朝露の針 後編
グリーンビートルを出て馬で2時間森の中を進むと程進むと、木の密度が下がり変わりに未分化な魔法原石の結晶の露出が目立つようになってきた。
魔法原石は属性が明確化すると各種ジェムの原石になるが、しないと魔法石の欠片の原料になる。
「・・土・・魔力・・強い・・す」
「これだけで一財産になりそうだな」
「迷いと隠しの術が掛かってるから早々入れないぞ?」
「ブラウンカダックのヤツらはケチだかんな!」
引き続きピクシー兵の2人が案内してくれていた。
2人とも玉葱のような兜を被っているが、名前はやや尖った玉葱兜被っている方がアッチ・ドッチ。やや丸い玉葱兜を被ってる方がソッチ・ドッチ。
アッチが兄でソッチが弟らしい。
「さっさと必殺武器を回収してこの辛気臭い仕事を片しちゃおうっ!」
身も蓋も無いことを言う姫号のディッカ。
グリーンビートルで里長エルトンチャが語った事情は実際気の滅入る話だった。
・・このメリメッサ近くの森のピクシー達はここのいわゆるパワースポット、輝きのブナ林で最初に発生したそうだ。
だがピクシー族が増えると輝きのブナ林の管理を巡って2つの勢力が対立! 勝った勢力が聖地の近くでグリーンビートルの里を形成し、負けた勢力は聖地への立ち入りを禁じられ森の外れでブラウンカダックの里を開き両者は絶縁することになった。
そうして長い年月がながれ、数年前に当時のグリーンビートルの里長が代替わりすることになってエルトンチャの兄が選ばれたのだが、ここでややこしいことになった。
この兄さん、密かにブラウンカダックの里長の娘と付き合っていて、里長選出を機会に明るみとなって2つの里は大騒ぎになった。
結果、2人は別れさせられたのだが、ここまで話を聞いた時点で俺達も想定したが、ブラウンカダックの里長の娘が悲しみのあまりに自決してしまった。
これを恨んだエルトンチャの兄さんは聖地で後追い自決! 輝きのブナ林の聖地に呪いを掛けてしまった。という目も当てられない話だった。
俺達はブラウンカダックにあるというこの兄の呪いが解けるらしい必殺武器・・もとい、ありがたい魔法道具、朝露の針を回収する為にブラウンカダックに向かっていた。
不仲かつ現在進行形でトラブっているとはいえ、水晶通信で相手方へ報せてはくれてるそうだが、どうなるもんかな? といったところが現状だ。
魔法原石の目立つ森をさらに30分程進むと、魔法原石でできた門が見えた。仕組みとしてはグリーンビートルと同じだな。
だが鳥小屋みたいな番所は門に付いておらず、替わりに簡単な武装をした土でできた小型の傀儡、マッドゴーレムが2体、門番をしていた。
「グリーンビートルのアッチ・ドッチだ!」
「同じくソッチ・ドッチだ! 通せ土まんじゅうっ」
マッドゴーレム2体は緩慢な反応だったが、
「・・コチラヘドウゾ」
「ぶらうんかだっくヘヨウコソ」
とすんなり通してくれた。
馬はやはり外に繋いで、中へ入ると、
「あら? 随分違うな」
「・・土・・属性・・す」
ブラウンカダックのピクシー達は低木のツリーハウスではなく、蟻塚のような土の柱をいくつも作って暮らしていた。
瞳や髪の色は茶色。土のピクシーだった。
「魔力の供給源を自分達で錬成したみたいね。属性まで土に変えたのは対抗心、ってとこかな?」
里の中心には岩くらいの大きさの土のブラウンジェムを圧縮合成したような物が設置されていた。かなりの土の魔力だ。
「ここのヤツらの先祖は俺達の先祖に負けたかんなっ!」
「グリーンビートル最強説っ!」
調子に乗るアッチとソッチ。
でもってブラウンカダックの住人達の視線はグリーンカダックのそれより遥かに冷たい。
特に案内もなく2人も初めて来たらしいが、アッチとソッチが目星をつけたブラウンジェムの岩の近くの装飾された土の柱の住居へ俺達はさっさと向かった。
柱にあったバルコニーにブラウンカダックの里長がお付きの者達と共にすぐに現れた。ピクシーから見て大型の他種族に対する基本対応っぽいな。
「ブラウンカダックの里長、エルヒロシだ。水晶通信で話は聞いている。聖地は我らにはもう遠い物だが、このままでは森全体に被害が及ぶだろう。協力はしよう」
「他人事みたいに言うじゃない?」
わざわざ煽るようなことを言うディッカ。
エルヒロシは溜め息をついた。
「娘のことはほんとに散々だ。こんなことになるなら2人とも森から追放して好きにさせればよかった」
「棚にしまって3日も忘れたアップルパイは匂いしか食べられない、って諺もあるよ?」
「ディッカ」
口が軽い。
「ふんっ」
どうやら思ったより今回の話が気に入らなかったみたいだな。ここまでわかり難かったが!
