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傭兵と琥珀姫  作者: 大石次郎


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4/14

爆脚っ!

「ケンタウロスレースで1発当てようと思うんだわ」


「ん?」


俺達は暗森からリラ方面に街道を進んで1番近い郷、ミナコオコリンヌに来ていた。

残念ながらユニコーンの角は買えなかったが、一応使えるというユニコーンの(たてがみ)を1房購入し、霊木の琥珀も10グラムだけ変えた。

ディッカが元々ねぐらに蓄えていた霊木の琥珀は100グラム。ハーフエルフの隠れ里で買えた霊木の琥珀が180グラム。合わせて290グラムだ。3キロまでは遠い。

ともかく取り引きを終え、なんてことない郷のダイナーで昼食を食べていた。ドールゴーレムに入ってるディッカも固形物はダメだが飲料はいけるらしく、麦の茎のストローでバタービールを飲んでいた。

俺は無難にオムレツ定食を頼んだ。調味料は塩、唐辛子、胡椒、ローリエのみ。素朴な田舎料理だった。


「ケンタウロスレースで1発当てようと思うんだわ」


「2回言ったね」


「大事なことだよ!」


俺はナイフとフォークを置いた。

この郷からかなり西になるが、走破しやすい平坦な一直線上に騎馬人(ケンタウロス)族の集落があってレース走者としてこの郷に出稼ぎに来ているようではあった。


「・・理由を聞こうか?」


「暗森で集めた素材や加工品の売値は思ったより渋いのと、霊木の琥珀の相場が想定よりキツい。あとこの人形の身体の維持費が結構掛かるみたい」


「報酬の残金2000万ゼムはまけないぞ?」


「そこは取ってあるからっ! ただあと1200万ゼムは余裕がほしいんだ」


「1桁間違ってないか?」


「しょうがないじゃんっ!」


開き直ったぞ?


「1つの郷での稼ぎには限度があるだろうし、まだ冒険者ギルドに登録もしてないが、いくつかの郷で少し余計に滞在してトラブルシュートなり君の錬成の技なりで稼いでいった方が固いと思うが?」


「そんなまだるっこしいっ! ここのケンタウロスレースは名物らしいよっ? 1発当てよう! ダイスケっ」


「・・・」


参った。予感はあったが思ったよりポンコツだぞ、この霊体魔女っ!


「俺は反対。ギャンブルですってんてんになるヤツにはある種の特徴がある。ディッカ、君のことだ」


「なんだよぉ! ・・くっそぉ、どうにかしてダイスケを言いくるめてレース場に同伴させなくてはっっ、情に訴えてみるかっ?」


人形なりに悪い顔をするディッカ。


「ディッカ、思ってることが全部口に出てるぞ?」


「ハッ? ちょっとさぁっ。出所開けの受刑者みたいなもんだから勘弁して!」


「色々語弊があるっ。色んなところから怒られるんだからな?」


「あたしだけだと警備の人とか郷の自警団とかに捕まっちゃいそうなんだよっ。付いてきてよっ!」


動いて喋るマネキンだしな。夜道で遭ったら恐怖しかない。


「ダメだ。金策には協力するが」


「これならどうだぁっ!」


人形のディッカはテーブルに何か、チケットのような物をバシンっ、と勢いよく置いた。なんだ? 擬人化した兎のようなロゴが刷られている。


「さっき素材を買った時の特典っ、厳選した! この郷のワーバニーカフェの3割引きチケットだよっ? セクシーメイドコスのワーバニー達がおもてなししてくれるよっ?! 君にあげてもいいっ!」


「・・・」


この郷のかなり東になるが、乗り合い馬車で走破しやすい平坦な一直線上に兎人(ワーバニー)族の集落があって・・以下略。


「ケンタウロスレース! 最近は風紀も良くなったというし、節度を保って楽しむ分にはいいかもしれないな。俺もなんでもかんでも頭ごなしに否定するのは建設的ではないと、常日頃から思っているんだ」


