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傭兵と琥珀姫  作者: 大石次郎


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3人旅

ハサミの魔女と庭石の魔女は取り敢えず石化して、オイソンの衛兵隊詰所の魔法兵の管理する牢に封印された。

怪盗ささやき、ことメイニー・スターブルームの方はオイソンの冒険者ギルドの対魔法牢に入れられた。

ハサミと庭石の魔女の属するモードォア閥とはオイソンの街の民会(みんかい)や貴族会等の統治者達が交渉中だ。

俺と無傷な豆号に入ったディッカはメイニーの牢の前で被害者の手の者が私刑をカマしてこないように見張っていた。

発達したオイソンには弁護人制度もあるにはあったが、商事や行政関連や小競り合い程度の案件以外はちょっと範囲外な上に、法の外にいる魔女達となるとお手上げだった。


「というか琥珀姫、どこまでわかって俺を魔法書店に送り込んだんだよ? メイニーがお人好しじゃなかったら、俺、何回か死んでたぞ?」


俺はハルベルトを手に真面目に見張っていたが、ディッカはこの場にいるだけで、姫号の修理にほぼ専念していた。

街の連中には、身体の損傷が激しいので一時的に豆号に意識を飛ばしている、と微妙にボカした説明をしていたがボロが出る前にさっさと直しちまうつもりのようだ。

ダメージを受けたら他の個体に意識を移せる人形とか、冷静に考えたら怖過ぎるしな・・


「男爵家の件であたしの読み筋で大体イケると思ったから、オイソンで魔法関連の商売をしていて、あまり目立たず、若く、オッパイが大きく、声が小さく、中流層が出入りする範囲で働いてる出自がハッキリしない女、っていう条件で改めて捜査陣にこれまでの資料の洗い出しをしてもらったんだよ」


ディッカはマグネットタクトで余剰らしいネジを1本浮かせると、怪我は治ったが牢の中でヒビ割れ眼鏡でションボリ膝を抱えているメイニーに投げ付けた。


「痛っ、や・・さい」


結局、声小さいメイニー。


「やめれ、って」


「ふんっ。まぁ、特定はできたけど、明らかに黒幕が最低でも2人はいる。店にいるとこをつついてテレポートさせて、店の外とか屋根にあたしや魔法使い達が待機してガッツリ観測しよう、って企んだワケ」


「あの場にいたのか?!」


不覚っ。余暇のつもりとはいえ全然わからなかった。


「ダイスケは野生動物並みに感がいいし、ささやきも手練れだからあれこれ魔法や魔法道具を駆使したよ。まぁそれも黒幕達がまだ仕事じゃないからって使い魔を寄越すのを怠ってくれてたからどうにかなったんだけど」


「使い魔が来てたら?」


「その時点では使い魔がいることは確定してなかったけど、他の魔女を使役する魔女だから寄越しても不自然じゃない。だから、そっちの探知も張ってたよ? ささやきの代わりに使い魔の観測をしても別に構わないしね」


「周到だな・・」


魔女より魔法探偵とか始めたらいいんじゃないか?