「オイっ、ブラウンカダックの! 泣き言はいいからとっとと秘密兵器、出せよっ?」
「朝露の針っての持ってんだろっ?」
このピクシー兄弟も大概だぞ?
「・・あれを」
エルヒロシはお付きの物達に細長い箱を持って来させ、それを開けた。中には装飾された針のような剣が入っていた。
強力な魔力と、どこか? 人の気配のような物も感じた。
「朝露の針。巡り巡ってこの里に伝わった、かつてピクシーの勇者が魔神を倒したという霊器です。また・・」
涙を溢すエルヒロシ。
「娘はこの剣で自決し、その魂はこの剣に宿ったままなのです」
そうか、これだけ魔法に満ちた者達なのに蘇生魔法の話は出なかったから、よほど酷い状態で見付かったのかと思ったが・・悪霊を倒せる、というのもこういうことか。
「え~?」
「マジかよぉ?」
困惑するアッチとソッチ。ディッカは察していたらしくただムスッとしていた。
「早く終わらせてあげましょう」
メイニーはメガホンではっきりと言った。
翌朝、グリーンカダック近くのピクシーの聖地、輝きのブナの林の近くまで来た俺達は、周囲の木の枝の上の葉陰から様子を伺った。
消臭剤は使っているが、魔除け香は使っていない。香ぐらいで祓えはしないし、気付かれるだけだ。
枝にはモヒカン毛の芋虫型モンスター、ケムシーノもいて威嚇してきたが小突いて追っ払った。
「林の被害を抑えてくれ、とは言われたが、ギッチギチだな」
そう広くはない輝きの林には木の属性を取り込んだ土鬼ウッドトロールが18体もうずくまっていた。
トロールはオーガと大して変わらない大きさの人型の土のモンスターだが、身体の構造はデタラメで再生力が強い。脳を破壊しないと一撃で倒すのは難しい。木の力を取り込んでいるから、なおさら強度が増している。
さらに、
「虎か山猫か? ヤバそうね」
姫号ではなく豆号に入ったディッカが呟く。
ブナの霊木の林の中心には半ば霊体の骨の頭部を持つ巨獣が寝そべっていた。これが呪いの大元、兄、だ。
(手筈通り、落ち着いてやりましょう)
既にテレパシーの魔法で全員と繋がっているメイニー。メイニーは控え目な旅装ではなく、怪盗ささやきの格好をしていた。半面は瓶底眼鏡と同じ効果があるらしいが・・
「お前、急に服、変えたな。胸んとこ穴空いてるぞ?」
「風邪引くぞ?」
討伐まで付いてきたアッチとソッチが言ったが、
(排熱です)
淡々と思念で返すメイニーだった。まぁそれぞれやり方があるだろうから・・
とにかく巨獣の兄とトロールの討伐作戦は実行となった!
まず、メイニーがサモンカード21枚で雷属性の球形霊体型モンスター、スタンウィスプを21体召喚。これを3体1組でウッドトロールの頭部を狙って強襲させたっ。全個体、自爆突進させる!
先制を取れたこともあって、7体のウッドトロールの頭部を吹っ飛ばし倒したっ。よし!
