよりもなんでこんな事に」
「・・・・さぁね。まぁでも今回はどうせ大したことは起きないよ」
「ふぅん、そういうもんか」
その時、凄まじい水圧が一瞬だけ襲ってきた。
「な、なんだ!?」
「マスター気にしなくても大丈夫だよ」
悪い笑みを浮かべながら何かを煽り挑発するような口調で静かにそこを見ているようだった。
「・・・・・本当に大丈夫なのかな」
「もう心配性だなぁ。なら下まで見に行ってみる?」
「え、遠慮します」
そんなお誘いに興味を釣られつつも、深海の底なしの暗さに恐怖を覚えた。
「そう? 興味を持ってみるのもいいと思うけど」
「怖いじゃんか」
「素直だなぁ。まぁ、でもどうせ大したものなんてないんだよねぇ」
「夢の中にそんなものあるのか」
「そういうもんだよ」
アーカーシャの名前を持つ元神様は夢の中でまた意味の分からないことを言っていた。やはり元とはいえ神様だから視点が違うのか、なんてことを思わせられた。
「それに時間もないから、どっちにしても無理か」
「?」
何かを見てほしいのか海面を指さしているので、上を見ると海面が近づき徐々に光が強くなってきていた。
「マスターなら忘れることはないだろうから今のうちにひとつだけ言っておくよ。彼女の事をちゃんと見ておくんだ」
返事をする間もなく、浮上する感覚に包まれ光に呑まれて行き────。
朝陽のまぶしさで目が覚めた。