俺はスッと、バニーカフェ『ンナァーミラーズ』の割り引きチケットを懐に入れた。



数時間後、俺と人形のディッカは郷の外れのレース場に続く田舎道を乗り合い牛車に乗って移動していた。晴れているので折り畳みの幌が上げられている。

4人乗りの座席で、前の席に居眠りしている酔っ払いと、レース資料を読み込んでいる三十路くらいの女が座っていた。


「ふぅ~っ、面白いカフェだったねぇ」


「付いて来るとは思わなかったよ」


なぜかディッカも付いてくる形で俺達はバニーカフェに既に寄っていた。チケットの同伴割り引きは効いたけど。


「萌え萌えぴょ~んっ! って跳ぶ件、最高! 可愛いっ。グッズ一杯買っちゃったわ~っ」


「まぁたまにはああいうのも有りかな」


別に風俗ではない。セクシーメイドコスのワーバニー達がやや過剰な挙動で接客してくれたり、カフェのミニステージで歌ったり踊ったりしてくれる店だった。

料金は割高だったが割り引きチケットのおかげで程々の価格で楽しめた。


「あ! 見えてきたっ。結構おっきいねぇっ!」


少し坂を登った先にレース場があった。広さはあるが、造りは田舎相応に簡素だ。傭兵時代の野営地や砦の騎馬演習場の雰囲気に似ている。


「ディッカ、程々にな。それとマージンはいらないから、予算の3割は俺が賭けるから」


「あたしのお金なのに~」


「俺の分で足が出たら半額は出すから!」


「わかったよぉっ」


不満だろうが、好き勝手はさせられないっ。さっきも金が足りない、というのにバニーカフェグッズを山盛り買ってたし・・

とにかくレース場に着き、牛車を降りた俺達はさっさと入場しようとしたが、搬入口の方で何やらチンピラ風の男達数名と耳出しフード被った大柄な男が言い争っているのが見えた。


「あの耳出しフード、人間体のケンタウロス族だよな? レース走者、か?」


ケンタウロス族は馬の下半身と人間の上半身を持つ種族だが、比較的人に近い姿にも変化できる。


「よしっ! ダイスケ行こうか?」


「行くのか? トラブル臭いぞ?」


「トラブルはお金になるっ!」


(やから)の思考!


「レースは?」


「こっちの方が面白そうっ」


さっさと搬入口の方に歩きだす人形のディッカ。


「おおいっ、ディッカ、君は感覚で生きてないかい?」


追うしかない。


「皆、そうでしょ?」


「そんなことないだろ? 縦横斜めで皆、絡まってるぜ?」


それで美味しいとこ取りするヤツらもいるけどさ。


「ええ~? 人間って窮屈だねぇ」


「・・・」


まぁ魔女から見たらそうだろよ。と、


「いい加減にしろっ!」


「ケッ、どうなっても知らねーからなっ」


俺達が到着する前に、話がついてしまったらしく、人間体の耳出しフードのケンタウロス族は搬入口の中に去りだし、チンピラ達は牛車より早い乗り合い馬車場の方に去りだしてしまった。


「ああっ? ダイスケがモタモタしてるからぁっ」


「俺のせい? なんか決裂してたっぽいが・・」


チンピラが走者に絡むなら八百長云々かな? ありがちな話だ。


「搬入口の奥にも警備の人っぽいのがいるから、あたしちょっと、壁とか通り抜けて探ってくるわ。身体の方よろしく!」


「え? おいっ」


ディッカは人形の身体からスルリと霊体を身体を抜け出させて、そのままレース場の壁を通り抜けていってしまった。

俺は力を失って倒れてきたドールゴーレムを受け止め、困惑するばかりだ。


「勘弁しろよ・・」


というかチンピラの方を追い掛けてシメた方が話早くないか? 俺の思考野蛮なんだろうか??



