夜伽?
オスライテ平原にバハラ国人間族亜人族連合軍と鬼族8部族連合軍は対峙していた。
「撃てぇっ!!」
号令と共に銅鑼が鳴り、魔法兵達と弓兵、砲兵達が一斉に敵陣に攻撃魔法と矢と砲弾を撃ち込みだす。
ゴブリン族もヤツらの言葉の号令と共に銅鑼を鳴らし、ゴブリンシャーマンは魔法を、弓兵は矢を砲兵の砲弾の代わりに事前に召喚していたモンスター、パンプキンボムをけし掛けてきた。
両軍射程は足りない。バハラ国の矢面に立つのは、僧兵から申し訳程度に支援魔法の祝福を受け大型の盾を構える奴隷兵達だ。罪人、貧乏人、ゴブリン族以外の捕虜から構成される。
ゴブリン側はゴブリン族と他種族の混血者デミゴブリンのやはり奴隷兵達だ。
「耐えろぉーっ!! 死亡手当てより生存報酬の方が割はいいぞぉっ!!!」
奴隷兵の隊長達は必死で鼓舞する。両軍メチャクチャに着弾して吹っ飛ばされてく。
内に炎を宿す顔を掘ったデカいカボチャみたいなパンプキンボムも弾速は遅いが自爆炸裂の範囲はむしろ砲弾より広い。
散々なことになりつつも、やはり兵力と装備の差で、デミゴブリン兵の方の被害が大幅に大きい。
バハラ国の魔法兵とゴブリンシャーマンが魔力を使いきり、双方の弓兵や砲兵、パンプキンボムを操るゴブリンサモナーの配置を改め出すと、バハラ国側は歩兵と騎馬隊の出番だ。
「突貫っ!!」
両軍、違うリズムで銅鑼が鳴らされる。
残存の両軍の奴隷兵達は団子状に固まって突進を始め、バハラ軍はその隙間を埋める形でいくつか貴族達の騎馬兵用にルートと開けつつ、7割は傭兵で構成される俺達歩兵隊が突貫する。
僧兵の祝福は騎馬兵に集中する。俺はケチらずミスリル鋼で強化したフルフェイスの兜と簡易重量鎧を着込んでる。神の加護が無いなら金の加護だ!
「やりきってやるっ!!! オォォーーッッッ!!!!」
両手で抱えた矛槍の柄は霊木、金属部位は全てミスリル鋼で補強してある。防具を含め、傭兵が持つにゃもったいない装備だが、俺の傭兵ギルドとの契約は今月一杯。
荘園が台風の被害を受けた雇い主のウズ伯爵は、今月はこのオスライテ平原の闘いに兵を送るの精一杯。契約期間はあと7日あるが、実質これが俺の最後傭兵勤めだ。
奴隷兵じゃないが、出費が嵩んでも死んだらそれまでだ。契約上、損になるしな!
「ギギギィッ!!」
喚いて突進してきた運の無いデミゴブリン兵とゴブリン兵を竿状武器の技『狼狩り』で横一線に薙ぎ払って切断して仕止める。
続けてフラフラ飛んできやがった取り溢しらしいパンプキンボムも両断して素早く離れる。2つに割れてそれぞれ爆発しやがるからなっ。
目標はコイツらじゃない。
「ゴォアァーーッッッ!!!!」
大鬼族どもが吠える。ゴブリン軍側は騎馬兵が無い代わりにオーガ族を数十体投入していた。
突貫を止められるオーガと騎馬兵は相性が悪いから、歩兵の内、俺のような重装歩兵はコイツらを仕止めるのが仕事だ。
こんな体長3メートルはあるデカブツは弓兵辺りがやりゃいいんだが、こう乱戦になるとな。
「ゴォアッッ!!!」
大戦鎚をブン回すオーガ。逃げ遅れたこっちの奴隷兵2人が盾や兜ごと粉砕れて臓物と脳髄をブチ撒ける。
俺はブラストハンマーの一撃をハルベルトの鎚でハンマーの根元の金属の柄を撃って軌道を逸らし、回転の内側に飛び込んで躱した。
内側と言っても人間の体格の間合いじゃないまだ相手の肘の外側だ。対人戦のつもりだと距離感からして混乱する。もう慣れたが!
