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傭兵と琥珀姫  作者: 大石次郎


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3/14

契約

暗森のパワースポットにある霊木の1つの中がディッカの魔法に関する作業場の空間になっていた。彫ってるのではなく、魔法的なそこそこ広い場所を内部に造りだしている。

そこの床に描かれた魔方陣に置かれた、焦げた琥珀の欠片の山が再び人の形に錬成(れんせい)されてゆく。


「んん~~っっ!!」


霊の身体が消えてしまわないように魔石の欠片を十数個、次々と消費して錬成を維持するディッカ。


「・・・」


ボロボロになった鎧を脱いで、これまたボロボロの鎧下とその下の衣服と革のブーツだけになった俺は、ディッカにもらった治癒霊薬(エリクサー)を飲みながら近くに置かれた椅子に座り黙ってそれを見ている。

自分で自分を治そうとする人を傍観する、ってのも珍しい。

陣の光が消え、琥珀の身体は人の形に戻った。焦げ痕も無い。だが・・


「スイカが入りそうだぞ?」


寝かせ易いようにポージングも変わっているが、琥珀の身体の腹にはぽっかりと風穴が空いていた。


「頭部と心臓を外して対価の帳尻を合わしたら、こんなもんだったよ・・」


ガックリしているディッカ。


「こっから補修できるもんなのか?」


「ん~・・霊木の琥珀を3キロちょい、ユニコーンの角1本、フェニックスの尾羽根1本でなんとかなると思う。これ以上のミルッカの魔方の痕跡やムカデの悪魔の穢れはもう取り除いたし」


気楽な調子で言うディッカに俺はギョッとした。簡単に揃う物じゃない。


「霊木の琥珀って一欠片で10万ゼムとか20万ゼムはしなかったか? まずそんな売ってなくないか? フェニックス尾羽根もそうそう売ってない。ギリ買えそうなのユニコーンの角くらいだろ?」


ユニコーンは幻獣にも分類されるモンスターで希少種ではあるが、角は数年に1度生え替わるからある程度は流通している。


「霊木の琥珀はあちこちで買い集めてくしかないけど、フェニックスの尾羽根はこの辺りだとリラの魔法素材の問屋街に行けば買えると思う。まだリラって栄えてるよね?」


「うん、栄てる栄えてる。ディッカもリラに行くのか・・。あ、ディッカって呼んでるがいいかい? 俺もダイスケでいいんだが」


「別に。ダイスケね。・・その前に」


透けてるディッカはこちらを向き直った。幽霊、というか生き霊って感じなのかな?

美人ではあるが、タレ目でしかし眉のしっかりとした癖の強い顔立ちだった。左目の下にホクロがある。


「ムカデの悪魔退治と、ついでにミルッカを追っ払うの手伝ってくれて、ありがとう」


霊体に礼を言われたのは初めてだ。


「おお、まぁ。悪魔退治は契約したし、その後は予測のつかないことだったしさ」


「散々だったよね? 装備の損耗も考慮して追加の報酬を払うよ。錬成で補修も手伝うけど、現金は無いから足りない分は素材や加工品になっちゃうわ」


「払ってもらえるならそれで。というか、琥珀の身体を直す為の素材、ディッカだけで集められるのか?」


森から出ると普通に退治される可能性もなくはないだろう。


「その辺のところは・・明日、話していい? 魔石で補ってもそろそろ限界で、あたし、ここのウロで休まないと」


姿も薄くなったが眠くて堪らない、といった顔をしていた。


「わかった。俺もさすがに眠い。ここはモンスターも寄らないし、そこらで野営するよ」


「ホントに? それなら、取り引きのある近くのハーフエルフの隠れ里の人達をたま~に泊める部屋があるから、その樹に入って使って」


「樹なんだ・・使わせてもらうよ」


この森、ハーフエルフもいるんだな。

俺は今日のところは客間になっているらしい霊木の中で休むことになった。



作業場の樹同様、魔法的空間の別の霊木の中に入ると小じんまりとした。山小屋風の平屋の一軒家のような空間だった。

樹と置かれている香り石(かおりいし)の匂いが立ち込めてる。

台所と風呂とトイレも完備! こりゃいい。洗濯もできそうだ。食材は常温庫、低温庫、氷温庫があった。魔法式の氷温庫なんて贅沢品だ。食材は大量ではないが一通りは揃っていた。

そして、


「え~と、こんちは」


部屋の管理用に人形型魔法傀儡(ドールゴーレム)が1体置かれている。人形と言っても剥き出しのマネキンのような人形だ。子供サイズとはいえ、圧迫感はあった。


「・・イラッシャマセ」


定まらない視点で淡々と言ってくる。


「あの、勝手にするんで、君は設備の維持とかだけしてたらそれでいいよ」


「ワカリマシタ。オ客様ニ干渉致シマセン」


「おう」


ドールゴーレムは言葉通り、室内の観賞植物の手入れをしたり、魔力灯(まりょくとう)の交換をしたりしていた。

うん、まぁこれはこれでよし!