霊体のディッカは警備員やレース場職員、人間体への変化等してない屈強ケンタウロス族の走者達に見付からないように、天井沿いに壁から壁へと通り抜けいた。透明になる魔法も使えたがこの状況を楽しんでいる様子だった。


「あ、いた!」


個室の調整室に入ってゆく耳出しフードの男を発見するディッカ。男が部屋に入ると、ディッカも壁を擦り抜けていった。

男は部屋に入ると耳出しフードを取り、本来の馬の下半身のケンタウロス族の姿に戻った。身体に合わせて衣服も変化していた。


「くそっ、なんてことだ!」


苦悩の様子のケンタウロス族の男。ディッカは一瞬考えた後、即、男の目の前に降下した。


「ばぁっ! こんちはっ。ディッカだよ?」


「のぉわっ?! ゴースト??」


仰け反るケンタウロス族の男。


「意外かもしれないけど、あたしは人助けを趣味とする正義のゴーストなんだっ! さっき搬入口で揉めてたけど、なんかあった?」


細かな説明は省略したディッカ。


「いや、ええ??」


戸惑うケンタウロス族の男だったが、屈託無い様のディッカに、やや破れかぶれ気味だが事情を話しだした・・



案外早く戻ってきたディッカは、人形の中に戻る前にザックリ解説を始めた。


「要約すると、遊び人の弟が郷のチンピラの店でボッタクられて、べらぼうな借用書書かされて、チンピラ達のアジトに拉致られて、モウリンは八百長しろって脅されたみたい。あ、モウリンってさっきのケンタウロス族の走者の人ね」


「郷に駐留してる衛兵とか自警団とかレース場の運営は?」


「派遣されてる衛兵は1人だけで腰掛け。自警団は地回りのチンピラ達にビビってる。レース場はトラブルの多い走者はすぐ解雇しちゃうんだって、ケンタウロス族の人気の仕事で、後ろがつかえてるみたい」


なる程、その辺をつけ込まれてんだな。この土地の地回りならおそらく常習だろう。親族を含め、そういう罠を避けるという適性も、ここのレース場で活躍する為に求められているんだろう。


「どうする? 面倒そうだし金にもならないかもしれないぞ?」


「ブチのめそうと思う。あたしが稼ごうと思ったのに、調子こいてるから」


平然と言うディッカ。魔女に人間の理屈は通り難い。


「・・なるほど」


一応、俺は護衛な上に1人でも勝手に突っ込みそうな上に、加減できるか甚だ怪しい。

連中にしてみればいつものシノギの1つに過ぎないだろうが、身体を張った人と争う商売で運が悪い、それは適性が無いってことだろう。

そんなこんなで、小一時間後。


爆発っっ!!!!