続けて、
「タイムクィックっ!」
豆号のディッカがアッチとソッチに加速魔法を掛け、混乱に乗じて3人で巨獣の兄に突進っ!
アッチとソッチはボタンサイズのピクシー族の魔法の大盾を持ってディッカの壁役を担う。
ディッカは薙刀で素早く立て続けに巨獣の兄を斬り付けて一先ず釘付けにしたっ。
ガス状態の身体を集め完全に実体化し、巨獣の兄はディッカ達に応戦を始めた!
「こっちもやるぜっ!」
俺は右手にイエロージェム、左手にイエロージェムの入った小袋を手に周囲の枝の上で構える。
魔力を回復させたメイニーがマナボムを撃ち出したらそれが合図だ!
(やります!)
別の場所に潜んでいるメイニーがマナボムを残りのウッドトロール達に撃ち捲って牽制を始めた。
「サンダーボルトっ!」
イエロージェムを使って狙いすました1体の頭部を雷で粉砕してやった。すぐに他のウッドトロール達が俺のいる位置に枝の鞭や葉の生えた棍棒の投擲や口から吐く土の塊を放ってくるので、即移動する!
どれも1発で木々を薙ぎ倒す火力だっ。冗談じゃないぜ!
メリメッサとグリーンビートルとブラウンカダックで仕入れたイエロージェムはあと20個! ウッドトロールはあと10体。
数だけ見れば余裕だが、向こうはもう気付いてるし、逃げ回りながら即席魔法使いの俺の精度は怪しいもんだっ。やるしかないけどな!
「サンダーボルト! サンダーボルトっ!」
ミスもしたが、俺は次々とウッドトロールの頭部を雷て粉砕していった。
相手の数が減ればそれだけメイニーのマナボム効き易くはなるが、個体が減ると動けるスペースも増えるっ。
加えて魔力はイエロージェムで補えているはずだが、実戦でのサンダーボルト連打に俺の脳ミソが疲れたらしく猛烈に眠くなってきた。
「くっ」
俺は残り4体になったところで一旦手を止め、ミントポーションを瓶の7割程飲んで頭をスッキリさせた。いけるっ。
「サンダーボルト! サンダーボルトぉっ!!」
続けて撃ち続け、イエロージェムを3個残してウッドトロール全個体の頭部を粉砕したっ。
「よっしっ」
ミントポーションの残りを飲み干し、
(メイニーっ! 頼む! やっぱ力押しのセットでっ)
(わかりましたっ、気を付けて!)
(おうっ)
かなり離れた位置からメイニーに力強化のストロング、プロテクト、レジストの魔法を掛けてもらい、俺は一瞬で組み上げたハルベルトを手に、ようやく輝きの林の前衛へと飛び出していった。
景気付けに1発、イエロージェムを使って巨獣の兄の背にサンダーボルトを撃ってやったが、俺の付け焼き刃の魔法じゃあんまり通らなかった。
だが隙は多少作れたっ。
「せぇあっ!!」
俺は狼薙ぎで巨獣の兄の左前肢を切断してやった。
「ディッカ達は体勢立て直してくれっ」
ディッカの豆号もピクシー兄弟の盾も、もうボロボロだった。
「頼んだよっ!」
「死ぬかと思ったぁっ」
「めちゃ恨まれてるし~」
3人は一旦下がった。
「・・滅びろグリーンビートルっ! 滅びろブラウンカダックっ!! 全て滅びろっ!!!」
喚く巨獣の兄!
「破れかぶれ過ぎだぜっ?」
「グォオォォッッッ!!!!」
巨獣の兄は全身から放つ毛針と、口から放つ魔力の衝撃波、巨体での飛び付き攻撃を猛烈に仕掛けてきたが、俺は力任せのカウンターと、魔法の守護でなんとか凌いだ。
「タイマンはキツいかっ!」
あっという間にハルベルトが欠け、兜が吹っ飛ばされたっ。そこへ、
「お待たせっ! エアシェイバーっ」
風の刃を撃ちながら牡牛号に乗り換えたディッカが復帰してきた。
「ディッカ! 畳むぞっ」
「よしきたっ!」
俺は飲んでる間が無いので頭からエリクサーを被り、ウワバミのポーチから抜いたミスリル鋼の戦斧で投擲技、挽き肉旋風を放って巨獣の兄の腹を撃って動きを止めてやった。
「ダブルギガ実体誘導パンチっ!!!」
牡牛号の両拳を放ち、巨獣の兄の胸部と右前肢にめり込ましせるディッカ!
