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傭兵と琥珀姫  作者: 大石次郎


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9/14

荊とパンチの魔女

オイソンを出たのが遅かったこともあり、俺達3人は街道沿いの近くの祓い所(はらいしょ)で1泊した。

魔除けと簡素な炉とトイレがあるだけの祓い所だった。

メイニーがメガホンで語る、出身のアバ閥という武闘派の閥に耐えられず出奔(しゅっぽん)してからの60年あまりの流浪生活の苦労話を俺は親身に聞いたが、ディッカは混ぜっ返してばかりでしまいにちょっとメイニーと口喧嘩になりかけたりしていた・・。

翌日の夕方、俺達は街道を進み脇に逸れた丘陵の先の丘の陰の草地に来た。


「ああ、これっぽいね。まだ魔除け利いてるじゃん? ふっふっふっ」


そこには草に埋もれ、土に還り掛けたいくつかの小屋等があった。同じく土に還りそうな魔除けの石像が周囲にいくつか置かれている。

立ち止まっていると馬達が煙くて嫌がるので、俺達は火消し蓋を捻って香炉の魔除けの香を消し、馬を降り、適当な場所がなかったので俺がウワバミのポーチから出した手槍3本を地面に刺して取り敢えず馬達を繋いだ。


「オイソンのハーフエルフ達の言った通りだな。フェザーフット族の野営地跡・・直せるのか? この間のタルゴイエの家程の魔力は無いようだぜ」


俺もだいぶ魔法の感度が高くなった。中級魔法のサンダーボルト使えるしな! 誰か魔法使いの補助は必要だがっ。


「次の郷にフェザーフット族のコミニティーがあるから、補修すればギャラが発生する! 今回は素材使っちゃうよっ。あと、見習いのささやきも参加っ!」


「・・私、見習いですか?」


すっかりメガホン会話に慣れてきてるメイニー。うーん、どうなんだろ?

とにかく姫号のディッカとメイニーは地面に、草や木の触媒(しょくばい)グリーンジェム、土や石の触媒ブラウンジェム、金属の触媒グレイジェム、水の触媒ブルージェム、火の触媒レッドジェムを置いた。

2人で杖を地面に差し向け、魔方陣を構成する。


「リビルドっ!」


「・・ルド」


メガホンがないと声が小さいメイニーだったが2人は声を揃え、触媒を消費しながら復元魔方を発動させた。


「おおっ?」


いずれも童話みたいな小さな家屋だったが、草と土が取り除かれ、建物が再構成され始め、潰れた井戸から水が噴き出し、火を提供する設備もあるらしく、建物の1つから火の粉が上がった。

