爆散!
暗森の旧林道は所々に置かれた苔むした漬け物石みたいな魔除けが一応利いてはいたが破損部も多く、午前中であっても薄暗い森は危うい気配だった。
俺は腰に付けた香炉で魔除けの香を焚きながら馬を進めていた。
聞いた通り魔力の強い森だ。モンスター達もチラホラ見掛けるが、植物の精霊や小妖精達もいた。
そして、
「・・・」
さっきから、いや森に入ってからずっと誰かに見られていた。今はあの樹の上。
最初は森で暮らすエルフ族かと思ったが移動が自由過ぎる。フワフワ飛びまわってる感じで、時に木陰から木陰へとテレポートまでしてる。なんだ?? 敵意は感じないが警戒はされてるな・・
このまま放置しても状況はよくなりそうになかった。俺は腹を括った。
「誰だ?! 気付いてるぜっ!」
俺は呼び掛け、反応が無かったのでウワバミのポーチから予備武器の1つとして持っていたロングボウと矢筒を取り出し矢筒はベルトで身に付け、抜いた矢を1本ロングボウにつがえた。
「1発射つぞっ?! 用が無いなら消えた方がいいっ」
俺は警告し、まずは少しズラした位置に矢を放った。戦場では斬り込み役だったが弓の訓練自体は得意だった。
矢は、ゴッ! と確かに命中・・命中?!
「中々やるじゃない? 危ないところだったわ」
木の上の葉の陰から、眉間に矢が刺さった魔女風の格好をした身体の透けた女が、スゥっと浮き出してきた。
「いやっ、クリティカルヒットしてるぞっ?!」
「霊体だから鉄の矢くらいはどってことないわ」
霊体? の女は無造作に眉間から矢を抜いた。眉間の穴もすぐ塞がった。
「外して射ったつもりだったんだがな」
「矢を射たれたから避けた所に矢が飛んできたわ」
「・・・」
ポンコツなのか?
「あたしは今はこんな姿だけど、魔女、ディッカ・ルーンフォレスト! かつて無敵と恐れられた大魔女よっ」
無敵・・さっき持ってはいる銀の矢を射ってたら倒せた気がするが? ま、いいか。
「俺はダイスケ・フユキ! この間まで傭兵をやってた。この暗森にいるという琥珀姫という人を探しに来た! 理由は琥珀姫を見付けると夜伽をしてくれると近くの郷の酒場で聞いたからだっ! 俺は夜伽に関心を持つ者だっ!!」
よくわからないが誤解があってはややこしい。俺は主旨をハッキリと伝えた。
「っ!!」
霊体? のディッカ・ルーンフォレストは唖然とし、透けたまま赤面し、最後に憤慨した様子だった。忙しいな。
「却下っ!」
「え?」
「夜伽は却下! なんで見付かったら夜伽しなきゃならないのよっ?! そんなエッチな隠れんぼは専門のお店で済ましなさいなっ!!」
「・・いや、まぁそうだけど」
それはかなり上級者向けの店だな。
「話に尾ひれ付き過ぎでしょ?! 何、そのダメ伝説っ! 風評だよっ、風評っ! あたし、そんなことしてないっ!」
「・・え?」
「ん?」
俺達は顔を見合せた。
「琥珀姫、なのか?」
「姫かどうか知らないけど、今のあたしの身体は琥珀にはされてるわ」
霊体の女にしてディッカ・ルーンフォレストにして琥珀姫? はうんざりとしていた。
円形に強力な魔除け石柱で囲われた中心に、果たしてディッカ・ルーンフォレストその物の琥珀の像があった。
さらに像には陰でできたムカデのような悪魔が張り付いている。
俺とディッカ・ルーンフォレストは近くの木の枝の上にいた。ディッカ・ルーンフォレストは浮いてるだけだったが。
俺は望遠鏡で様子を伺っている。
「あたしは敵対してた他の魔女に不意打ちを喰らってここで琥珀に変えられて、あの悪魔まで張り付けられた! 像の中から幽体離脱して悪魔の目を盗んで逃げだすまで3年掛かって、悪魔がこの森で旅人や近くの住人達に悪さしないように石柱の陣の中に閉じ込めるて弱体化させるのにまた7年は掛かって、それで力を1回使い果たして休眠して、また復活したのが1年前。なんだかんだでもう30年この森に釘付けよ」
「へぇ」
「反応薄っ! あたしの、ディッカ・ルーンフォレストの30年だよっ?!」
霊体だが普通に襟首掴んでくるディッカ・ルーンフォレスト。いや、そう言われてもな。まずその話、本当なのか? てとこだし。
「わかったわかった。あんたの話は取り敢えず信じる。悪霊の類いじゃないようだしさ。あの像その物にも悪い気配は感じない気がする。ムカデの魔族もほっとくとヤバそうだ」
「協力してくれる? 報酬は払うよっ。夜伽はしないけど!」
「もうその話はいいって」
結構残念ではあるが!