俺は風呂に入り、装備は全て傷んでいるが錬成で補修してもらえそうな物はきっちり洗っておいた。

風呂から上がり、洗った物を外の木々に渡した縄に吊るして干し、傭兵してた頃に下位竜狩りの褒賞でもらった懐中時計で確認すると夕方になっていた。

俺は食料庫の食材で雑穀粥とシチューを造り、あとナッツと冷凍された果実をカットした物を摘まんで、置かれていたハーブ酒を飲んだり、煎り豆茶を飲んだりして、食器や調理具を洗い、歯を研いてとっとと眠ることにした。


「・・妙なことになったな。へへっ・・・」


俺はちょっと笑ってしまいながら眠りに落ちた。夜伽は無かったが、清潔な環境で落ち着いて夕飯を食べて早くに眠ってしまう、というのも悪くない・・



翌朝、平服(へいふく)に、傷んだグラディウスの代わりにミスリル鋼の両刃短剣(ダガー)だけ左の腰の鞘に差して、俺は魔法式の描かれた客間の樹の幹からスゥっと抜けだしてきた。俺まで霊体になった気分だ。

パワースポットだけに清々しい気分がする。鳥が鳴いていた。客間の樹の他、作業場の樹、ウロの寝床の大木、倉庫らしい樹があり、回収できたムカデの悪魔の犠牲者の遺骸を葬ったという塚もあった。

近くの霊木に長めにした綱で繋いだ馬もリラックスして様子だった。来た時よりも毛並みがずっといいくらいだ。数年ここに放ったら、ユニコーン等の馬型の幻獣に進化しちまうんだろう。


「・・さてと」


ちょっと周りを探検したいくらいだが、ディッカを起こしに行こう。昨日の話しぶりからすると疲れると平気で20年くらい休眠する(たち)がありそうだった。そんな待てないぜ?

俺は枝の棒切れを1本拾って、ウロのある大きな霊木に向かった。

うっすら輝くウロの中の陣で、ディッカは横向きに胎児のように丸まって眠っていた。ほぼ精霊になってるんじゃないだろうか?


「ディッカ、ディッカ!」


「むにゃにゃ・・」


呼んでもまるで起きそうにない。棒でつついてみようとしたが、すり抜けてしまう。ディッカに触る気がないとダメみたいだな。マズいな。どうやったら起こせるんだ??


「・・これ、か?」


俺はボロボロでもまだ使えるウワバミのポーチから聖水の小瓶を取り出した。


「悪魔じゃないし、むしろ精霊っぽいし、大丈夫だよな? ・・ていっ」


俺は眠るディッカに聖水を振り掛けた。


シュワワワワ・・・・ッッ


燃えたりせず、清らかな光に包まれ、浮き上がるディッカ。


「はわぁ~・・浄化される・・・皆、思い出を、ありが・・とう・・・」


目映い光の中、ディッカは昇天して逝っ


「って、コラァっ!!! 寝起きにターンアンデッドすんなよっ!!」


気が付いて光を振り切って地上に戻ってきた!


「アンデッドなんだ」


精霊じゃなかったか。


「呼んでも起きないからさ」


「起きるよっ! 聖水ブッ掛けるのやめてっ!!」


「わかったわかった。で、昨日の話の続き」


ディッカは寝起きで頭が回らない様子だった。


「えっと・・どこまで話したっけ? あっ、あたし夜伽しないよっ?!」


「戻り過ぎだ! ミルッカとかいう魔女は撃退してるっ、琥珀の像に穴が空いてて素材集めるの大変だ。まで話は進んだ!」


「おおお・・そうだったそうだった。よし! ダイスケっ」


「おう」


「続けてあたしに雇われてくれない? 取り敢えずリラまで! あたしの琥珀の身体を修復素材を集めるまで!! 払う物は払うよ? 取り敢えず、昨日の分はこれね。アナザーボックス!」


ディッカは収納魔法を使って、宙に出た魔法陣から大量の売却向けの魔法素材や加工品を出した。総額、360万ゼムってとこかな? 都市部の労働者の平均月収は28万ゼムってところだ。俺のレベルで使う道具や装備は高額だが、悪くない金額!