最終的に母屋、物置、作業場、風呂場、トイレ、馬場、屋根付き井戸、塀、そして周囲のそこそこなら広さの柵付きの放牧場が復元された。


「規模自体は結構あるな!」


「昔はここがこの辺りのフェザーフット族の春営地(しゅんえいち)だったっぽいしね」


「・・また遊牧するんでしょうか?」


メガホンで何気なく言うメイニー。


「遊牧は一度廃れるとすぐまた、ってワケにもいかないんじゃない? せいぜい農場でしょ。今ならギリ、ゴブリン対策の軍の野外小拠点として売れるかもだけど」


「中、見ようぜっ。また地下に人形あるかもしれないぞ?」


「いや、ダイスケ無いよ・・そんなどこにでも人形師(にんぎょうし)いないし」


小柄なフェザーフット族の物らしく、小さい家屋を俺達は一通り見てみたが、特にドールゴーレム等はなかった。

魔除け以外の魔法道具はかなり旧式の魔法式ストーブと持久蝋燭(じきゅうろうそく)を使ったカンテラがあちこち掛かってたくらいだった。

地下室もあるにはあったが、すっかり酢に変わった酒や復元に失敗していた保存食や医薬品類が見付かってゲンナリさせられただけだった。

特にお宝は無し。強いて言えば持久走蝋燭や魔法式ストーブの燃料のヒートストーンのストックと、サイズの小さい最低限度の武器の蓄え程度。

ディッカは武器に関しちゃ「使える使える」とゴッソリ収納魔法でしまい込んでいたが・・


「折角作業場があるし、明日、今ある材料であたしの身体を補修しよう! ささやきも手伝ってよね?」


「・・ささやきはもう勘弁して下さい。メイニーです」


メガホンで抗議するメイニー。


「あたしのことは琥珀姫でいいよっ!」


「え~・・」


わりに合わないって顔のメイニー。まぁな。


「日も暮れたし、風呂と飯だ! 湯は魔法かなんかですぐ沸かせるだろ?」


俺は切り出した。風呂、入りたいんだ。


「ダイスケ、魔女が2人もいるんだよ?」


「・・です」


実際、風呂はすぐ沸かされた。

先にメイニーに入ってもらい、続いて俺が入ると風呂場はなんだかいい匂いがした。メイニーの香水か、香り石鹸や髪油だな。


「ほほう」


ニンマリしていると、


「いやらしいねっ、ムッツリ!」


風呂の壁から霊体のディッカが上半身をニョキっと出していた。


「どぉあっ? どっちがだよ! 出てけっ!」


「劣情を探知したから偵察しにきたわっ」


「探知するな! なんの偵察だっ」


「ささやきへの過剰な接近は不許可よっ!」


「接近してないっ!!」


「君の雇い主はあたしっ!」


「あーっ、はいはいっ、そうだよ!」


俺は両手に魔力を込めて霊体ディッカを風呂場から追い出した。


「ったく、なんの許可だよ」


俺は浴槽の広さはそこそこだが、子供用? というくらい浅い浴槽の深さに困惑しつつ、さっさと風呂を済ませた。



夜が明け、馬小屋の様子を見てから俺とメイニーは身支度を整えた。

朝食は俺とメイニーは堅パンとスープとドライフルーツとチーズとハーブティ。ディッカも姫号に入ってハーブティだけは飲んでいた。

ディッカの琥珀の身体の補修はその後、行うことになった。

作業場をざっと片付け、姫号のディッカとメイニーが床に魔方陣を描き、あまり状態の良くないユニコーンの角とユニコーンの鬣2房、霊木の琥珀370グラム。あとは補助用に宙に浮かせたエリクサー液1リットル、魔法石の欠片20個、土のブラウンジェム3個と木のグリーンジェム3個を配置する。

最後に収納魔法で腹にスイカ並みの穴の空いた自分の琥珀像を取り出し、陣の中央に置くディッカ。


「・・凄く強い魔法で変化させられたんですね。よくこの中から出られましたね」


メガホンを手に感心するメイニー。


「無敵! 最強だからっ! ふんっ」


姫号の身体で力こぶを作るポーズを取って見せるディッカ。人形だから力こぶできてないけどな。


「いきなり爆発しないように気を付けろよ?」


俺は例によって端に置いた椅子に座って観戦モードだ。


「任せなさいっ!」


「・・任せて下さい」


2人は頷き合い、杖を掲げた。

陣が発光し、並べられた対価物(たいかぶつ)が消費される中、ディッカの琥珀像も輝き、腹の穴が小さくなってゆく!


「おおっ!」


全ての対価物を消費し、光が収まると琥珀像の穴はスイカサイズからメロンサイズに縮小し、琥珀像自体が魔力に溢れてうっすらと輝きを保っていた。


「・・なん・・ま・・ね」


汗を拭いつつメガホンを忘れているメイニー。


「とうっ!」


不意に姫号から宙に飛び出す霊体のディッカ。なんだ? ちょっと前より姿が濃くなった気もするが・・


「ん~・・ていっ!」


宙で身を縮め、一息で身体を伸ばすと周囲の虚空から大量の荊を放って作業場全体を埋め尽くすディッカ!


「おいっ? ディッカ??」


「わぁっ??」


「ふっふっふっ・・だいぶ力が戻ってきたわ」


大量の荊の向こうで宙に浮きながらほくそ笑むディッカ。なんらかの悪の組織の幹部感あるな。


「ディッカ」


「はいはい、ホイっ!」


荊を吸い寄せて全て消してしまうディッカ。その流れでだいぶ修復された琥珀像も収納魔法で虚空にしまい込んだ。


「あたしは今日は今のあたしのパワーに対応できるようにここで人形3体の調整をするわ。2人は・・そうだね」


ディッカはマグネットタクトを振るって虚空から雷触媒のイエロージェムを30個くらい? 取り出して俺に渡してきた。


「なんだなんだ?」


「ダイスケはイエロージェムを使えば1人でもサンダーボルト撃てるように練習して。それ1個1万ゼムくらいするから慎重にね!」


「え~? 1人でかぁ?」


マジか??