「貴方はミスリル銀のいい武器持ってるし、戦場でオーガを狩れるなら十分勝てるよっ!」
なし崩し気味だが俺はムカデの悪魔狩りに付き合うことになった。まぁ傭兵の頃、魔族狩りの仕事もそこそこあったしな。
馬は離れた、森の中でも霊木の類いが産出されるディッカ・ルーンフォレストのねぐらのエリアに繋ぎ直し、俺はディッカ・ルーンフォレストは件の魔除け石柱のすぐ外側まで来ていた。
内側から見て見晴らしがいい構造なので奇襲もへったくれもない。
「ディッカ・ルーンフォレスト、魔法は防御と自動回復だけで、あとは魔除けの効果を強めてくれたらそれでいい」
「加速や剛力の魔法はいいの?」
「傭兵業は集団戦ばかりで進行が乱れるから加速魔法はあまり使ってなかった。剛力魔法は動きごぎこちなくなるからデカブツ相手以外じゃやり辛いよ」
俺は聖水の中身を頭から被りながら言った。
「ふーん? まぁいいけど・・オートヒール! プロテクト! レジスト!」
ディッカ・ルーンフォレストは補助魔法を立て続けに俺に掛けた。
「あとは魔除けの陣を一時的に強化するから、よろしくね!」
「おうっ」
俺は既に組み上げているハルベルトを構えた。陣の向こうで、ムカデの悪魔が殺意しかない顔で俺をジッと見てる。そんなに見たら照れるぜっ?
ディッカ・ルーンフォレストが、陣を強化した! 悪魔の姿が数割消し飛び、小さくなったっ。
「行くぜっ!!」
俺は陣の中に飛び込んだ。
即応してムカデの悪魔が数十のムカデの触手を伸ばしてくる。能力は一通り聞いている!
俺は第1波を躱し、ピンを抜いて爆薬を7発投げ付け炸裂させて半数を吹き飛ばし、残りも弾いた。さらに間合いを詰める!
「ジィイイイッッッ!!!」
悪魔は怒り、触手ではなく、本体の両腕を毒の剣の鞭に変え、口からは毒液を吐き出し、時に精神に衝撃を与える叫びも放ってきた。
いずれもまともに喰らわなければ聖水と補助魔法の効果で凌げる!
動きを大体見切ると、俺は霊木の灰の小袋をウワバミのポーチから取り出して、ぶつけて中身をぶちまけ悪魔の全身を浄めの灰で焼いて怯ませた。
「セェアッ!」
俺は大鷲返しで右の剣の腕を切断し、左腕は狼狩りで2つに引き裂いて肩口まで消滅させた。
切断した右腕は独立して大ムカデのようになって襲ってきたが、この特性も聞いてるっ。俺は本体の毒液を避けつつ、大ムカデの右腕に岩通しの突きを放って粉砕した。
「よっと」
俺は振り向き様にブレスも叫びも鬱陶しい悪魔の口に、左の腰の鞘に差してる銀のグラディウスを抜いて投げ付け、喉まで刺して黙らせた。
「ンジィッッベェェッ??!!!」
錯乱しつつ激昂し、悪魔は琥珀の像から身体を離して毒のトゲを持つ巨大なムカデその物のような姿になって襲い掛かってきた。像から離れたなっ!
俺は前転で大きく避け、爆薬を5つ投げ付け炸裂させて怯ませ、続けて頭部に聖水の瓶を投げ付けて割ると聖水は青い炎となって悪魔の頭部を焼いた。
「ジィッッ!!!」
俺は跳び掛かって回転斬り下ろし技『大盾割り』でムカデの悪魔を両断した。
「ファイアアローっ!!」
ディッカ・ルーンフォレストが炎の矢を5発放ち、悪魔に止め刺した。
琥珀の像から完全に悪魔が消え去った!
「ダイスケ・フユキ! 凄いじゃないっ。こんなあっさり倒すなんてっ」
ディッカ・ルーンフォレストは側まで飛んできた。
「いや、初見ならヤバかった」
「とにかくやった! やった!!」
自称、元無敵の霊体の魔女は俺の手の両手を取ってくるくる回って大喜びした。俺までくるくる回るハメになる。
「あとは琥珀化を解除するだけだねっ! 任せて、30年あったから準備も解析もバッチリ・・」
意気揚々とディッカ・ルーンフォレストは解除に取り掛かろうとしたが、
「サンダーボルトっ!!」
突如、上空から響いた若い女の声とと共に雷が琥珀像に落ち、琥珀像は爆散した!!
「ああ~っっ??!! あたしの身体がぁーっっ!!!!」
絶叫するディッカ・ルーンフォレスト! 俺は上空を見上げた。いつの間にか、杖を構えた若い魔女が1人宙に浮いていた。テレポートの魔法か??
「あははっ!! ディッカ・ルーンフォレストっ! その顔が見たかったっ。お前が中々悪魔を退けられないから、イライラしていたくらいだっ!」
条件付けで報せる感じだったんだろうけど、30年も待ち構えていたのか? 暇なヤツっ。
霊体だが膝をついて泣いて宙の魔女を見上げているディッカ・ルーンフォレスト。
「ミルッカ! なんて嫌な子っ!!」
ミルッカというのか、なんか名前似てるな。ん? 顔も・・似てる??