郷の貧民区にあった連中のアジトで爆発が連続で起こった。念の為に悪鬼(あっき)風の仮面を付けた人形のディッカがマナボムの魔法をブッ放していた。

因みに借用書等の入った金庫は最初に吹き飛ばしている。中の金品とかまるで気にしないディッカ。


「ごわぁああ~~っ??!!! なんだこの人形っ???」


大混乱する地回りのチンピラ達。


「人間もいるぜ?」


俺も念の為に布を巻いただけの覆面をして、アジトにあったモップの先を折って作った棒切れを手に、軽めに狼狩りを連打してチンピラ達を次々叩き伏せて昏倒させていった。

これくらいのヤツらなら多少暴れてきても問題無い。


「ピーピーピーっ! 破壊っ! 破壊コソガ我ノ悦ビナリっ! ピーピーっ!!」


人形の姿に謎の設定を盛りだすディッカ。実体誘導パンチで用心棒らしい豚人族(オーク)の戦士も一撃で武器を砕いて殴り飛ばし昏倒させた。


「うわぁっ?? なんらかの魔法兵器が暴走しているぞぉっ?!」


「というか覆面の男が凄ぇ殴ってくんぞっ??」


「・・は、破壊神(はかいしん)様に栄光あれっ!!」


俺もディッカの設定に乗ってみた。


「邪教徒だぁっ!!」


「なぜ邪教徒が俺達のアジトをっ??」


7発、事前に言い聞かせたので建物の壁等に向けてマナボムの魔力爆弾を撃つディッカ。


「破壊神様万歳っ!!」


適当なことを言いつつ、取り敢えず動いてるヤツら全員棒切れでノシてやった。

壁が吹っ飛んだ結果、モウリンの弟らしいケンタウロス族の若い男や、なんらかのトラブルで捕まってたらしい女達なんか隔離部屋も俺達から見て剥き出しになっていた。


「・・っっ、生け贄にするのは勘弁してくれっ!」


「命だけは助けてっ!」


「お母さぁーんっ!!」


モウリンの弟を始め、捕まっていた女達に俺達は邪教の兵器と邪教の狂戦士として恐れられまくってしまった。


「・・ピーピー、兄ニ頼ッテ夜遊ビ三昧っ! 度シ難イッ!!」


破壊兵器設定のまま弟に迫る人形のディッカ。


「ひぃーーっ、もう故郷に戻って農業継ぎますっ。兄貴から金せびるのも辞めますぅっ!!」


懲りたらしい弟。金、せびってたのか・・


「甘い話やら、都合いいことしか言わないスケコマシやら、薬やらなんやらかんやらっ! 気を付けよっ! キェエエエーーーイッ!!!!」


そういう流れになってしまったので、女達にも取り敢えず奇声をあげつつ迫って言ってみた。

女達の服装や顔付きや体調の様子なんかで察するところがあったので・・


「キャーッ!! 甘い投資話に気を付けますっ」


「夢みたいなイケメンなんていないってわかりましたぁっ!」


「治療院に入りますぅっ!!」


女達も取り敢えず懲りた風だった。薬はちょっと掛かるだろうな・・


「ピィイーっ! 破壊っ! 破壊ノ悦ビ、イトオカシッ!!!」


「後は破壊神の名の元にっ、自警団どもに報せればアレするだろうっ! キェエエエーーーイッ!!」


間が持たないのでディッカに適当に2発マナボムを撃たせた爆風に紛れ、俺達は遁走した。



この件で貧民区は大騒ぎになったようだが、ケンタウロスレースの夕の部は予定通り開催されていた。

俺とディッカはフード付きマントを着てコソコソと会場にいた。


「・・ディッカっ! モウリンに知らせたならもういいだろ? やらかし過ぎたっ、この郷からはとっとと出ようっ!」


「いいやっ! モウリンはお礼に八百長はしないが全力の走りを見せると言ってたっ!! あたしはこのレースのヤツの走りに懸けるよっ?!」


「俺が3割って話、飛んでないか?」


「大丈夫だってぇっ!」


不安しかないが、レースは始まってしまった!

走者7名のレースでモウリンは序盤は5位スタートで、前後左右囲まれた位置だった。渋いっ。


「いけぇっ! モウリーーンっ!!」


叫ぶ人形のディッカ。中盤、モウリンが揉み合いから強引に抜けたっ! 3位に入った。そのまま後半コーナーへっ!!


「モウリィーーンっ!! 差せっ! 爆脚(ばくきゃく)っ! 爆脚だぁっ!!」


荒ぶるディッカだったが人形の身体から上半身が抜け出しちまってるっ。周りの客も沸いてるからギリでバレてないがっ。


「っ?!」


ここでレースが荒れたっ。4位と5位が後ろから先頭集団に突っ込み団子になってゴールに迫る展開にっ!


「も、モウリン? モウリン??」


目が据わってるディッカ。


「っ!!!」


ゴールの瞬間っ、会場は静まり、続けて一気に大歓声が響き渡った。1位はモウリンだった。堂々と腕を振り上げている。


「モウリン1位か。よかったな、ディッカ。いくら儲かった?」


「・・が・・スカした」


「ん?」


「2位予想が全部スカしたぁああーーーっっ!!!! なんだよ最後の団子をっ! 300万ゼムもスッたぁーーーーっっ!!!!」


「・・取り敢えず、中に収まってなさい」


コツ掴んでた俺は掌に魔力を込めて人形からハミ出して大泣きしているディッカを人形に中に押し込めた。


「言わんこっちゃない」


「もうケンタウロスレースは懲り懲りだよぉーーっ!!!」


人形に戻っても大泣きするディッカ。水分を取れるから泣けるらしい。

この後、郷をこっそり抜け出した俺達は次の郷で依頼をあれこれ受け、地道にモンスター退治やら素材集めやら魔法道具や錬成鍛冶屋で作業補助に数日打ち込んで、レースでスッた分は補えた。

まぁ、真面目に働くのが一番ってことだね☆

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