「まぁ、まさかほんとにダイスケがささやきと一緒にテレポートするとは思わなかったから焦ったけど、首飾りの反応は正常だったから、ささやき、これはカモいヤツだな、と」


「おいっ?」


「・・どい・・す」


「ちょっと話、待ってね」


ディッカは無詠唱で収納魔法を使い、虚空から木製のメガホンを取り出し、格子の隙間からメイニーに投げ渡した。


「別に魔法道具じゃないから対魔法牢でも使えるでしょ? イライラするからっ」


「・・私、カモじゃないですっ!」


「はんっ」


メガホンで精一杯反論してきたメイニーを鼻で笑って済ます豆号のディッカ。ヒドいっ。


「あとはまぁ流れでドォンっ! よ」


「シメの方になると急に雑い・・」


やっぱ探偵は向いてないな、辻斬りだよ。


「ささやき。あんた、モードォア閥には入ってないんだよね?」


「・・はい。7位の小間使いにしてやる、って言われたけど、嫌で・・・」


「ならいいわ。閥に入っちゃってるとややこしくなったりするから。はい、応急処置完成っ! あの漬け物石っ、手間掛けさせて! ・・とうっ」


ディッカは豆号から抜け、それなりには組み上がった姫号の中に移った。

姫号として起き上がり直し、身体を確認するディッカ。


「モードォア閥ってのはどんな閥なんだ?」


「癖のある美術品とか集める魔女閥って結構多いんだけど、その1つね。特に画を集める閥だけど、そういう閥も他にいくつかあるからちょっと特定難しかったわ。モードォアの塔ってかなり遠いし」


「・・オイソンに比較的近い所に、彼女達の隠し転送門(てんそうもん)があるみたいです」


「へぇ? ブッ壊しとく?」


「ええっ?」


「なんでだ、抗争しようとするなよっ」


「ふふん、まぁあとはモードォア閥次第ね」


言いながら、姫号のディッカは豆号を収納魔法で虚空にしまった。



翌日、あるにはあったが値段が高いのであまり使われていないオイソンの転送門にモードォア閥からの使いが現れた。

やたら裾の長い二重のマントを浮かせた魔女だった。ミルッカに匹敵する魔力を感じた。覆面をした魔女を4人連れ、肩に使い魔らしい小猿を乗せていた。


外套(がいとう)の魔女ですっ! 3位ですっ」


メガホンを使っているから逆に声が大き過ぎることに気付いてないメイニー・・。魔法封じの手錠を掛けられていた。

外套の魔女を迎えたこっちは俺と姫号のディッカの他に衛兵達と冒険者ギルドの選抜。それから今にも帰りたそうな民会や貴族会の治安判事(ちあんはんじ)と郎等。オイソン教会の司祭長なんかも来ていた。