いやいや、それどころじゃ無いか!
「ディッカ・ルーンフォレストっ。プロテクトはいい、加速を!」
ウワバミのポーチから鉄のカイトシールドを取り出しながらボソッと小声で伝える。
「聞こえているぞっ?! ハイブリッツ!!」
爆裂火炎魔法を俺に連発してくるミルッカ! ヤッベっ。転がって避け回るしかないっ。
「ディッカ! 早くっ!」
「うう~っっ、タイムクィックっ!」
プロテクトの魔法は解かれ、代わりに加速魔法が俺に付与された。周囲の時が遅くなるっ!
「アイスストーム!!」
ミルッカは即座に低温と氷片の嵐が全方位に放った!
冷たい旋風と無数の氷だ。加速して突っ込むのは自殺的。
だが今はレジストとオートヒールが残ってるっ。何より、命の張り合いに慣れてる元傭兵相手にチキンレースを挑むのは悪手だぜっ?!
俺は躊躇無くカイトシールドを前面に構え、足腰を魔力を溜め、そう高くない位置に浮いてるミルッカ目掛けて跳び上がった。
凍気と氷でズタズタにされつつ、回復もし、かなり接近した所でカイトシールドもブッ壊れちまった。突進の勢いも一気に削がれた。届くか?
「っっっ!!」
もう限界だが、距離が足りず、技を使う余裕も無い。俺はこちらを認識し、魔法で応戦しようとするミルッカの杖を溺れて窒息しそうになる感覚でどうにか、ハルベルトで切断した。
これで十分だったようだ。
「プラスヒールっ!」
突然、加速が解除され、俺に上級回復魔法が掛けられた。ディッカだ。
「マナボム!」
杖無しでも下位の爆裂魔法で俺を吹っ飛ばすミルッカっ。
「テレポート!」
地面に落とされた俺と交代に、ディッカはミルッカの真横に瞬間移動し、魔力の溢れる右手でミルッカ腹を爆発的に殴りつけた! ミルッカは多重に物理障壁を張っていたようだが、全て粉砕されて腹を殴られる!
「霊体・デッドオアアライブ・パンチっ!!!」
「がはぁっ?!」
宙を真横に十数メートルは吹っ飛ばされるミルッカっ。
「ごほっごほっ・・ディッカぁああっ!」
「どうする? 杖無しで? あたしはあと、2発は今の技打てるけど?」
「くっっ・・いいだろう! だが、エルバエンの塔の主はこの私だっ!! せいぜい、砕けて焼かれた自分の身体を抱えてっ、惨めったらしく泣き暮らしたらいいっ!! アハハハハッッ!!! ロングレンジテレポートっ!!!」
ミルッカは長距離瞬間移動魔法で消えていった。
「・・サイコキネシス」
ディッカは念力魔法で砕けて焦げた琥珀像の破片を集めながら降下してきた。随分身体が薄くなってる。
俺は回復薬を飲みつつ、ウワバミのポーチから魔石の欠片を3つ程取り出し、それを手にディッカに歩み寄った。
「ディッカ、あと2発ってブラフだろ? 太いな、あんた」
魔石の欠片を3つ使って魔力を少しさ回復してやった。多少はディッカの身体が濃くなった。
「・・3割」
「え?」
「3割くらい消し飛んじゃってるよっ?! 復活できないじゃんっ!! うわーんっ!! 30年も頑張ったのにぃーっ!!!」
琥珀の破片を抱え、大泣きするディッカ!
「いやぁ、まぁ? なんか街の宝石やとかで、足りない琥珀買ってみる、とか?」
ディッカはギロっ、と睨んできた。おおっ?
「ダイスケ・フユキ! あんた自分の身体が足りなくなったらお肉屋さんでモツとか買ってきてくっ付けて済ますの?」
「いやいや、そこは魔法、とかさ。色々あんだろ? 大魔女だったんだろ?」
八つ当たりだよ。
「う~~~っっ、これは想定してなかった。えー? これはどういう魔法式で・・」
ディッカはこの場で考え込みだしたが、
「いや、1回あんたのねぐらに戻らないか? 俺もあんたもボロボロだし、あそこパワースポットで魔法素材も色々あったろ? 馬も繋いだまんまだし」
「・・わかった。なんか袋ある? 霊体のまま持ってると疲れるし、零れそう、あたしの身体が・・」
「ああ、袋なっ!」
俺は慌ててウワバミのポーチからなるべく大きな袋を探した。
袋に琥珀の欠片を全て詰め、持ってやるこてにして、ションボリしてるディッカを連れ、俺は一先ずディッカのねぐらに向かいだした。
材質が違い3割だか足りないとはいえ、袋の重さはちょうど人1人の死体分のようでなんとも言えない感触。
それにしても、スケベ心もあるにはあったが、ただの話の種くらいで来て、いつの間にか魔女の争いに巻き込まれる、みたいになってきたぞ? おお??