「引き受けてくれたら、3000万ゼム相当の品を支払うわっ! 買い物に同伴するだけだよ? 手付けは1000万ゼム相当っ! どうだっ!! 美味しい仕事っ! ダイスケの元々の目的地だし」


「うーん、報酬は悪くない。だが、ミルッカっていう魔女との事情を話してくれ、それ次第だ」


本格的な魔女同士の抗争となると話が厄介になってくる。


「だよね。わかった。話す。まぁ見た目で気付いたと思うけど、ミルッカはあたしの妹なんだ」


「おお・・」


そこはそうだろな、と。


「塔がどうとか言ってたのは?」


「あれね」


ディッカは溜め息をついた。


「エルバエンの塔は、かつてあったあたし達の故郷なんだ」


遠い目でディッカは言い出し、俺は、これは長くなるぞ? と身構えた・・



勢力を増した魔女達は派閥ごとに塔の創造を始める。ただの拠点ではない。純粋な魔女は摂理の中から発生する。それは魔女達が造る塔の中でのみ可能だ。

蟻や蜂の巣のような物で、これがないと魔女は増えることができず滅びてしまう。

エルバエンの塔はそういった魔女の塔の1つだった。

だがある時、塔の中で内紛があり、エルバエンの塔は崩壊! 生き残りのエルバエン閥の魔女達は世界中に散り、流浪の暮らしをせざるを得なくなった・・。

ディッカとミルッカはそんなエルバエンの残党の中でも塔の復興を目指す、復権派と呼ばれるグループに属していたが、このグループはかなり急進的で、やがてディッカはグループと決別っ。

ミルッカはその粛清としてディッカを強襲して封じた、というワケらしかった。

これは・・現在進行形でヤバい要素を含んでるな。昨日までの分で既にたんまり報酬はもらったし、補修できる装備の補修も錬成で対応してくれるらしいし、合理的に考えるなら、俺の協力はここまでだな。元々夜伽の噂話に釣られただけであったし!

賢明な俺は、当然の判断として・・



俺は暗森の旧林道を抜けた街道を、馬に乗ってポクポク進んでいた。天気は好い。装備も大体は直ってる。


「いやぁっ! いいねっ! 30年ぶりだわっ、森の外っ!! この身体もちょっと小さいけど、実体があるって素敵っ!」


「・・・」


並んで進む、ハーフエルフの隠れ里で買った銀毛(ぎんもう)種の騾馬に乗り旅装で身を固めたドールゴーレムが、若い女の声ではしゃいでいる。


「ディッカ、戦士の俺が、ドールゴーレムを従えてるって、やっぱ設定に無理がないか?」


そう、ディッカは今、ドールゴーレムの中に入っていた。


「知り合いの魔法使いが使役しているドールゴーレムのお使いの護衛をしている元傭兵! 自然な設定だよっ」


「中々無い状況だと思う」


「しょうがないでしょ? 霊体のままだと疲れるし、不便だし、通りすがりの僧侶とかにターンアンデッドされちゃいそうだしっ!」


「そもそも暗森から離れて大丈夫なのかよ?」


「大丈夫! あたしが縛られてるの琥珀の像! 像はアナザーボックスで持ち歩いてるから自由自在よっ?」


「ならいいんだが・・一応敵対勢力がいるんだから目立たないようにな? ドールゴーレムも1人でフラフラしてると普通にモンスター扱いされっからな!」


「はいはい。というかさ! 見てこれっ」


ドールゴーレムに入ってるディッカは首を回転させだした。


「凄くないっ? 霊体の時より自由! ちょっと目が回るけどっ! アハハハっ」


首を回転させながら大ウケする人形のディッカ。見た目、普通に怖いからな・・


「なんだかなぁ」


結局、俺はディッカと護衛契約してしまった。ついでではあったが元傭兵としては契約したからにはきっちり仕事するつもりだ。


「ダイスケ! 見てっ、右腕に実体誘導(じったいゆうどう)パンチも仕込んでるんだ!」


首の回転をやめ、代わりに右手切り離し砲弾のように、しかし自在に曲線を描いて、街道近くの岩に向かって撃って粉砕させるディッカ!

ディッカの銀毛種の騾馬は平然としていたが、俺の馬がビビって鎮めるのに慌てた。

右手は反転して戻ってきた。切り離した断面から風の魔力を放出して推進力にしているようだ。

綺麗に元の右腕にカシャンッ! と戻る人形のディッカの右拳。


「近付けば霊体パンチ! 離れればば実体誘導パンチっ! これで復権派に絡まれても一安心だよっ?! アハハハっ!!」


「・・無駄に自然を破壊するのはやめなさい。馬も怖がるし」


「了解了解っ! ああっ、あと左腕は振動カッターも仕込んで」


「だから、やーめーろって!」


ダメだ。森に引きこもってた反動で、外出自体にハイになってるっ。慣れていた暗森の中のハーフエルフの隠れ里は問題無かったが、こっから本格的に人里に入ることを考えると俺はちょっと胃が痛くなってきた・・

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