石化しているハサミと庭石の魔女も封印の鎖まで巻かれて引き立てられてきていた。

外套の魔女は大声のメイニーに軽く眉を潜めたが、口を開いた。


「いかにも外套の魔女だ。・・今回の騒動は閥が特に指示した物ではない。賠償はアジトにあったであろう品々と、2人の資産から1億ゼムずつ払ってやろう」


「いやっ、水晶通信(すいしょうつうしん)でもなんども言いましたが、それでは被害額や対策費用の総額に4億ゼムは足りないですよ?」


民会の代表が冷や汗をかきながらいった。オイソンの商人ギルドの代表でもある。


「交渉には応じない。2人は残りの資産を全て奪い、6位の魔女に降格させる。それ以上の対応は無い」


外套の魔女は一方的に言って、杖を振るって、石化した庭石とハサミな魔女を浮き上がらせ、引き寄せだした。が、


「サイコキネシス!」


姫号のディッカが杖を振るって念力魔法でこれを止めたっ。


「ディ・・琥珀姫?」


「怪盗ささやきに仕立てられて強めの扱いをされてたメイニー・スターブルームに謝らないの?」


取り巻きの覆面の魔女達が色めき立ったが、外套の魔女は杖を持たない方の手を上げてそれを制した。


「・・脅迫や折檻は遺憾だった。その割れ眼鏡には賠償1億ゼムと、放免を認める」


外套の魔女はそう言った瞬間に外套を閃かせ、メイニーの魔法封じの手錠をバラバラに切断した。


「あっ」


「ちょっと待てっ、勝手に放免を認め、ぶはっ?!」


まだ首に固定具を付けてる衛兵隊長が言い終わらない内に外套から取り出した金貨の袋を投げ付ける魔女。

袋の口がほどけ、溢れた金貨を衛兵隊長と衛兵達は慌てて拾いだした。

メイニーにも半分程度の大きさの袋を投げ渡す外套の魔女。メイニーは眼鏡が割れていても、ささやきなので器用にこれを金貨を溢さず受け取った。


「・・あの」


メガホンで衛兵隊長に話し掛けて歩み寄り、金貨の袋を差し出すメイニー。


「これ、不足分の足しに。残りも私が60年くらいあちこちの街で働いた資産で立て替えます」


「お、おお・・え~と」


民会代表や貴族会の代表、司祭長やオイソンのギルドマスターを振り返る衛兵隊長。

民会代表は何度も頷き、治安判事は知らん顔をし、司祭長は苦笑し、ギルドマスターは肩を竦めた。


「これは、預かっておく! 詳しくは・・民会の方で処理するといいっ、だが!」


衛兵隊長は毅然と立ち上がった。


「ささやき! お前が今後も市井に紛れて暮らすことはオイソン衛兵隊として容認しかねるっ。法の形骸化だっ! 治安判事も容認しないっ。ですね?!」


「ん? ああ、まぁ・・支払い等が済み次第、旅にでも出られるとよろしかろう」


あくまで正式な判決ではない、という立場らしい。


「茶番に付き合ってはいられない」


念力の押し合いを外套で直に2人の魔女の石像を覆って取り込んでしまうことで切り上げる外套の魔女!


「ズルいぞっ?」


「・・人形。お前、魔女だな? なぜ身体を持たない?」


「違ウヨ? 僕ハどーるごーれむ。御主人様ノ命デ素材ノ買イ付ケノ旅ヲシテルンダヨ?」


急に片言になるディッカ。


「くだらん」


背を向ける外套の魔女、配下の4人の覆面の魔女達は再転送の準備に入った。


「というかさっ、なんでハサミと庭石はこんな露骨な真似を急に始めたんだよ?」


口調を戻す姫号のディッカ。


「なんのことはない。評価に値しない4位の魔女が増え過ぎたから、期日までに相応の単価の画でギャラリーを作って評価を得ろと上から指示が出た。2人は元々評価が低く、他の4位との収集の競り合いに負け手段を選べなくなった、といったところだろう。雑魚が雑魚らしく無用な足掻き方をして落伍しただけのこと・・ではな、人形」


外套の魔女達は再転送され、消えてしまった。


「・・落着、ってことでいいんだよな?」


俺は姫号のディッカに話し掛ける体で言い、一同、安堵したような、割に合わないような、気の抜けた空気にはなった。



翌日の夕方、街を出た俺達が振り返ると、城壁のずっと向こうのオイソンの広場から煙が登っているのが見えた。

怪盗ささやき似せて作った人形が火炙りの刑で公開処刑された体で表向きには解決となった。

公的にも追放されたことにする案も無いではなかったが、真似た義賊やただの強盗団がチラホラ街で出だしていたので、見せしめということになったようだ。

強権的と新聞に叩かれた治安判事は多めに手当てをもらい、親類の副判事に治安判事の座を譲って田舎の荘園に愛人と引っ込むことにもなったようだが・・


「あんた、これからどうすんの? なんとなくついて来ちゃってるけど?」


銀毛種の騾馬に乗った姫号のディッカが聞くと、白馬に乗った旅装のメイニーはメガホンで答えた。


「・・事情は大体聞きました。私も都会のリラに行ってみたいので、同行させてください。高名な(いばら)の魔女! ディッカ・ルーンフォレストと御一緒できるのは、光栄です」


荊の魔女? ディッカは荊の摂理から産まれたのか? パンチの摂理とか、幽霊の摂理、じゃないんだ・・


「調子いいこと言って! ウチの護衛兼御用聞きのこと狙ってないでしょうねっ?!」


「狙ってませんっ!」


赤面している眼鏡も直ったメイニー。おお?


「・・このオッパイ眼鏡っ、いよいよエルバエン閥と抗争になったら、どさくさ紛れで密かに盾にして無きものとしてくれるわっ!」


「酷いですっ」


「ディッカ、心の声が漏れてるぞ・・」


不穏な気配をはらみつつ、俺達は夕陽のオイソンから離れていった。

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