「セェアッ!」
斬り上げ技『大鷲返し』でオーガが両手首を切断し、派手に血を撒き散らして仰け反ったところ。捻り突き技『岩通し』で喉を突き破って倒した。
「ダイスケ・フユキが1体仕止めたぞっ!!!」
俺は吠え、近くのバハラ国兵達は沸き立った。
数千対数千の合戦でも平原での正面衝突は普通、そう掛からない。たった1時間程度でゴブリン族8部族連合軍は敗走し、バハラ国人間族亜人族連合軍は完勝した。
これでオスライテ平原周辺での戦況は大幅に優位になる。特に補給線の無い、平原の北のムウラク砦は連中は放棄することになるだろう。
ゴブリン族8部族の連鎖的な異常な過剰繁殖から発生したこの紛争も、そろそろ終わりが見えてきた。と言ってもいいかもな?
7日後、俺はオスライテ平原南部のバハラ国連合国軍の野営地の1つで傭兵契約の満了を迎えた。
ギルドのテントの1つで前線まで出張ってる事務員相手に書類にサラサラと書く。へへっ、俺、教会学校の6年まで出てるから読み書きはバッチリだ。 読み書きできないヤツらはクソみたいな契約にされたりするんだぜ?
「ダイスケ、最後は悠々やりやがったな? 応援要請5回も断りやがって」
「遊軍傭兵隊なんて使い捨てだろ? やらないよ」
「ちゃっかりしてやがる。もうすぐゴブリンどもとの戦争も終わりだ。2度と戻ってくるなよ? カタギが無理なら暫く冒険者でもやってみろ」
「あ~・・まぁなぁ」
曖昧に応え、俺は荷物にならないようにほとんど金貨で契約金や保険の解約料なんかを纏めて受け取った。
「それじゃ」
俺はもらう物はもらって立ち去ろうとしたが、ふとウズ伯爵の得意気な顔の肖像画がカウンター脇に飾ってあるのを目に止めた。
最後は尻込みしてくれたおかげで楽はできたが、物資をケチり、他の貴族との張り合いや王族や大商人達へのゴマ擦りの為の無駄な指令で死んだ仲間は多い。
俺はカウンターにあったペーパーナイフを肖像画の眉間に投げ刺してやった。
「オイっ、ダイスケ! ウチの大口スポンサーだぞ? 勘弁しろよ」
「へへっ、うっかりうっかり」
俺は今度こそ、傭兵ギルドのテントを後にした。
重い鎧と兜と動き難い厚手の鎧下は処分し、あとは銅像を売った金と金貨で、俺は身軽な旅装を整えることにした。
なんだかんだで都市部の郊外の中古の家を買って一年くらいはひっそり暮らせる金は手に入った。田舎なら下手したら一生、半自給自足で暮らしていけそうだ。
が、若隠居するつもりは無い。今年で17歳だ。冗談じゃないね。かといって商売する気もないし、今さら教会学校に入り直すってのもなぁ・・。
というワケで俺はオスライテ平原南部から一番近い大都市、リラを目指し旅をしながらリラの冒険者ギルドに入るかどうかじっくり考えることにした。
ケチらず一通り整え直すと、所持金は一気に3分の1以下になったがまぁこんなもんさ。
防具は上等な軽量鎧に額当て、ハルベルトは組み立て式に改造した。馬も買ったし、バカ高いウワバミのポーチも買った。他にもなんだかんだと。
「よし! 行くかっ」
俺は満了になった翌日の夜明けには馬に乗って野営地を出た。
近いと言っても都会のリラまではそれなりにある。取り敢えずは途中の郷や田舎町にいくつか寄りながらの旅だ。
俺は明星を見上げながら、馬を進めた。
・・オスライテ平原南部の端沿いには、近くの郷の者達から暗森と呼ばれる魔力の強い深い森があった。
その奥に周囲を魔除けの石柱に囲まれた、琥珀でできた若い魔女の像があった。像には影でできたムカデのような奇怪な悪魔が絡み憑いている。
石柱の1つは破壊されており、そこが魔除けの陣の穴になっていた。
ムカデの悪魔は身体から触手のように伸ばしたムカデ状の分体をその穴目掛けて多数放った。外へ自分の一部だけでも出したいらしい。だが、
「ファイアアローっ!!」
若い娘の声が暗森に響き数十の炎の矢が放たれて、ムカデの分体を全て焼き払った。
「ジィイイイッッッ!!!!」
悔しがって唸るムカデの悪魔。
「ちょっと目を離した隙にまた石柱壊しやがってぇっ!!」