「ささやきは・・あんた声小っちゃ過ぎてややこしいから、発声練習でもしてな」


「えーっ?! 発声練習って・・どうすれば?」


メガホンで聞くメイニー。


「あんたアバ閥でしょ? あれでいいんじゃないの? アバ閥突撃の歌、あれ歌ってなさいな」


「え~・・」


困惑するメイニー。突撃の歌?



というワケで外に出た俺と霊体のディッカは大照れしているが歌う構えのメイニーを前で歌い出すのを待っていた。


「・・1人で練習するからっ、2人は聞かなくていいですっ!」


メガホンで抗議するメイニー。


「会話は1人でしないでしょ? それにアバ閥のあの歌、あたし結構好きなんだわ」


「よく知らないけど、頑張りなよ、メイニー」


「うう~っ」


「メガホン禁止だよっ!」


渋々メガホンを下ろし、逡巡(しゅんじゅん)の後、メイニーはアバ閥突撃の歌を歌い出した。



アバっ! アババっ! アバ! アバ!!


突撃! 突貫!! 突入!!!


欲しいな褒賞っ!!


肉食べろっ! 野菜は捨てろっ!! ヤーッ!!


アバっ! アババっ! アバ! アバ!!


戦乙女(いくさおとめ)! 戦乙女!! 戦乙女!!!


寄越せよ褒賞っ!!!


ヤーッッ!!!!



・・蚊の鳴くような声で歌い切るメイニー。


「ブハハハッ!! やっぱ最高だわっ!」


「癖強いなアバ閥・・」


「あとは1人で練習しますっ!」


ほぼ半泣きでメガホンで言われ、俺とディッカは退散することにした。


「さてと」


俺は柵と魔除けと餌場と水飲み場だけある放牧場に来た。練習用にディッカとメイニーが電撃耐性の持たせたカカシを3体作ってくれていた。


「・・確かにイエロージェムを使えば1人でも撃てそうだが、30個しかないからな。まずは3割の力でジェム使わずにやってみるか・・サンダーボルトっ!」


果たして弱い出力で発動させた雷魔法は発動はしたが、上手くコントロールできず3体のカカシとその周囲にバラバラに電撃が落ちる形になった。


「あらー? 範囲攻撃みたいになったけど、ロクに狙いつかないな」


俺は自腹の魔法石の欠片を1つ消費して魔力を回復させつつ、まだ持ってる結局買い取ったサンダーボルトの魔法書を開いて魔法式を確認した。しかし、


「げっ? 読み辛っ! ええ? 俺、1回読んだよな??」


魔法書はメイニーの補助で無理矢理1度読み込んでいなかったら全く読めないくらい難解だった。

俺は練習以前に魔法書を読み直すのに四苦八苦する所から始めるハメになった。・・トホホ。



日が暮れるまでそれぞれの訓練や作業し、日が昇って支度が済むと俺達は、魔除けの香を焚きながらフェザーフット族の春営地を出た。


「見て見てこの運動性っ!」


ディッカは姫号の身体の腕先を妙に素早く細かく動かしてみせた。


「人形の中に荊を軽く這わせしてんのよっ! その骨組みでより有機的にっ! 力強く素早く高精度で動くわけっ。パンチ力も上がったよ?!」


「パンチの魔女だもんな」


「荊だよっ! ちょーいっ!!」


「・・・」


朝一でテンション高いなぁ。


「俺、昨日は1日魔法の練習をして普段使わない脳ミソ使ってまだ疲れが取れないんだよ・・」


「わたし・・1日・・歌・・疲れ・・ます」


ポソポソと白馬の上で話すメイニー。


「お? メガホン無しでもなんとなく話わかるようになってきてるじゃん? もうメガホンいらないでしょ? 返しなよ」


「ダメっ!」


結構大きな声で拒否して首から紐で吊るしているメガホンを死守するメイニー。ちょっと上手く話せる御守りみたいになってんな。


「取り上げなくてもいいだろ?」


「ふふん、ささやき、歌の方もどれくらい上達したか聞かせてよ?」


「嫌っ!」


短い言葉なら大きい声出せるようになってる感じだ。

ディッカとメイニーが聞かせろ、嫌だ、と馬上で問答しながら、俺達は一番近い次の郷へ向かう為、まず街道を目指して丘陵を抜けていった。

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