「固めますっ! アイスストームっ!!」
ずっと魔力を溜めていたメイニーがメガホンも使わず大きな声で、凍気の烈風を巻き起こし、巨獣の兄を氷漬けにしだしたっ。しかし、
「グゥッッ、許さない許さない許さないっ!!!」
まだ浅いっ。氷を破り、口からは衝撃波を撃つ構えの巨獣の兄!
「もう一押し!」
ディッカは牡牛号から抜け出し、霊体の姿で大量の荊を放って巨獣の兄の身体を縛った。
「往生際だぜっ!」
俺は続けての投擲技、獅子鷹落としで魔力を乗せたハルベルトを放ち、巨獣の喉を貫いて衝撃波を封じた。
「とどめだぁっ!」
「里長の息子なのに子供の頃遊んでくれてありがとなぁっ!!」
回復したアッチとソッチは2人でピクシー族からすると長剣になる、朝露の針の柄を2人で持って突進し、巨獣の兄の眉間に針を打ち込んだっ!
閃光っ!!!!
「グァアアアーーーッッッ!!!!」
アッチとソッチも吹っ飛ばされたが、激しい光の中、仰け反った巨獣の兄の身体は崩壊していった。
やがて立ち上る天へ昇る光の中で、ピクシーの乙女に抱えられたピクシーの青年が目を覚ました。
「・・ニカ?」
「うん。もう、行こう。疲れたね」
「ああ・・やっと・・」
2人のピクシーは光の中、天へと消えていった。
数時間後、荒れ放題になった輝きのブナ林にグリーンビートルの者達とブラウンカダックの者達が集まっていた。
「今後は同胞であるブラウンカダックの民の聖地への出入りを認めます」
「我々も鉱石の品々等の交易を認めよう。過ちは、繰り返すべきでない・・」
双方の里長は和解を確認し合っていた。
グリーンビートルとブラウンカダックの民の宴会となった翌日、俺達3人は森を出て取り敢えず次の郷、デニーアを目指し街道へ戻るべく、魔除けの香を焚きながら馬を進めていた。
「いやぁっ、1キロっ! まさか霊木の琥珀を1キロもっ、タダでゲットできるなんて! 金欠問題も一気に解決だわっ。だーかーらっ、飛行魔法道具とか転送門使わずコツコツ行った方がいいって言ったでしょう? ふっふっふっ」
上機嫌の姫号のディッカ。あちこち寄り道したい、ってのが本音だと思うけどさ。
「・・鉱石・・素材・・割安・・買え・・した」
言わんとすることはわかる地味な旅装と眼鏡に戻ったメイニー。
「というかお前ら魔女だったのかよぉ? 騙したなぁ?」
「森の外なんて始めてだぁっ! ふぁーっ! 楽しみぃーっ!!」
「・・・」
俺の兜の上にアッチとソッチが乗っていた。
「お前らついてこなくていいよ。森の外は魔力薄いぞ? ピクシーは辛いだろ?」
「里の秘宝の『真なるブナの実』を1個ずつ、宝物庫から持ってきたから大丈夫だぞっ? 木の魔力たっぷりだっ!」
「書き置きもしてきたし、大丈夫だっ!」
「いや普通に泥棒だかんな? 書き置きってそんな万能じゃないかんなっ?」
「小さいヤツだなっ!」
「というかお前だけ人間なのウケるっ!!」
「・・・」
そこでウケられてもな。
よくわからんが旅の仲間がまた増えた。ディッカの補修素材集めは一気に進んだが、どうなることやら。