怒り心頭の様子で砕かれた石柱の側にふわりと降下してきたのは先程の声の主、琥珀の像と全く同じ姿のしかし身体の透けた、霊体の状態の若い魔女だった。
「サイコキネシスっ! ふんぬぅぅっ!!」
魔女の霊体は念力魔法を発動し、背後に置いていた新しい魔除けの石柱を引っ張り出すと壊れた石柱の上にドスンっと置き、魔除けの陣の穴を塞いだ。
「・・・」
悪魔は琥珀の像に憑いたまま大人しくなり、霊体の魔女は一息ついたが、
「フゴォオッ!!!」
なんの脈絡も無く、近くの繁みから牙を多数持つ大猪型モンスター、ファングタンクが霊体の魔女に突進してきた。
「んだよっ、霊体パンチっ!!」
霊体の魔女は右の拳に魔力を込め、ファングタンクを殴り飛ばして牙を折り、退散させた。
「しち面倒臭い時に関係無い野良モンスターが絡んでくるんじゃないよっ! ・・あっ」
霊体の魔女の身体は酷く薄くなり、完全に消え出していた。
「ヤバっ? 力使い過ぎたっ。早くパワースポットに戻らないとっ!」
自分と同じ姿の琥珀の像を振り返る霊体の魔女。琥珀の像はよく見るとあちこちヒビが入り始めている。
「くぅ~っっ、もうあたしの身体の方も持たないじゃんかっ?! 急がないとっ、早く、言い感じの通りすがりの、後腐れ無さそうな! 暇で超腕利きの旅の戦士とか見付けないとっ!!」
都合のいい条件を並べ立てる霊体の魔女。
「はぁ・・というかあたし、この状態が長過ぎて独り言凄いな。思ってること全部口に出しちゃうわ。元に戻れても、不安しかないわ・・・」
ボヤきながら、霊体の魔女は暗森のどこかにあるパワースポットへと弱って透け過ぎた姿でフラフラと飛び去っていった。
残されたムカデの悪魔は沈黙し、しかし、琥珀の像はビシッと、さらにヒビが深くなっていた。
メルメル鶏の小串焼きの肉に噛み付いて串を引き、もぐもぐ噛んでメルメル鶏と青ピーマンとタレのハーモニーを楽しんだ。
「琥珀姫?」
カウンター越しに酒場の店主に問い返しながら、燕麦のエールで流し込む。ここの燕麦エールの方は微妙だな。炭酸入りの草の汁みたいだぜっ。
俺は軍の野営地出て10日、平原南部の端に近い2つ目の郷に来ていた。
「この郷の先の平原が途切れると森が多いんだがな、街道から東に外れて旧林道に入ると暗森って俺らが呼んでる森があるんだよ? そこの奥に、琥珀の姫の像があるんだと。20年くらい前までは神隠しだなんだ、ってちょっと有名だったんだが、最近はサッパリ話聞かなくなったな」
「ふぅん?」
品書きを見る。お、冷やしスライム素麺あるな。
「その美人さんの像までたどり着くと、運が付くとか、夜伽してもらえるとか」
「夜伽っ?!」
俺は反応してしまった。
「いや噂だけどな。とにかく珍しいだろ? リラで冒険者になるつもりなら、ちょっとその練習がてら暗森に行ってみちゃどうだ? 旧林道の魔除けはまだ利いてるらしいぜ?」
「琥珀姫、運が付く、冒険の練習に、・・夜伽っ!」
なんか知らんけど、見付けただけで夜伽してもらえるという謎システムっ! 純粋な冒険心でっ、確認せざるを得ないっ!!
というかここまでずっと魔除けの利いた街道を通ってきたのと、それなりの規模の軍の野営地が近いから野盗等も絶無な地域を進んできたから『普通に馬で旅してるだけ』の状態だった。
満了前に骨休め期間が少しあったとはいえ旅立ってからもそんな調子だと、さすがに俺は退屈になっていた。
琥珀姫とやらを探してみよう。結果的に夜伽してもらえたとしてもそれは不可抗力と言う物だと言うより他無し! だっ! ガハハっ!!
暗森の奥には琥珀の像の他に大きなウロを持つ霊木があり、そこは魔力のパワースポットとなっていた。
霊体の魔女はそこで眠って先程消え掛けた身体を回復させていたが、
「っ?!」
身震いしてを目覚めた。
「ムカデ野郎とは別の、ただならぬっ、より生理的に無理なゲスい邪気を感じたっ!!」
霊体の魔女は右の拳に魔力を込める。
「場合によって! 今のあたしの最大の技っ、霊体・デッドオアアライブ・パンチ、をお見舞いせざるを得ないっ!!」
右の拳に宿した圧倒的な魔力を高めまくる霊体の魔女なのだった・・




